友人のインドネシア人(30代・男性)は、技能実習生として静岡の会社で3年ほど働いて、10年ほど前に帰国した。そんな彼が久しぶりに日本へやってきたので、会って話をすることにした。
インドネシアでは、生まれた月にちなんで名前がつけられることがある。たとえば、サッカー選手の「オクトヴィアヌス・マニアニ」(Oktovianus Maniani)は、10月(オクトーバー)に生まれた。
ここでは友人の名前を「オクト」として、彼が感じた日本の社会や人について書いていこう。
ーー今は「コメダ珈琲」でモーニングをやってるから、そこへ行こうと思うけど、OK?
「モーニング」は朝という意味ですよね? ちょっと意味がわかりません。
ーー朝は無料でパンやゆで卵が付いてくる「モーニングサービス」のこと。そう聞いて、キリスト教の「朝の礼拝(サービス)」と誤解したアメリカ人がいたらしい。
いいですね、そこへ行きましょう。2年前にインドネシアのバリ島にもコメダ珈琲ができたんです。外観や店内の雰囲気は日本のコメダと同じらしいですよ。
ーー日本人がたくさん住んでいる首都ジャカルタじゃなくて、バリ島なんだ。なんでコメダはインドネシアの第1号店として、そこを選んだんだろ?
バリ島には世界中の観光客が集まるので、そこで知名度をアップして、ほかの国への進出を考えているんじゃないですかね。

ーー日本語ペラペーラのオクトに聞きたいのだけど、日本人がすぐに覚えられるインドネシア語って何かある?
インドネシアにそこそーこ詳しいあなたなら知ってると思いますけど、「ありがとう」はインドネシア語で「テレマカシ」(Terima kasih)と言います。その返しの「サマサマ」(Sama-sama;どういたしまして)は、日本人には馴染みやすいです。
ーー思い出した。昔、インドネシアを旅行していたときにそれを知って、「おかげさま」みたいな語感が気に入って、レストランや商店でよく「サマサマ〜」と言ってたわ。
ぜひ言ってください。インドネシア人も良い気分になりますから。
ーー話は変わって朝から暗い話題なんだけど、このところ日本経済は低迷している。
世界2位だった名目GDPは2010年に中国、2023年にはドイツに抜かれて、今は4位に転落した。復活の兆しはなくて、今年はきっとインドにも抜かれて5位になる。
そんなわー国とは反対に、インドネシアの経済は好調らしいね。
そうですね、ここ20年ほど毎年だいたい5〜6%の経済成長を続けています。都市でも、古い建物が近代的なビルに変わって目に見えて発展しています。
ーーコメダもそのビッグウェーブに乗ろうとした。たぶん今のインドネシアには、昭和の高度経済成長期みたいな勢いがある。
今回、私が日本へ出張で来たのも、日本の会社と付き合いがあるからです。日本とインドネシアの経済的な結びつきは深くなっています。実は技能実習生をしていたころ、そんな未来を感じていたんです。

ベトナム戦争で使われた戦車
歴史上、ベトナムは中国とアメリカを撃退した唯一の国
ーー時間が止まっているのは日本だけらしくて、ベトナムも経済成長が順調と聞いた。
そう思います。出張でホーチミン市へ行ったとき、インドネシア以上に活気があって、ベトナムは先に進んでいると感じました。
ーーたとえば?
ベトナムには国産の車(ビンファスト)があると聞きました。インドネシアに国産車はありませんから、それは衝撃的でしたね。その技術を持っているかどうかは大きな違いですよ。
ベトナム政府が外国企業にとって魅力的な税制を整えて、進出を後押ししていることが経済成長の“秘けつ”みたいです。
ベトナム人の話を聞くと、「インドネシアももっと頑張らないといけない」って焦りを感じて、やる気が出てきます。
ーーアジアのご近所さんは活気づいているんだ。なんか日本は「ボッチ」というか、肩身の狭さを感じる。
いえいえ、日本の経済規模は今でも別次元ですよ。インドネシアやベトナムとは、生活の便利さや快適さがまったく違います。ただ、10年前に比べると、かなり差は縮まりました。
最近は、中国から撤退して、インドネシアに進出する日本企業も増えたと聞きましたし、ウィン・ウィンで一緒に成長していくべきです。
ーーインドネシアとベトナムの発展を肌で感じたオクトから見て、日本経済はなんで停滞していると思う?
正確には分かりませんけど、印象としては、日本の人たちは不満はあっても、何だかんだ言って現状に満足しているように見えます。今の生活を変えようとするのが面倒くさくて、そのためのエネルギーも無いような。
高度な技術を持っているのに活かしていないようで、もったいないですね。
ーー具体的には?
日本には世界最先端の科学技術があります。でも、それが一般の生活にまで届いていません。
ーーあ〜、韓国人にもそんなことを指摘された。ノーベル化学賞を取った韓国人はゼロなのに、日本は何人もいる。でも、日本社会のIT化は遅れていて、韓国と比べると不便に感じることが多いと。
インドネシアでは、IT技術の進展によってスマホを使っての支払いが一般的になって、その意味では日本より進んでいます。
前にも言ったかもしれませんけど、10年前は財布を忘れたら家に取りに帰っていましたけど、今ではスマホがあれば問題ありません。
日本は今でも現金払いが多くて、財布を忘れたら、急いで取りに帰る人が多いんじゃないですか?
ーーそうかも。最近、日本に住んでいた中国人からもそんな話を聞かされた。
彼が母国に戻って生活をはじめると、スマホで何でも支払いができるし、その中に運転免許証や身分証明書が入っているから、財布が本当に薄くなって重要性も無くなったんだって。
この前、高市首相が国会で、議員宿舎にあるファクスが「10枚ぐらいで紙が詰まる」と言ったのを聞いて、「昭和か!」って思ってビックリした。
ファックスですか、インドネシアではもう見かけませんね。
ーーだよね〜。インド人の留学生がコンビニに大きな機械が置いてあって、そこでコピーやファックスができると知ってビックリしていた。「インドでファクシミリは無くなりました。博物館で展示されているかもしれません」ってあきれてた。
インドネシアもそんな感じですね。今でも使っているところがあるかもしれませんが、一般的にファックスは記憶の中にあります。
ーーその一方で、今年はノーベル生理学・医学賞と化学賞で日本人が「ダブル受賞」した。
やっぱり、日本はすごいんですよ。でも、社会は10年前からあまり進んでいないようで、不思議な気がします。日本人はもともと保守的で、生活であまり不便を感じないから、社会を変えようとしないんじゃないですか?
ーー社会が国民性を反映しているというのは、韓国を見ればわかる。「パリパリ(早く早く)」という国民性に合わせて、韓国はスピード重視の社会になっている。
日本が発展しないのは、口で言っているだけで、実際には危機感が足りないせいかも。ほとんどの人は週末に遊びに行けるぐらいの余裕があるから、アジアの他国に比べて、現状を変えようとするハングリー精神が少ない。

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