台湾人の男女3人と静岡の山でハイキングをしていると、「ウィ~ン」という機械音が聞こえてきた。「ハチですか?怖い!」と不安そうな台湾人に、あれは草刈り機の音だと伝えると彼らは胸をなでおろす。
すると、そのうちの1人が「“狩り”っていう日本語は不思議ですね」と言い出した。
日本語の「狩り」は中国語では「狩猟(狩獵)」のことで、これには「野生の鳥や獣を捕る」、「何かを睨(にら)む」といった意味がある。だから、彼女が日本人の友人から、「今度、いちご狩りに行こう!」というメールをもらった時は違和感しかなかった。
彼女はその後、桃狩り、さくらんぼ狩り、シャインマスカット狩り、潮干狩りなど、日本では多種多様な「狩り」があることを知る。
11月になって、いま日本各地で「紅葉狩り」に出かける人がいてその成果をSNSで発表している。それで、日本語を学んでいる中国人がネットで「紅葉狩り」というワードを見て、上の台湾人と同じ理由で「変な感じがします」と言う。
また、「日本人は紅葉狩りと言うけど、桜狩りと言わないのはなぜ?」と疑問を感じる中国人もいた。
中国語の辞書を見ると紅葉は「红叶(赤い葉)」で、紅葉狩りは「看红叶」や「赏红叶」となっている。
日本語の狩りには「狩猟」の他にも、 辞書(大辞泉)によると「花や草木を、観賞するために尋ね探す」という意味がある。
日本で紅葉を鑑賞する風習は平安時代の貴族にあり、江戸時代に一般人にも広がっていったとされる。鳥や獣を捕まえる「狩り」の意味も広がっていき、果物や貝などをとることにも使われるようになった。
何もとらないで、「紅葉などの美しいものを鑑賞する」という意味は平安時代に加わったという。
ちなみに、平安時代には枝を手で折って(狩り)、赤くなった葉を手のひらにのせて鑑賞することがあったが、21世紀の日本でこれをすると森林窃盗罪に問われる可能性があるから要注意。
平安時代、貴族たちは地面を歩く行為を”下品”と考えて、外出する時牛車を使っていた。しかし、桜と違って、紅葉は山の中にあったため、そこまで牛車で行くのは無理。かといって、貴族が歩いて行くのはハシタナイ。
それでも、「美しい紅葉を見たい!」という思いは止められなかったため、「山へ狩りに行く」という言い訳をして、貴族は自分の足で紅葉を見に行った。
山の中で狩猟という設定で、実際には紅葉を見に出かけ、「紅葉狩り」という言葉が生まれたという説が有力だ。
ウェザーニュースの記事(2022/10/11)
「狩り」が草花などを愛でる意味でも使われるようになったのは、平安時代に狩猟をしない貴族が現れたことが関係しているといわれます
紅葉を観賞することをなぜ「紅葉狩り」というのか?
桜は身近にあったから、昔の日本人は「狩り」を使わなかったのだ。…と言いたいところだが、鎌倉時代に鴨長明が「桜を狩り、紅葉をもとめ」(方丈記)と書いているから、昔は「桜狩り」と言っていたのかもしれない。
紅葉については、平安貴族が自分の足で山中を歩いて、赤く色づいた葉を楽しんでいたから、「狩り」と言うようになったと覚えておこう。

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