以前、日本に住んでいた30代のインド人男性とファミレスで話をしていると、「日本で好きな飲み物はカルピス」と言うから、彼にその由来を説明したことがある。
仏典には、乳製品の五味として「乳・絡・生酥・熟酥・醍醐」の五段階があって、最後の醍醐味が「最上の味」とされている。その四段階の「熟酥(じゅくそ)」をサンスクリット語でサルピスという。
それと体に良いカルシウムを組み合わせて「カルピス」がつくられたと話すと、「インドのサンスクリット語が語源なんですか!」と彼は驚いた。「インド人もビックリ」をリアルで見た瞬間だ。
日本人にとってはカルピスの語源よりも、今年の10月から、カルピス(500ml)が216円に値上げされることのほうが衝撃的かもしれない。
では今回は、日本の大学で学んでいるインド人留学生(20代・男性)から聞いた話を紹介しよう。
「体にピース」のキャッチコピーから、ピスを「平和(ピース)」と誤解している人もいるかも。
ーー君は2年前にインドからやって来たと。で、出身はインドのどこ? ボクはインドに何回も行ったから、そこに行ったことがあるかもしれない。
わたしは「西ベンガル県」から来ました。知っていますか?
ーー分かるけど、知らない。
日本ではインドを「県」ではなく「州」で分けているから、「西ベンガル州」なら知っている。「日本語ポリス」みたいになって悪いけど、日本語を学んでいるなら、「州」で覚えたほうがいい。ちなみに、アメリカも州で県じゃない。
そうですか。「県」と「州」の違いは何ですか?
ーーうん? ああ、それね。疑問に思ったことを、すぐ他人に聞くクセは君にとってよくないと思うんだ。今はスマホですぐ調べられるし。
…。
ーー(チッ)。えっと、グーグル先生が言うには、大きな面積と高度な自治権を持っていると、県じゃなくて州になるらしい。
(日本でも昔は「州」を使っていて、今でも山梨県を「甲州」と呼ぶことがある。)
ちなみに、西ベンガル州は面積8万8750平方キロメートルで、人口は1億人か。北海道の面積とだいたい同じで、日本の総人口の約83%だから、サイズ的に県じゃなくて州だね。
ヒンドゥー教で牛は「聖獣」として、崇拝の対象になっている。
「はよ行け!」とばかりに牛のお尻を蹴飛ばすこのインド人男性は、イスラム教徒である可能性が高い。
ーーアメリカでは州に大きな決定権があって、消費税率を自由に決めることができるから、州によって税率が違ったり、無かったりする。知人のアメリカ人は友人の結婚式に参加するために別の州へ行ったとき、現地で自分の州よりお得なモノを買って来たと言っていた。日本人のボクからすると海外旅行の感覚だ。
インドでも州によって、法律が違うんじゃないの?
そうですね。たとえば、牛の「と殺(食肉処理)」ができる州と法律で禁止されている州があります。
ーーその違いはとてもインド的だ。
インドではヒンドゥー教徒がたくさんいて、牛が神聖視されていますから、日本みたいにスーパーで牛肉が売られていません。
ーーだろうね。奈良公園にいる、神の使いであるシカを殺して食べる人間がいたら、全日本人が激怒する。
でも、インドにはイスラム教徒もたくさんいます(人口の約14%、約2億人)。彼らにとって牛はただの動物で、宗教的には殺して食べても問題ありません。
ーー日本人の見方もイスラム教徒に近い。インドの街を歩いている牛を、日本人の旅行者は「野良牛」と呼んでいて、1ミリも神聖視していなかった。
日本でも、神獣であるシカを食べることは許されないけど、野生のシカは害獣だから、食肉処理して「ジビエ料理」にすると、農家や自治体に喜ばれる。同じものでも、立場によって見方は変わるよね。
インドには、世界有数の牛肉輸出国という一面があるんです。日本では「インドで牛肉はダメ」というイメージがありますから、その話をすると驚く人が多いです。
ーーへ〜、それは意外。さすがはインド、多様性の洪水だ。
「農畜産業振興機構」の報告によると、インド人が最も多く食べる肉は鶏肉で、牛肉・水牛肉は値段が安いから、その次に多く消費されている。国内には3600カ所の解体処理場があり、肉を売る店は2万5000店もある。
インドで輸出される肉は日本でよくあるビーフではなく、水牛の肉が多い。
これ以上の情報は「農畜産業振興機構」のHPを見て確認してくれ。
インドは世界最大の牛肉・水牛肉輸出国だが、2014年以降、輸出量は減少傾向で推移しており、2017年の輸出量は185万トンとなると見通している
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