韓国人・中国人が日本の「伝統行事」について感じる違和感

 

2日前の7月7日は七夕だった。
普段は離れ離れになっている織姫(織女)と彦星(牽牛)が年に一度、この日だけ会うことができるという嬉しくて切ない日。
この文化は中国で生まれて韓国にも伝わった。
韓国語で「チルソッ」という七夕は旧暦の7月7日に祝うから、西洋暦だと1か月ほど遅くなり、ことし2022年は8月4日になる。
1年ぶりに会った牽牛と織女はうれし涙を流すから、七夕の日には雨が降り、次の日も雨が降った場合は、2人が別れを惜しむ涙だと韓国では言われている。
日本では七夕の日には晴れを願うことが一般的だから、このへんの感覚は反対だ。

ただ日本でも、七夕の日に降る雨を織姫と彦星が別れを悲しんだり、会えないことを寂しく思って流す涙と考えて、「洒涙雨(さいるいう)」と表現することがある。

【洒涙雨】七夕の日、おり姫・ひこ星が降らす悲しみの雨

願いごとを書いた短冊を笹竹に結ぶという風習は日本独自のものだから、韓国の七夕ではそんなことはやらない。
韓国では祭壇にお菓子を供えるらしい。
こんなふうに同じ行事でも、日韓ではやり方や考え方はそれぞれ違う。
それはそれで互いの文化を知ればいいだけのことなんだけど、このまえの七夕の日、日本に住むある韓国人がこんなメッセージをSNSに投稿というか、投下した。

「日本人は民俗行事を陽暦でやる。なんでその愚かさに気がつかない?伝統を大切にする気がないの?」

書いた本人は問題提起のつもりだったかもしれない。
でもこの自国中心の視点&上から目線の言い方には、日本人よりも韓国人から多くの批判がきて、投稿主はメッセージをすぐに削除した。
反応を見て「マズい、言い過ぎた」と思ったらしい。

 

七夕の風習は中国が元祖で、日本・朝鮮半島・ベトナムに伝わった東アジア共通の文化だ。
ベトナムの七夕では、理由はよく分からんが、小豆を食べることがお約束になっていて、そうすれば恋人ができるとか、カップルだと付き合いが長続きするとか言われているらしい。
ベトナムも韓国と同じく、七夕は太陰暦(日本だと旧暦)で祝う。
中国人や台湾人も伝統行事は太陰暦でおこなっているから、

「私たちには2つのカレンダーがあります。仕事や学校とか普段の生活は西洋暦で動いていて、伝統行事は太陰暦に基づいてやります」

なんて言う台湾人もいた。

それを常識とした社会から日本へ来ると、「あれ?」っと違和感を感じる人もいるらしい。
中国旅行で会った日本語ガイドはむかし日本で生活してたとき、「正月だけは旧暦にした方がいい」と強く強く思ったという。
そのワケを聞くとガイドはこんな話をした。

「中国の正月は西洋暦だと、1月の終わりから2月のはじめです。一年の中で寒さが最も厳しい時期にあるから、それを過ぎるとだんだんと暖かくなって、いろんな花も生えてきます。でも日本の正月は1月1日で、その前後で特に大きな変化はありません。あれだと”一年の境い目”という実感がなかったですね。」

日本で生まれ育ったボクからすると、2月1日の前後に正月を迎えるというのは中途半端感がハンパないのだけど、この中国人ガイドからすると1月1日では季節感がない。
ガイドは日本のほかの行事については何も感じなかったけど、正月だけはどうもしっくりこなかったと。

そう言われてみると、たしかに日本の正月はこれから寒さのピークに向かっていくころにあって、「新春」という言葉を使っていても温かい春のイメージはないし、梅が咲き始めるといった視覚的な変化もない。
日本も江戸時代までは、いまの中国・韓国・ベトナムと同じように旧暦で祝っていたのを、明治政府が西洋暦にチェンジしたときに伝統行事も新暦に引っ越した。
いまの日本はその延長にあるし、これはもう今さら変えられない。
伝統行事は旧暦で祝う東アジア圏の中で、日本はオンリーワンの異端児だから、ほかの国の人からすると「あれ?」という感じがしてもおかしくない。
あの韓国人が言いたかったことも、きっとそんなことだったのだろう。
「愚かさ」という挑発的な表現ではなくて、「違和感」と言えばよかったのだけど。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。