韓国人の“らしさ”をあらわす言葉に「オルチュガ(얼죽아)」がある。
韓国の冬はとても寒く、氷点下を軽く下回る。それにもかかわらず、韓国の人たちはカフェが大好きだから、アイスアメリカーノをよく飲む。
そんな韓国らしい現象(文化)を「凍え死んでもアイスアメリカーノ」と表現し、韓国では略して「얼죽아(オルチュガ)」といわれる。
この表現を借りるなら、インド人は「たとえ命を失ってもセルフィー」と言っていいほど、自撮りが大好きだ。
彼らの「自撮り愛」は、きっと韓国人の「カフェ愛」を上回る。
日本人のボクからすると、控えめに言ってもおかしい。

「富士山を眺める俺の後ろ姿」を友人に撮らせるインド人
横にいる女性は、前方でポーズを決める男性に「もう少し右に立って」「右足を後ろに引いて」といったアドバイスをしていた。
「キルフィー」という問題
韓国の「凍え死んでもアイスアメリカーノ」は冗談だが、インドの自撮り熱は「笑い話」じゃ済まされないレベルに達している。
セルフィーをもじって「キルフィー(Killfie=命を落とす自撮り)」という言葉が生まれるほど、自撮り中の死亡事故が多発しているのだ。
それについて、最近ある外国人がSNSでこんな生々しいつぶやきをしていた。
「My whole timeline is just Indians dying in the dumbest way possible」
(俺のタイムラインには、インド人があり得ないくらいバカげた死に方をしている投稿ばかり流れてくる)
彼は、足元の地面が崩れて落ちたり、列車から身を乗り出して鉄の柱に激突したりしたインド人の投稿を見て、「なんでこれを予測できなかったのか?」と不思議に思ったという。
この「キルフィー」の問題は深刻だ。
AFPの報道(2016年11月19日)によると、「自撮り中の死亡例」でインドは約2年間で76人を記録し、世界最多の国となった。
「自撮り」で死なないで 死亡例世界最多はインド 調査結果(2016年11月19日)
ワースト2位はパキスタン(死者9人)、3位がアメリカ(8人)だ。
パキスタンは1947年まではインドの一部だったから、両国の価値観や文化はよく似ている。
このあとに行われた調査でも、世界で259人がセルフィーでの事故で亡くなったなか、インド人が159人と半数以上を占め、断トツの世界ナンバーワンだった。
この悲劇が多発する大きな理由に、インドは30歳未満の人口が世界でもっとも多いことがある。
若い男性ほど、「冒険」をしたがるのはどこの国でも同じだ。
ちなみに、2015年にインドのタージマハルで、日本人観光客がセルフィーをしようとしたところ、階段から落ちて死亡する事故が起きた。
不慣れな外国でのセルフィーは、本当に気をつけないといけない。
これまでのインド人との付き合いで、ボク自身が「キルフィー」の現場を目撃したことはないけれど、こうした事故の背景にあるインド人の「セルフィー愛」なら何度も見かけた。
「自撮り」のためなら予定を変える
静岡県にある「浜名湖ガーデンパーク」では、カラフルな花々を楽しむことができるから、数年前の春に、インド人のカップルと彼らの友人をそこへ連れて行ったことがある。
彼らは「用事があるから、4時半までにはアパートに戻らないといけない」と言ったにもかかわらず、ガーデンパークに着くと「想像の10倍きれいだっ!」と感激し、予定を1時間ずらした。
(インド人はとてもフレキシブルで、簡単に予定を変えてしまうのだ。)
そこまで遅れたのは、彼らが何度も何度も自撮りやグループフォトを撮っていたからに他ならない。
1人がポーズを決めて友人に写真を撮らせ、それを確認して納得がいかなかったら、もう一度撮影をする。5人がそんなことをしているから、なかなか先に進むことができなかった。
(インド人はとても寛容なので、友人のためなら気長に待つことができる。)
インド人、パキスタン人、バングラデシュ人の南アジアの人たちとどこかへ出かけると、こんなことがよく起こる。
インドが「セルフィー中毒」になった3つの理由
なぜインド人は、ときには命の危険を冒してまで、カメラに笑顔を向けるのか?
当事者から聞いたりネットで調べたりすると、彼らの「セルフィー好き」には、特有の文化やスマホ事情がからみ合っていることが分かった。
これからそれを紹介していこう。
① 圧倒的な自己肯定感
日本人はシャイで控えめな国民性をしているから、「自撮り=ナルシスト」という空気があると思う。
インド人みたいに、写真撮影のためにサングラスをつけるとか、段差に片足をのせて遠くを見つめるポーズをとる人はまずいない。
インド人は日本人と違って、基本的に自分に自信や誇りを持っている。
日本財団が日本、米国、英国、中国、韓国、インドの若者を対象に「18歳意識調査」をおこない、今月その結果が発表された。
それによると、「わたしは人に誇れる個性がある」と答えた人の割合で、日本は6カ国中最低(58.6%)で、インドは最高(83.7%)だった。
また、「わたしは困難があっても前向きに回復できると思う」でも日本は最低(56.8%)で、インドは最高(81.4%)を記録した。
ちなみに、「自国は、国際社会でリーダーシップを発揮できる」でも日本は最低(50.3%)で、インドは2位(74.2%)だった。
やや話がそれてしまったが、世界的に見ると日本人は自分に自信がなく、否定的に考えているのに対し、インド人は自己肯定感がとても高いことは間違いない。
そんなインド人の考え方や価値観についてビックリしたのは、スマホの待ち受け画面を「自分のキメ顔」にしている人が珍しくないことだ。
インドには自分を誇りに思う文化がある。
こんな「自分大好き」なインド人の性格からしたら、何度もポーズを変えて自撮りをするのも当然だ。

花で飾られたピンク色の建物の前で、インド人とパキスタン人が交互に写真撮影をしていた。
ここには何度も来たが、日本人男性が同じことをするのを見たことがない。
② 初めてのカメラが「スマホ」だった
インド人に聞いて意外に思ったことがある。
インドでは格安スマホと安い通信プランが爆発的に普及したことで、「人生で初めて手にしたカメラはスマホだった」という人が多いという。
20年ほど前の日本では、1人1台のカメラを持っていることが普通だったが、インドはその過程をスキップして、いきなり「スマホデビュー」したことになる。
2000年代にインドを旅行していたとき、大人も子供も「俺の写真を撮ってくれ!」と何度も頼んできた。
現像して渡すことはできないと言うと、「それはまったく構わない」と言う。
彼らは写真に撮られること自体が目的で、自己肯定感を満たしていたのだろう。
そんな人たちがカメラを手に入れれば、当然、自分で自分を撮影するようになる。
スマホメーカーもそこに目をつけ、「映える自撮り写真」を極限まで高めた「Selfie Expert」搭載のスマートフォンを売り出し、インドで大成功を収めた。
スマホやSNSが発達したことで、「ステータス」を見せびらかすことがとても簡単になった。
これも自撮りをする大きな理由である。彼らの「いいね」を求める思いの強さ、承認欲求の高さはまさにエベレスト級。
③ インド人が大切にする「シェア文化」
インドは人と人との距離がとても近く、家族や友人とのきずなを大切にする社会だ。
彼らといっしょに行動していると、彼らが「人とのつながり」を重視していることをよく感じる。
外国人を連れて京都を旅行していたとき、インド人女性(下の写真)が寺の庭にいた錦鯉にスマホを向けただけでなく、話しはじめた。

彼女は鯉と話ができる特殊能力を持っているのではなく、きれいな鯉が泳いでいるのを見ると、すぐにインドにいる家族にビデオ通話でそれを見せて、背景を説明していたのだ。
この行動は「インド人あるある」で、別のインド人とハイキングをしたとき、彼も海や山の景色を家族に見せていた。
こんな感じに、インドの人たちは喜びを感じるとその場で知り合いにつなげ、いま自分がどこで何をしているのか話し、「空間」をシェアすることがよくある。
そうすることで、感動がさらに倍増するという。
インド人にとってセルフィーは、単なる記録ではなく、自己表現であり、他者とつながるための楽しいコミュニケーション手段にもなっている。
だから、若いインド人の場合、「手軽にその場でつながることができる」という理由で、高性能の一眼レフカメラよりもスマートフォンを優先する人が多いという。
インドの文化では、「感激をリアルタイムで共有できる」というのはとても重要なポイントだ。
家族や友人に日本の景色を見せるのいいけれど、話しながら歩き回る様子を見ると、こちらとしては危険を感じることが多い。
死亡事故が起こる原因の一つに、こういう行動がある気がする。
まとめ:根本的にあるのは「自分大好き」という思い
このほかにも、悠久の歴史を誇るインドにはタージマハルやガンジス川など、思わず写真を撮りたくなる建物や自然が多いことも、「自撮り文化」を発達させたと話すインド人もいた。
細かいことを挙げればキリがないが、「自己表現の強さ × スマホの爆発的普及 × シェアする文化」の3つの理由で、インド人は“セルフィー大好き民族”になったのだろう。
しかし、もっとも根本的な要因はインド人の「自己肯定感の高さ」だ。
いま世界中の人がスマホを持っているし、写真をシェアする文化もある。
そのうえで「キルフィー」という言葉が生まれるほど、インド人が自撮りが好きな理由は「自分に自信があって大好きだから」とするのが妥当と思われる。
「キルフィー」は論外だが、他人の目を気にしがちな日本人は、インド人の堂々とした態度を参考にしてもいい。

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