去年の10月、モンゴル人、トルコ人、インド人、タンザニア人、ドイツ人、ブラジル人と一緒に京都旅行に行ってきた。
出身地はバラバラで文化や価値観も違うけど、彼らが共通して感じた日本人の2つの特長があったから、今回はその美点を紹介しようと思う。
みんな朝から動き回って、興奮して写真を撮りまくっていたから、自然とライフポイントを消費してお昼ごろになるとお腹がすいてきた。
そこで、日本料理が食べたいというリクエストとベジタリアンのインド人のことも考えて、ネットで見つけた祇園の近くにあるうどん屋に行くことにする。
そこは、おじいさんとおばあさんがやっている小さなうどん屋で、暖簾(のれん)をくぐると、昭和にタイムスリップしたような懐かしさを感じた。
ひと昔前の日本の食堂の雰囲気は、外国人にも新鮮でよかったのだけど、残念ながらメニューが理解できなかった。
なんとか文字を読むことができても、その意味はナゾで、どんな食べ物か彼らには想像できない。
日本に数年いて「たぬき」や「きつね」を知ってるブラジル人でも、あんかけ、けいらん、のっぺい、かやくはわからなかった。
日本語のできる外国人が「すみません、これはどんな食べ物ですか?」と尋ねると、おばあさんの店員は「こっちへ来て」と外国人を店の外へ連れ出して、このサンプルを見て選んでくださいと言う。
まさに「百聞は一見に如かず」で、英語なら「seeing is believing」。
これなら、中央アジア(か東アジア)、南アジア、中東、アフリカ、南米、ヨーロッパの人でもどんな食べ物かすぐに分かる。
それでも分からない部分は想像力で補完し、各自よさげな食べ物を注文することができた。
猫舌のインド人以外の外国人がうどんを食べ終わった後、
「ボクが日本に来て、驚いたことの一つが食品サンプルなんだ。あれは、とても素晴らしい発明と思わないか?」
とドイツ人が言い出す。
「確かに!」とみんな納得するから、彼らに食品サンプルの感想を聞いてみた。
外国人用に英語のメニュー表を用意している店があっても、その英語が間違っていて、まったく外国人の助けになっていないことがあるらしい。
ボクもどこかの店で、グーグル翻訳をそのまま印刷したようなデタラメな英語や、「かやく」を「kayaku」とローマ字表記しただけのメニュー表を見たことがある。
その点、食品サンプルの正確さとわかりやすさは圧倒的だ。
それについて彼らが感心したポイントには、「クオリティー」と「正直さ」の2つがある。
まず、食品サンプルを見て注文すると、それとそっくりの料理が出てくるところがスゴイ。
それぞれの具材の形や色、全体のバランスなど、細部にまでこだわっているから、サンプルはため息が出るほど精巧に作られている。
中にはリアルすぎて、本物と見分けがつかない食品サンプルもあった。
日本人は子供のころから箸を使っている影響もあるのだろうけど、手先がとても器用で、モノづくりのレベルが高い。
ある時、街を歩いていると、市民が趣味で作ったプラモデルの展示会があったから、そこに入ってみると、想像をはるかに超えたクオリティーで、母国ならきっとプロの作品で通じる。
素人作品の無料展示会だと思ったら、実際そうなんだけど、その正体はとんでもなかった。
指先が器用とか、鋭い観察眼だとかそんなチャチなもんじゃなく、日本人の恐ろしいものの片鱗を味わった気分だ。
そして、食品サンプルに限らず、日本では「見た目詐欺」がとても少ない。
母国のレストランでは、メニュー表にある写真が「盛りすぎ」で、実物が出てくると失望することがよくある。
でも、日本の食品サンプルと実物は、中身や大きさでほとんど差がない。
見たものがそのまま出てくるから、サンプルの正確さと店の誠実さには感心させられる。
もちろん、日本にも「見た目詐欺」の被害はある。
特に2010年の「スカスカおせち事件」は衝撃的だった。
ネットでおせち料理を注文した人が届いたモノを見て、「写真と中身が違いすぎる!」という苦情を写真付きでネットにアップ。すると、広告画像と実物の落差がすごすぎて、世間の怒りと同情が集まり大炎上し、会社側は謝罪&返金に追い込まれた。
でも、この一件で、米企業のグルーポン・ジャパンのイメージ悪化は決定的となる。
約10年後にグルーポンが日本からの撤退を発表した時は、「スカスカおせち事件」で受けたダメージを回復できなかったことが原因にあると言われた。
逆に言えば、日本人はこの手のウソにはとても厳しいということがわかる。
食品サンプルで外国人が感心した日本人の正確さと誠実さは、こうした日本社会の空気も関係しているはずだ。
動画に寄せられた外国人のコメントを見てみよう。
・私は食品サンプルが大好きです。子供のころから、ずっと魅了されてきました。
・食品サンプルが作られる様子は、一日中見ていても飽きない!
・とてもおいしそうだけど、食べられないものには愛情と憎しみ(love and hate)を感じる。
・あのサンプルは、乾燥させた食品を変な方法で保存したものだと思っていた。
プラスチックで作られた物だなんて、思いもしなかったよ(笑)。
・あのレタスは本当に、お・い・し・かっ・た。
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