初代大統領は奴隷オーナー 米社会で“闇落ち”するワシントン

 

1775年のきょう7月3日、アメリカ独立戦争でジョージ・ワシントンが大陸軍の総司令官に就任した。
彼をトップとする大陸軍がイギリス軍を相手に戦い、ちょうど1年後の1776年7月4日、独立宣言が採択され、イギリスに完全なサヨナラを告げてアメリカ合衆国が誕生。
現在、この日はアメリカの独立記念日になっている。

初代アメリカ大統領となったワシントンは、アメリカの首都名になったし、紙幣には肖像画が描かれている。

*その気になれば国王になることもできたが、ワシントンはその選択をしなかったということで、彼は「王にならなかった男」とも言われる。

ワシントンのイメージはアメリカ文化の象徴だ。
英語版ウィキペディアの説明によると、ワシントンはアメリカ史上最も偉大な大統領の一人として、一般的な世論調査でも、学者による世論調査でも常に上位にランクされている(リンク先は下にアリ)。

「Washington consistently ranks in both popular and scholarly polls as one of the greatest presidents in American history.」

しかし、最近のアメリカでは、こんな輝かしい経歴をもつ人物が少しずつ闇に染まっている。

 

つい最近、人気バンドの Mrs. GREEN APPLEが新曲『コロンブス』のMVを公開したところ、大炎上してしまった。
コロンブスは1492年にアメリカ大陸に到達し、ヨーロッパ人にアメリカ航路を伝えた人物だ。
これまでは英雄視されていたが、最近のアメリカでは、彼が先住民を虐殺したり奴隷にしたりした暗黒面がクローズアップされ、偉人から悪人に転落しつつある。
それにもかかわらず、『コロンブス』のMVでは、メンバーの1人が西洋人の衣装を着てコロンブスに扮し、島にいた類人猿に人力車を引かせたり、進んだ文明を教えたりする場面があったため、「差別的だ!」とか「奴隷制を容認するつもりか!」といった批判が殺到した。

【日本人の死角】ミセスが“コロンブス”で大炎上した件

 

「闇歴史」なら、ワシントンにもある。
彼はアフリカ系アメリカ人(黒人)の奴隷を所有したり、貸し出したりしていた。彼の人生で、577人以上の奴隷が彼の農場(マウントバーノン)で生活し、働いていたのだ。

Washington owned and rented enslaved African Americans, and during his lifetime over 577 slaves lived and worked at Mount Vernon.

George Washington

 

ワシントンは奴隷を買ってオーナーになっただけでなく、他人に貸し出して利益を得ていた。
このほかにも彼は先住民を人間とみなさず、「猛獣 (beasts of pre)」と見下し、多くの命を奪った。

 

ワシントンは常に歯の痛みをかかえていた。
この肖像画でも口を固く閉じ、その痛みに耐えている様子がうかがえる。
ワシントンは奴隷の中から、丈夫そうな歯を引き抜いて、自分の入れ歯に使っていたという説もある。

 

アメリカで人権意識が高まり、人種差別反対の動きが盛り上がってくると、ワシントンのダークサイドが注目を集めるようになり、彼への見方も変わってきた。
2021年にはサンフランシスコ市で、「ワシントン」の名がつけられた公立学校の校名を廃止することが決められた。

ただし、ワシントンは 250年前に生きていた人物だ。
そんな時代の人に 21世紀の常識や人権感覚を当てはめたら、ツッコミどころはいろいろある。
だから、アメリカでもどこまで批判するべきか、判断に悩んでいるらしい。

朝日新聞の記事(2020年8月4日)

ワシントンやコロンブスも…米国の偉人像撤去やりすぎ?

アメリカ独立宣言に、「すべての人間は平等である」と書いたジェファーソンも奴隷を所有していたのだ。
日本で言えば、令和の基準で江戸時代中期の人を見たら、「闇落ち」する偉人は何人もいるだろう。
人権を守ることや差別に反対することは重要だけど、自国の歴史に対する「自殺行為」には限度が必要だ。
ワシントンについては、現在でもアメリカ史上最も偉大な大統領の一人で、世論調査でも常に上位にランクされているということだから、コロンブスほどの悪者ではなさそう。
でも、価値観の分からない外国人に向かって、彼を称賛するのはやめたほうがいい。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。