「この日本語って、英語でなんて言うんだ?」
そう思って調べてみると、文字どおり、無駄足を踏んでしまうことがたまにある。
たとえばアメリカ人やイギリス人と話をしていて、盆栽や枝豆について辞書で引くと、それぞれ「bonsai」と「edamame」でよかったことが分かって、しばし虚脱感に包まれた。
日本生まれで海外に無いものや現象は、日本語がそのまま英語になるという原理は分かる。でも、サムライ、ショーグン、スシ、スキヤキといった有名なものならいいが、マイナーな日本語だと英語化されているかどうかが分からない。
それで英語を調べたら、「日本語のままでじゃん…」と調べる必要がなかったことに気づく。
外国人と一緒にいると、そんなふうにムダに一周してしまうことがたまにある。
最近、バングラデシュ人、ベトナム人、ミャンマー人、ウクライナ人とハイキングに行ったときにも、そんなことがあった。
ハイキングの途中、静岡県民が世界に誇ることのできる唯一のもの、富士山が頭を見せたから、外国人が「おお〜」と歓声をあげてそのまま撮影タイムに突入。それが終わったころに、イスラム教徒のバングラデシュ人が「これは…、みかん? でも、ずいぶん大きい。これは何だ?」と目の前にある果実を指さして質問をする。
「ああ、それはハッサクだよ」と言っても、彼を含め、その場にいた5人の外国人には通じない。
「君はハッサン(イスラム教徒によくある名前)だよね? この中ではいちばん互換性が高いはずなのに、知らないの?」と聞いても、そんな果実は聞いたことがないと言う。
ハッサクを英語で何て言うのか調べたら、「Hassaku(orange)」だったでござる。英語版ウィキペディアの項目名も「Hassaku」になっている。そこで初めて、実はハッサクは日本生まれであることを知った。
幕末の1860年に今の広島県で、かつて瀬戸内海で活動していた村上水軍の拠点があったところで、お坊さんが境内でハッサクの原木を発見した。その後、ハッサクが栽培されるようになり、戦後になると和歌山や愛媛などにも広がった。
「村上水軍」というのがポイントだ。
彼らは東南アジアにまで勢力を広げていたから、現地の苗木や果実を持ち帰り、長い歴史の中で、日本の柑橘と交配してハッサクが生まれた可能性が指摘されている。
朔(さく)を英語にすると「new moon」で、新月を意味する。太陰暦で月のはじめの日を朔と言った。朔日(さくじつ)はその月の最初の日、つまり1日(ついたち)を指す。八朔(太陰暦の8月1日)のころに食べられるということから、この果実はそのまま「はっさく(八朔)」と呼ばれるようになったとされる。
オレンジ、レモン、ユズなどを柑橘類と言い、英語では「シトラス」となる。ただし、「柑橘類=シトラス」というわけではないから、興味のある人は調べてほしい。
ちなみに、「柑橘」は日本人が作り出した言葉で、中国語とは関係ない。
世界的に見て、日本は柑橘類が盛んな国らしい。日本人は歴史の中で、柑橘類の栽培に適した温暖な気候を利用して、さまざまな品種の柑橘類を作り、栽培してきたという。
Throughout their history, the Japanese have created and cultivated various varieties of citrus fruits, taking advantage of the mild climate that is ideal for growing citrus.
こんな自然環境に、村上水軍というまさかの要素が加わって、ハッサクが日本に生まれたのだろう。しかし、まだ一般的な英語にはなっていなくて、外国人はほとんど知らないだろうから、「Hassaku orange」と言った方が分かりやすい。
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