【歴史を忘れる者】韓国映画の伊藤博文と、史実とのギャップ

 

韓国で「英雄」というと李舜臣と安重根のツートップがいる。
どっちも日本と関係していて、この2人の偉大さやカッコよさを最高に引き出す敵役として、日本が利用されることが多い。
李舜臣は16世紀の豊臣秀吉による朝鮮出兵の際、少数の兵力で日本海軍と戦って撃退した人物で、安重根は1909年に朝鮮侵略の元凶である伊藤博文を暗殺した人物だ。
そんな理由から、韓国でこの2人は国民的英雄として広く尊敬されている。

でもそれは韓国の歴史認識で、日本の見方は大きく違う。
李舜臣は韓国で描かれるほど大きな活躍をしなかったし、韓国で“義挙”とされる安重根の行為も、元首相を暗殺された日本にとっては“テロ”になる。
このへんの日韓の歴史認識を一致させるのは不可能だから、互いの違いを認めるしかない。

 

さて、そんな安重根をテーマにした映画『英雄』が昨年12月下旬に韓国で公開されると、観客動員数260万人超の大ヒットになったという。

週刊ポストの記事(2023.01.26)

韓国で安重根題材の映画『英雄』が大ヒット 行き過ぎた反日感情を感じさせる場面も

漢陽女子大学助教授の平井敏晴氏がこの映画を見て、「行き過ぎた反日感情」と感じた場面にはたとえば伊藤博文のセリフがある。
伊藤は韓国を犬になぞらえてこう言ったという。

「犬を手なずけるには2つの方法がある。ひとつはボコボコになるまで殴る。もうひとつはとても可愛がって言うことを聞かせる。今の朝鮮は後者だ。もしそれで出しゃばったことを言い始めたらボコボコに殴ればいい」

これは韓国側の想像で、実在した伊藤博文がこんなことを言った記録はない。
またこんな問題シーンもある。

複数の日本人が宮廷の女官たちを笑いながら斬って、閔妃(明成皇后)も殺害するのをソルヒという女官が目撃し、日本への復讐を誓う。
そして伊藤に近づいて暗殺しようとするが、失敗する。

この「ソルヒ」は映画のためにつくられたキャラで、実際にはこんな女性は存在しない。
安重根の“義挙”を見て韓国の観客がスカッとした気分になるには、できるだけ伊藤を悪人に描いた方が効果的だから、憎悪を高める演出として架空の人物や出来事、セリフなどを映画に混ぜ入れる。
ほかにも、この時代にはまだ無かった「大東亜共栄圏」という言葉が出てくるから平井氏はこう嘆く。

「軍国主義の悪い要素をすべて伊藤に集約させてしまい、反日感情を露わに作られた物語ということは伝わります」

この映画がヒットすればするほど、フィクションを歴史の事実とカン違いする人が出てくるはずだ。
そしてこうした情報で構成された国民感情が慰安婦・元徴用工問題をさらに複雑させるから、日本としても頭が「アイタタ」となる。
『英雄』を見た人からは「愛国心がかき立てられた」というコメントが寄せられたというから、日本にとっては不幸フラグだ。
ほかにも、「歴史を忘れる者には未来がないです」という声があったいう。
この言葉は素直に受け取って、日本人も史実を知っておこう。

歴史上の伊藤博文は1907年、韓国へ赴任する日本人教師たちに向かってこう言った。

「徹頭徹尾誠実と親切とをもって児童を教育し裏表があってはならない」
「日本人教師は余暇を用いて朝鮮語を学ぶこと」

また新聞記者の前では、「日本は韓国を合併するの必要なし。韓国は自治を要す」と話す。
こういう人物が韓国では「朝鮮侵略の元凶」とされている。
義挙とテロのギャップを埋めることはできないとしても、日本の未来がなくならないように、歴史の事実はしっかり覚えておこう。

 

 

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2 件のコメント

  • 確かに、伊藤博文は韓国では仇とされています。
    私は今年60歳にもなりますが、私が幼い頃にも学校でそのように学びました。しかし、韓国社会にはあの時より今の方がずっと反日感情は強くなりました。そのため現在、韓国の若者たちは私よりも激しい反日感情を持っています。
    北韓と親しい韓国左派が教育界にも浸透して教科書を掌握し、反日教育に血眼になっているからです。

    それでも希望はあります。
    安重根を映画化した「英雄」を上記本文では大ヒットしたと書きましたが、事実上「惨敗」しています。韓国では260万観客動員では損益分岐点を通過できません。韓国人は日本人に比べて映画をはるかにたくさん見ます。 それでハリウッドでも韓国市場を重要視しています。
    「英雄」とほぼ同じ時期に公開された日本のアニメ「THE FIRST SLAM DUNK」が安重根の英雄を圧倒しています。「THE FIRST SLAM DUNK」は1月4日に公開されて以来、現在まで8週連続でランキング1、2位を行き来しながらLONG-RUN中です。累積観客数も3,579,748人(2月26日現在)にもなります。安重根の英雄はすでにランキングから消え、見えません。

  • >韓国では260万観客動員では損益分岐点を通過できません
    そうなんですよね。
    わたしもこのことは記事に書こうと思っていました。
    安重根を英雄と思う気持ちは強いのでしょうけど、反日を売りにした映画はもう通用しないようですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。