【1984】韓国社会で慰安婦の“強制連行”を否定したら?

 

韓国は日本と同じく自由民主主義の国で、さまざまな価値観や考え方を共有している。だから、言論の自由も保証されていて、政治や宗教については支持も反対も、擁護も批判も自由にすることができる。とくに大統領については、「言いすぎじゃね?」って思うほど。
だがしかし、歴史認識に関しては、『1984年』のような状態になってしまう。

『1984年』はジョージ・オーウェルの小説で、全体主義国家のオセアニアを支配する独裁者、ビッグ・ブラザーという有名なキャラクターが出てくる。オセアニアのすべての国民は当局の監視下に置かれ、街のいたるところに「Big Brother is watching you(偉大な兄弟があなたを見守っている)」というポスターが貼られていて、間接的にいつもビッグ・ブラザーの管理下にあることを自覚させられる。
ビッグ・ブラザーや党に批判や反対することは絶対に許されない。そういう人間は「国民の敵」として逮捕され、「愛情省」にぶち込まれる。そこで当局が拷問して再教育を行い、ビッグ・ブラザーを心から愛するように精神を改造する。
全体主義をやゆするこの本は世界中で支持され、その“元ネタ”であるソビエト連邦では1988年まで発行や発売が禁止されていた。

 

『1984年』のドラマ

 

韓国では、歴史認識については、国民感情という「ビッグ・ブラザー」があらゆるところにいて社会を支配している。これに反する言動をするとすぐに摘発され、“罰”を受けてしまう。
最近はこんなことがあった。

中央日報の記事(10/23)

「慰安婦歪曲発言の韓神大学教授に懲戒を」…韓国烏山市議員が要求

韓神大学の社会学科のA教授が授業で、慰安婦問題についてこんな発言をしたという。

「強制徴用されたという証拠がない。強制的に連行されたのではなく金儲けをして帰ってきた」

 

韓国の一般的な認識や常識、社会正義では、慰安婦の女性が日本軍によって強制連行されたことは歴史的事実とされている。
しかし、教授はその説には根拠がないと否定した。それだけでなく、慰安婦は食べていくために父親や叔父に売られ、そのお金を前払いで受け取った記録があると主張し、「売り飛ばした当時の父親や叔父たちを非難すべきだ」と言った。
これだけで、すでに韓国国民の感情を害しているから、現実の法では問題ないとしても、それを超える「国民情緒法」が適用される。
さらに教授はこうも言った。

「日本の人々が謝罪を35回もしたのに謝罪していないと言う。植民地時代に対して毎日首相が謝り、さらに天皇も謝罪した」

 

強制連行説には事実と裏付ける根拠がないため、日本政府はずっと否定してきた。これまで日本が韓国に対し、何度も謝罪していることも間違いない。が、天皇が謝罪をした事実はない。
1990年に、日本が盧泰愚大統領を国賓として招いた際、宮中の晩餐会で、天皇(現在の上皇さま)がこう述べられた。

「我が国によってもたらされたこの不幸な時期に,貴国の人々が味わわれた苦しみを思い,私は痛惜の念を禁じえません。」(主な式典におけるおことば(平成2年)

教授はこれを謝罪と理解したかもしれないけど、日本側にその認識はない。天皇は政治問題に関わることができないから、もし謝るとしたらそれは総理大臣の仕事だ。

 

問題視された発言について、教授は主流ではない視点を紹介するためだったと説明したが、学生も議員も納得しない。
学生らは「教授が誤った歴史認識を持ち、講義で学生たちに堂々と話している」と怒り心頭で、教授の謝罪を要求する。
最大野党「共に民主党」の議員たちは、教授が歴史を「わい曲」発言をしたという理由で、大学に教授の懲戒処分を要求した。
韓国では、強制連行を否定することは「妄言」で、元慰安婦に対する「侮辱」とみなされる。

ネットユーザーからは、「日本の犬」「親日売国奴」「追放しろ」といった感情的なコメントが多かったが、「感情的にならないで、研究と討論によって何が事実で何が違うのか、はっきりさせるべきだ」といった冷静な指摘もあった。
後者は少ないだろうけど。
学生なら、慰安婦問題について改めて見直し、朝鮮の女性が日本軍に強制連行された根拠を示したり、教授の言う女性が身内に売られた記録が間違いであることを証明したりすればいい。

韓国で知られているかわからないが、1930年代には朝鮮人の業者などが朝鮮人や日本人の女性を売ったり、売り飛ばそうとしたりしたことが発覚し、日本の警察に捕まる事案が続出した。
「朝鮮人が女性を甘言・誘拐により、売春宿に売却しようとして日本の警察に逮捕された例が数多く報道されている。」(軍慰安所従業婦等募集に関する件

いつの間にかこの主語が入れ替わって、「日本軍が連れ去った」という話が生まれたケースもあるのでは?

 

確実な資料をもとに、研究や話し合いによって真相を明らかにするべきだけれど、韓国ではそれがすごくむずかしい。
「強制連行は絶対的な事実」とされ、社会的にはこれを疑うことさえ許されていないから、「その説はじつは間違っているかもしれない」という前提で、真相を究明しようとするアカデミックな行為も「親日売国行為」として批判の対象となる。
その結果、根拠が見つからないため、強制連行が「なかった」と言う教授がいたら、学生は「妄言」と罵倒し、議員は処罰するよう大学に圧力をかける。つまり、教授は社会的に居場所がなくなってしまう。

世宗大学の教授・朴裕河(パク・ユハ)氏がそれで地獄のような経験をした。
朴氏は著書『帝国の慰安婦』の中で、慰安婦の「強制連行」説と「性奴隷」説を否定したことで世間から「売国奴」とののしられ、裁判所から有罪判決を受けて、大学には給料を差し押さえられた。
最終的には最高裁で無罪を言い渡され、無実が証明されたが、精神的にかなり追い詰められた。

【全体主義的暴力】韓国で慰安婦問題の定説を否定すると?

日本の基準からすると、学術研究の成果を発表した大学教授に対し、有罪判決が出ることは考えられない。韓国にやさしい毎日新聞もこの時ばかりは韓国社会の“空気”を批判した。(2023/10/26)

「学問の自由」抑圧の懸念回避 「帝国の慰安婦」著者の裁判

2017年に朴氏が罰金刑の有罪判決を受けると、100人以上の日韓の研究者らが「身の安全を確保するためには、国内の主流集団が正しいと認めた歴史認識のみに従わなければならなくなる」と抗議声明を発表したという。

 

国民情緒に異論を唱えると「国民の敵」に認定され、拷問ではないが精神的苦痛を与えられ、「慰安婦は日本に強制連行されました」と認識を変えるよう、社会全体から迫られる。
これでは、ビッグ・ブラザーのいる『1984年』を連想させてしまう。
慰安婦問題について、「研究と討論によって何が事実を究明されるべき」と言う人がいたり、朴氏に無罪を言い渡す最高裁があったりするから、もちろん韓国は全体主義国家のオセアニアとは違う。しかし、韓国は先進国なら、もう少し学問の場で言論の自由を認めてもいい。
少なくとも、主流ではない視点を紹介するぐらいは。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。