【一触即発】タイ・カンボジアの軍事衝突と日本・中国の盧溝橋事件

今月4日、微笑みの国・タイと隣国とのあいだで、まったく笑えない事態が発生した。
タイとカンボジアの軍が国境で衝突し、約10分間の銃撃戦となったが、「双方に事実誤認があった」というかたちで事態は収拾されると思われた。しかし、カンボジア側はタイ軍から先に攻撃があったと非難し、銃撃戦で兵士1人が死亡したと発表。首相は戦闘服を着てタイへの敵意をむき出しにした。
一方、タイ側は「自国の主権を守るための正当な自衛措置」であり、国際法に基づいた適切な対応だったと強調し、首相は「平和を愛するが、戦いも恐れない」と国民に訴えた。
その後、すぐに両軍が増援部隊を派遣したため、タイとカンボジアの緊張は一気に高まっている。

最近、インドとパキスタンの間で軍事衝突が起きたと思ったら、今度はアジアの東でタイとカンボジアが激しく対立している。この事態を不安そうに見守る日本のネット民。

・なんてこっタイ
・俺たち周りが海で良かったよな
・軍事衝突ブームなのはどこの国も戦争しないと現支配者が権力維持できない感じなんだろうな
・今月タイに行くのに、空港だけは何もすんなよ
・猫ひろしも徴兵されるのか?

このニュースを見て、七夕の日に起きた盧溝橋(ろこうきょう)事件を思い出した。

 

盧溝橋

 

現在の北京市の西南に盧溝橋という橋がある。13世紀にこの地を訪れたマルコ・ポーロが「世界中どこを探しても匹敵するものがないほどの見事さ」と絶賛した橋だ。
1937年(昭和12年)の7月7日、そこで「謎の発砲事件」が発生する。

当時の日本側の説明では、この日に軍の夜間演習が行われ、その最中に銃撃を受けた。その後の点呼で兵士の1人が行方不明となり、近くで中国軍が集結していたことから、日本軍は中国の攻撃を受けたと判断し、中国軍に「無法行為」を厳しく非難した。
行方不明の日本兵はその後すぐに見つかったが、それを知らない別の捜索隊が中国軍から銃撃を受け、「(中国軍の)対敵意志の確実なること一点の疑いなし」と信じ込む。
一方、中国側の主張はこうだ。
日本軍が夜間演習をしていた時、将兵は熟睡中で銃撃などしていない。日本軍は兵士の失踪を口実に部隊を率いてやってきて、中国領内での捜査を要求した。それを拒絶すると、日本軍は盧溝橋を包囲した。

この時は日中が話し合い、停戦協定が結ばれて一件落着したかに見えた。しかし、その後も日本軍のトラックが中国軍に爆破され、4名が死亡する大紅門事件などが発生し、中国側は「戦争を求めていないが、やむを得ない場合は徹底抗戦する」と表明して、ついに日中戦争が始まった。
そのきっかけとなった事件は日本では盧溝橋事件、英語圏では「マルコポーロ橋事件(Marco Polo Bridge incident)」と呼ばれている。

 

ここで話を戻そう。
国境で衝突事件が発生した後、タイとカンボジアの首相が直接会談し、事態の沈静化と問題の平和的解決に向けて動き出した。
タイとカンボジアの関係はあまり良好とは言えないが、印パよりはずっとマシ。両国政府は事態をこれ以上悪化させたくないだろうし、これから収束に向かうと思われるが、国内にはそう思わない人たちもいる。タイの陸軍は政府に国境の閉鎖を要請したし、あるタイ人はSNSにこんなことを書き込んだ。

「เหตุปะทะช่องบก ก็แสดงให้เห็นละว่าเขมรไม่เคยคิดดีกับไทยเลย ล้ำเส้น」

機械翻訳をもとに日本語にすると、「今回の衝突は、カンボジアがタイを決して良く思っていないことを証明した。彼らは一線を越えた」という意味のようだ。
いま両国民がそう思っているだろうし、政府が国民を納得させながら、問題を平和的に解決するのはハードルが高い。

日本は、小さな衝突の処理に失敗し、全面戦争に発展したという痛い歴史を持っている。破滅的な結果の始まりは小さな出来事だった。そんな事例は世界の歴史でも、個人の生活でもある。タイとカンボジアはそうならず、これからテンションが下がることを願うばかりだ。

 

 

東南アジアを知りましょ! 「目次」 ②

【アジアの例外】日本・タイが植民地にならなかった理由

【アユタヤ滅亡】今でもタイ人がミャンマーを“嫌う”わけ

ミャンマー人&カンボジア人の話 タイや日本、政治経済など

日本とカンボジアの関係史 さすが日本人! と称賛されたワケ

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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