インドのすぐ南に浮かぶ小さな島国、それがスリランカ。
この国を初めて訪れた日本人は誰だろう?
AIにそう質問すると、1921年にヨーロッパへ向かう際に立ち寄った皇太子時代の昭和天皇、という答えが返ってきた。でも、これは間違いだ。
それよりも前、江戸幕府がヨーロッパに派遣した「文久遣欧使節」の一行が1862年にセイロン島(現スリランカ)を訪れている。彼らが初の日本人かもしれない。
その中に福沢諭吉がいて、スリランカで仏教について知り、日本に戻った後、それを学生たちに伝えたという。
最近、日本に住んでいる20代のスリランカ人女性と話をした。
彼女は日本の大学を卒業した後、そのまま日本に残って今は会社で働きながら、自動車学校に通っていてもうすぐ仮免許らしい。今回は、そんなスリランカ人から聞いた宗教についての話を紹介しよう。
ーー日本で自慢できることは、豊かな四季があること、って思っていたけど、最近は夏が膨張して、春と秋が短くなって二季化している。経済的にも元気がないし、日本で自慢できるところは少なくなっている気がしてならない。
スリランカで自慢できるところって何がある?
それはやっぱり仏教です。仏教が信仰されている国は世界中にありますが、スリランカは特別なんです。
約2500年前にお釈迦さまが仏教を開きました。それから、時代や場所によって仏教の中身が変わりましたけど、お釈迦さまの教えにもっとも近いのがスリランカの仏教と言われているんです、どや。
ーーまぁ、結婚や肉食ができる日本の仏教も特殊だけどね。それでタイ人に「フェイク仏教」って言われたことがある。
日本に住んでいても仏教の信仰に変化はない?
もちろん。それはスリランカ人にとってとても重要なことですから。アパートの部屋の高いところに仏像を置いて、朝起きたら、水や食べ物をお供えして手を合わせて、その日一日の無事を祈ります。
富士宮にスリランカの仏教寺院があるので、たまにそこへ行きます。
ーー日本のお寺だと、ありがたみがない?
いえいえ、わたしの日本語能力が低くて、お坊さんの話を聞いても理解できません。それに、やっぱり日本のお寺は雰囲気が違うので、「コレジャナイ」って思っちゃいます。
ーーその気持ちを日本語にすると、「ありがたみがない」になると思うよ。

ーー今月8月、日本では「お盆」というビッグイベントがある。お盆は、亡くなった人の魂がこの世に戻って来る期間だから、個人的には「日本版ハロウィン」と呼んでいる。
スリランカにもそんな行事はあり?
聞いたことないですね。死者が戻ってくるというのは、不思議な感じがします。
仏教でもっとも大事な教えのひとつに「輪廻」があって、人は亡くなった後、別の世界に生まれ変わることになっています。だから、魂がまたこの世界に戻ってくるという考え方には違和感ありまくりですね。
ーーお盆は仏教的にはおかしいのかな。
スリランカ人が信じるのは上座部仏教で、日本人は大乗仏教ですから、いろんな違いがあると思います。結婚や肉食がOKなんてありえませんし(これはきっと日本だけ)。
スリランカでは反対に、死者の魂をあの世に送り出すことならあるんです。そうでないと、死者は幽霊となって、この世をさまようことになっちゃいますからね。
ーー日本の仏教には送り・迎えの両方がある。

ーー「手水(ちょうず)」って知ってる? 日本ではお寺や神社に入るとき、水で手を口を清めることがお約束になっている。
見たことあります。あれは手水って言うんですか。聞いてもすぐに忘れますけど。
わたしがスリランカにいた時は、お寺でそんな「浄化の儀式」なんてしませんでした。入口に蛇口があって、それで手を洗うことができるお寺はありますけど、それは例外的です。
※AIに英語で聞くと、こんな答えが返ってきた。
「While there isn’t a specific custom of cleansing the hands and mouth with water before visiting temples in Sri Lanka, it is a common practice in many Buddhist temples in Japan.」
(スリランカの寺院を訪れる際、手と口を水で清めるという特定の習慣はありませんが、日本の多くの仏教寺院では一般的な慣習となっています。)
手水は本来は神道の儀式で、日本ではそれが仏教の世界に浸透したと思われる。
ーー神や仏に近づく前に、心身をきれいにするのが手水。そんな考え方はスリランカにない?
お盆は不思議ですけど、その考え方は分かりやすいですし、スリランカにもあります。
スリランカでブッダはとても尊敬されていますから、家でシャワーを浴びて、きれいな服を着てお寺へ行きます。わたしは高校生まで、お寺へ行くときは必ず白い服を着ていました。
ーーやっぱり「ガチ勢」は違うね。前に仏教徒のミャンマー人とお寺へ行ったら、タンクトップ姿の女性がいたから、「あんな格好は仏様に失礼ですっ!」と彼が怒っていた。
スリランカでもそれは絶対ダメです。日本にはドレスコードがないんですか?
ーーきちんとした清潔感のある格好がいいんだけど、実際にはコンビニと同じ感覚で気軽に行く人が多い。お寺へ行くのにシャワーを浴びるとか、聞いたことがない。「〜の前にシャワーを浴びる」って聞いたら、きっと日本人はとんでもない誤解をする。
日本人は日常生活では、ルールやマナーをきっちり守って行動しますけど、宗教については割とだらしないですね。スリランカ人とは反対です。
ーーそれは正論ティー。で、「白色」には何か意味があるの?
はい、スリランカで「白」は純粋や清潔さを表します。だからお寺では、白くて良いにおいのするジャスミンの花を仏さまにお供えするんです。
ほかにも敬意を示すために、お寺では靴を脱いで素足になります。
ーーそれは日本人も同じだ。でも、どこでも畳を見たら自然と靴を脱ぐから、これは敬意というよりはただの習慣かもしれない。
それにしても、やっぱりスリランカ人は仏教に熱心だ。誇りに思うだけはある。
日本人の信仰心はユルユルでとても自慢できないけど、異なる信仰を認める寛容さは世界的にも高いレベルにあると思う。
参考:スリランカの仏教
おまけ
スリランカにある有名な観光名所の「ゾウの孤児院」。両親がいなくなったゾウをここに運んできて、人間が世話をしているという。
仏教の精神にもとづく、スリランカらしい優しい施設だ。

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