クルマ離れ、ギャンブル離れ、「タバコ離れ」と、日本の若い人たちの「◯◯離れ」が止まらない。最近は猛暑のせいで「ウミ離れ」が進んでいて、海水浴客はピーク時に比べて10分の1以下に激減したという。
ネットでは、ことし初めて花火大会や夏祭り、甲子園に行くのをやめたという声が上がっている。
これにネット民の感想は?
・仕事も行くのやめた
・海での出会いもなくなりますます少子化に
・だって気象庁が外出るなって警報出してんじゃん
・デカい照明建ててナイター浴場にしろ
・暑すぎて日中からはセミが鳴かない
朝しか鳴かない
猛烈な暑さは外出する気力を奪うから、消費が減って、日本経済にマイナスの影響を与えるという話を聞いたことがある。いま日本は色んな意味でピンチらしい。
さて、今回のテーマは「夏」だ。
友人にポーランドのワルシャワで生まれ育って、アメリカの大学を卒業した後、日本の学校で英語を教えていて、今は米国籍を取得してジョージア州に住んでいる女性がいる。
これから彼女と交わした話を書いていこう。

ゴジラ、ニューヨークへ上陸
ーー「ことしの暑さはヤバい!」ってここ数年、毎年言っているけど、ことしの静岡はガチ。8月6日に静岡市で、過去最高の41・4度を記録した。これは日本歴代2位の暑さだった。
ジョージアもアメリカ南部にあるから暑いよー、100度を超えることもある。ってそれは「華氏」のことで、日本が使っている摂氏なら、え〜っとちょっと待って、約38度だって。
ーーアメリカはキロメートルじゃなくてマイル、リットルじゃなくてガロンを使っている。ほかの国とは単位が違うから、換算しないと通じないのは、アメリカ人との会話「あるある」だ。
なんで外国に合わせて統一しないんだろ?
それがアメリカ人だからじゃない? 「外国がアメリカに合わせる」という発想はあっても、逆はない。ほとんどのアメリカ人は外の世界を知らないから、単位を変える必要性なんて感じていない。
それは置いといて、とにかくジョージアの夏は、日本ほど湿度が高くないからまだマシなのよ。
ーー日本の夏は、温度と湿度がタッグを組んで襲ってくるから、家づくりでは、高温多湿の夏でも快適に過ごせることが重視されてきた。
むかし兼好法師という人がいて、冬の寒さは何とかなるとしても、夏につくりの悪い家にいるのは耐えられないから、彼は「夏をむねとすべし(夏を想定するべき)」と書いた。
だから、日本の伝統的な家は風通しをよくして、涼しさを感じられる設計になっている。
※『徒然草』(つれづれぐさ)を書いたのは吉田兼好、と覚えている人はここでアップデートしておこう。その説は現在では否定されていて、教科書に徒然草の著者は吉田兼好ではなく、「兼好法師」や「卜部兼好」と書かれている。
ーーでも、「夏をむねとすべし」という家づくりの考え方は、アメリカ南部でも同じだと思う。
前にフロリダ出身のアメリカ人から、暑い気候に対応して、風通しのいい「ショットガンハウス」という伝統的な家があるって聞いた。
それにしても、こんなネーミングセンスをもっているのは人類でアメリカ人だけだね。

ショットガンハウスの図面
ーー日本ほど湿度が高くないなら、武器は扇風機だけでジョージアの夏とは戦える?
ううん、私の家はアメリカによくあるセントラル空調で、いろんなところから冷風が出てきて家全体が涼しくなるから、扇風機は使っていないの。日本みたいに、一つの部屋で使うエアコンは「ミニスプリット」って言うけど、私の家にはそれはない。
ーーあれを英語で「ミニスプリット」って言うのは初耳だ。
北海道の家には、冬に家全体をあったかくするセントラルヒーティングがよくあるけど、アメリカではその「夏バージョン」もあるのか。でも、だれもいない部屋でエアコン(またはヒーター)が効いているというのは…、
「電気代がもったいないだろ!」って? そう言われたら返す言葉はないけれど、それが普通だから「ムダ」って感覚がしないの。今さらセントラル空調を変えられないし、「電気代ガー」とか言われても、正直「ウザいな」って思う。
ーー完成した後にケチをつけるのはマナー違反だから、そんなことはしないけどさ。
家全体が涼しかったら、日本みたいな扇風機はイラナイか。
少なくとも、わたしの家ではね。扇風機は家の中じゃなくて、BBQをする時とか、外で使うイメージがある。

ポーランドの首都ワルシャワにある文化科学宮殿。
中には映画館、劇場、博物館、書店、企業のオフィスなどがある。
ーー日本とジョージア州の夏はあっついけど、ポーランドはそうでもない。
そうだね、ポーランドの夏は、気温が高くても30度を超えることはないし、そんな暑い期間は1週間ぐらいで終わるから。
ーーいまネットで調べてみたら、ワルシャワではいちばん暑い7月でも、平均最高気温は24度、最低気温は14度と書いてある。東京でいえば4月だ。日本を基準にしたら、「ポーランドに夏は存在しない」って言っていいんじゃないかな。
でも、冬はとっても寒い。
ーーたしかに。いちばん寒い1月には、平均最低気温は−4°度で、最高気温は1度しかない。兼好法師がポーランドにいたら、きっと家づくりは「冬をむねとすべし」と書いていた。
そうなの。ポーランドの家やアパートは壁が厚くて、空気を部屋に閉じ込めるようなつくりになっているから、暖かいけど通気性は悪い。
ーー日本に住んでいたリトアニア人も、それに文句を言っていた。
※リトアニアはポーランドの隣にある国。
日本のアパートは壁が薄いから、隣の部屋から音や声が聞こえてくることがあるし、通気性がいいから、冬には冷たい空気が入ってきて困るって。
かといって、日本のアパートがポーランドみたいに、「冬仕様」になっていたら、夏は地獄だろうしね。
ーーでも、最近は空調技術が進化していて、日本でも断熱や防音効果を重視して、厚い壁の建物も増えているらしい。
そのうち、世界中に全気候に対応した家ができて、それぞれの国の文化を反映した特徴や違いが無くなることはなくても、きっと薄くなっていく。
ーー少なくとも、日本では木造住宅は減っていて、伝統的な「イエ離れ」が進んでいる。でも、兼好法師も言ったように猛暑には耐えられないから、この流れはどうしようもない。
古民家を活かした宿やカフェは増えているから、古き良き日本はそこで味わう未来がくるんだろうね。

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