【川口のクルド人】日本に住むトルコ人から見た“病院騒動”

 

「国を持たない民族」といえば、以前はユダヤ人が有名だったけれど、今はクルド人が知られている。彼らはトルコ東部、シリア北部、イラク北部、イラン西部にまたがる地域に住んでいて、その数は推定3000万人。

日本にいるクルド人は2000〜3000人とされ、とくに埼玉県川口市のあたりに集中して住んでいる。在日クルド人のほとんどがトルコ出身で、トルコ国籍を持つ人たちだ。
その存在が全国に知られるようになったのは、2023年7月に「川口クルド人病院騒動」が発生したことによる。

その直前、女性をめぐるトラブルから、クルド人のあいだで刃物で切りつける殺人未遂事件が発生し、ケガをした人が川口市内の病院に運び込まれた。すると、それぞれのグループから合計100人ほどのクルド人が病院前に集り、乱闘騒ぎが始まって、怒声が響き渡るなど異様な雰囲気に包まれた。この一連の騒動で、パトカーや機動隊が出動し、殺人未遂の疑いなどで約10人が逮捕された。
病院の救急医療業務は5時間30分も停止する。救急車が患者を乗せても、搬送先が決まらないといったトラブルはあったが、命にかかわる事故が起きなかったのはラッキーだった。

しかし、それで終わりではない。
全員が不起訴処分になったことで(理由は不明)、川口市議の奥富精一氏は、

「全員が不起訴処分では、日本人の安全は担保されない。刃物を持って人を襲うような人たちが野に放たれることは、川口市民には恐怖でしかない。それは、もはや『共生』というレベルの話ではない」

と述べている。

 

クルド人の男性(19世紀)

 

「病院騒動」の中心人物はクルド人で、地域住民はその騒ぎに巻き込まれた格好になる。このクルド人はトルコ国籍だから、日本に住むトルコ人も無関係ではない。しかし、彼らの声を届けるメディアはほとんど見当たらない。
今年の夏、日本の会社で働く20代のトルコ人女性と会ったとき、この騒動について話を聞いてみたので、バックグラウンドを紹介した後に、彼女のその感想を書いていこう。

そのトルコ人の祖父はクルド人だ。だから、大ざっぱに言うと父親にはクルド人の血が50%、彼女には25%流れている。おじいちゃんの家はトルコの東部にあって、そこへ遊びに行くと、村にいる祖父の親族や知り合いが集まって温かく歓迎してくれた。

*トルコでは西部にトルコ人、東部にクルド人が多く住んでいる。しかし、彼女や父親のように混血の人はたくさんいるから、国内でトルコ人とクルド人を完全に切り離して考えることは難しいらしい。

これまでさまざまなクルド人と交流してきた経験から言うと、彼女にとってクルド人は良くも悪くも、すべてにおいてトルコ人の「上位互換」になる。
日本人に比べると、トルコ人は感情的で喜怒哀楽をはっきり表すから、フレンドリーで怒りっぽい。
クルド人はトルコ人よりもさらにフレンドリーで明るく、気性が荒い。もともと彼らには母国がなく、自分たちの住む場所を守るために戦ってきた歴史があり、その考え方が尊重されている。彼らは誇り高く、他人に屈服することを極端に嫌う。

そんなことで、彼らはすぐにケンカを始めるから怖い。それに、ナイフなどの武器を使うから深刻な事態になりやすい。街中で何かのきっかけでクルド人同士が争いになり、仲裁に入ったトルコ人がナイフで刺され、死亡する事件は珍しくない。彼女の父は警察官で、その現場に何度も行ったことがあり、そんな話を何度も聞いたから、よく知っている。
クルド人は身内や仲間を大切にする気持ちがとても強く、だれか1人が被害にあうと、すぐにメンバーが集まって騒ぎが大きくなる。だから、昔から父に「クルド人のケンカが始まったら、すぐにその場から離れなさい」とよく注意された。

彼女も川口の病院騒動を知って驚き、背景を調べてみたら、上の話のような展開だったから、「やっぱり…。日本で騒ぐなよ」と不快になり、「これでトルコ人のイメージが悪くならないか?」と、騒ぎに巻き込まれることに不安を感じたという。

 

以上は友人の主観的な見方なので、
客観的な意見を探すと、ケンブリッジ大学のウェブサイトにクルド人の性格についての説明があった。
クルド人は山岳民族であり、自由を愛して激しい情熱を持ち、一族の誇りを持つといった山岳民族の特徴をすべて持っている。そしてこれらの特徴から、クルド人はちょっとした挑発から、血で血を洗う争いに熱中する傾向があるという。

These primary traits dispose the Kurd to fly to arms at small provocation, and engage with zest in bitter blood feuds.

The Character of the Kurds as illustrated by their Proverbs and Popular Sayings

 

川口の病院騒動では、クルド人の“激しい情熱”がマイナスの方向へ一気に出てしまって、あんな大きな事態に発展したようだ。
不幸なことに、日本人にはその映像が衝撃的で、ネットを見るとそれがクルド人の第一印象になった人が多いように感じる。
その印象が強すぎて、フレンドリーで温かい心を持っているといった、クルド人の良い面はあまり見えなくなっていると思う。

ちなみに、ボクはこの問題については、川口市長の考え方を支持している。
市長は20232年に国に対し、不法行為を行う外国人は法に基づいて厳格に対処してほしいという内容の要望書を提出した。
クルド人だけでなく、日本の法を守らない外国人には強制送還などの厳しい対応が必要だ。一線を越えると、日本にはいられなくなるという実例を示さないと、日本の多文化共生は不可能になる。一部の人のせいで、在日クルド人全体が風評被害を受けてはいけない。
明日27日に投開票が行われる衆議院選挙の埼玉2区では、いわゆる「クルド人問題」が争点になっている。市民がどんな判断を下すのか、結果を見てみよう。

 

 

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2 件のコメント

  • この記事の最後の段落、完全に同意します。当事者である市民の判断を待ちたい。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。