知り合いに、日本の大学に通う２０代の中国人がいる。この前、彼とテーマは日本人のソウルフードについて話をした。
ーーえっと、君は日本に来て１０か月、ほぼ１年か。今までいろんなものを食べたと思う。その中で「マイ・ベスト日本食」はなに？
選ぶのがむずかしいんですけど、値段と味で考えるとラーメンですかね。
ーーラーメンには、とんこつ、鶏ガラ、みそ、塩といろんな味があるけど、どれがいい？
わたしはチキンスープがいちばん好きです。
ーー鶏ガラか。てっきり外国人に人気のとんこつかと思ったよ。
でも、その答えは予想外。ラーメンの起源が中国にあることは間違いないけど、それが日本料理か中国料理かは、日本人でも意見が分かれる。
友人のアメリカ人が日本の小学校で「好きな日本食はラーメン」と言ったら、「違う！ それは中国の食べ物！」とクラス中の子どもにツッコまれた。アメリカではラーメンは日本料理と思われているのに。
わたしもラーメンは日本料理だと思います。中国の麺料理とは違いすぎますから。
ーーたとえば？
中国の麺料理に比べると、日本のラーメンは麺の量が少なくて、食べごたえがないんです。そこはでっかい不満ですね。
ーー外国人の「日本食あるある」だな。ナイジェリア人が日本のレストランでパスタを頼んで、出てきた料理を見て「これは前菜？」と驚いていた。日本の食べ物を見て「でかっ！」と思ったという外国人は記憶にない。まぁ、日本には最終兵器のコメダがあるのだけど。
そうですね。ラーメンだけじゃなくて、日本の料理は何でも小さくて少ないという印象があります。
ーーでも、中国とは文化の違いがあるんじゃないかな。中国では「満腹＝満足」と聞いたことがある。客が出された料理を全部食べると、「足りなかった」という意味になって、ホストはメンツを失うから、食べきれない量の料理を出すらしいじゃん？
それは古い考え方です。中国が貧しかったころのことです。最近の中国では、全部食べることを美徳と考える人が増えています。特に若い人はそうです。でも個人的には、満腹にならないと満足できないので、日本の食べ物にはちょっとガッカリですね。
ーーつまり、君は新旧の過渡期にいると。
中国東北部の冷麺
日本のラーメンは野菜や肉などの具材が少なくて、そこもイヤですね。
ーーダメ出しばっか言うけど、日本のラーメンに対する愛はあるの？ 全然ベストじゃない気がする。
でも、日本のラーメン屋でバイトしていた台湾人も同じことを言ってた。彼は日本のラーメンが好きで、「店で働けば無料で食べられる」と思ってバイトを始めた。でも、その店では従業員でも料金の３割を払うことになっていて、タダじゃなかったから、彼は「ケチですね」と文句を言っていた。
わたしもそう思います。中国なら高級店は別として、街中の食堂なら、きっと従業員はタダで食べられます。
ーーまぁ、日本でも店によって事情は違う。
とにかく、彼は店長やほかの人からラーメンの話を聞くうちに、日本と台湾・中国の麺料理の違いに興味がわいて、独自に追求した。それで、日中ではこだわりのポイントが違うことに気がついた。
それはスープだ。店長は「ラーメンはスープが命」と言って、いつもスープの研究をしていたらしい。店では１０時間以上かけてスープを作っていて、彼はそれを知って驚いた。日本のラーメン屋では、それくらいは普通で、もっと長く煮込む店もある。
１０時間以上もですか！
確かに日本のラーメンスープは味が濃厚で、手間ひまかけて作られている感じがします。それに比べて、中国の麺料理のスープは全体的に味が薄くて、あまり時間をかけずに作っている感じがしますね。
ーーその台湾人が到達した結論は、日本のラーメンはスープ作りを重視して、中国や台湾の麺料理は具材を重視するってこと。だからさっき、「野菜や肉とかの具材が少ないです」と言いやがったのも、日中の“こだわりポイント”の違いが原因だろうね。
同感です。具材が少ないから、ラーメンはいまいち食べごたえがありません。
ーーディスってくれるね〜。
あと、テレビ番組で知ったことだけど、中国の麺料理は「牛肉麺」や「炸醤（ジャージャー）麺」のように、使う具材を料理名にすることが多い。これも、中国の店が具材を重視している証拠だろうね。
※炸醤とは、豚のひき肉を味噌で炒めたもの。
なるほど。それはありますね。
ーー日本のラーメン店はスープにこだわるから、「とんこつ」「鶏ガラ」「みそ」と具材よりもスープの種類をアピールする。だから、さっきラーメンが好きと聞いて、ボクはまずスープの種類を聞いた。これは日本人の普通の反応だと思う。
ラーメンの世界は奥深いですね。これからはもっとスープに注意して味わって食べてみたいです。
ーーまあね、君はようやくのぼりはじめたばかりだから。このはてしなく遠いラーメン坂を…。
なんですかソレは？
ーーこれは分からなくていいよ。
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