【名誉回復】ジャンヌ・ダルクと井伊直弼の共通点

 

「奇跡の少女」と言われ、フランスの国民的ヒロインのジャンヌ・ダルクと、幕末の動乱期に日米修好通商条約を結んで、実質的に日本を開国させた大老・井伊直弼(なおすけ)。
時代も生まれた場所も、年齢も性別もまったく違うこの2人には意外な共通点があった。

 

いまのイングランドとフランスの国境が決まったのは、百年戦争(1337年~1453年)の結果による。
「英国人は恋と戦争では手段を選ばない」という言葉どおり、この戦争で優位に戦局を進めていたイングランドは、あと少しでフランスを落とせるところまできた。
でも、この大ピンチで人類史上、もっとも有名な少女ジャンヌ・ダルクが現れると、英国人は持ってたティーカップを落とすことになる。
読み書きもできなかった農夫の娘がオルレアン包囲戦(1428~29年)で、イングランド軍を撃退し、フランスを勝利をもたらした。
そしてフランスは最終的に百年戦争の勝者となる。

 

フランスの守護聖人になったジャンク・ダルク

 

そんな奇跡の少女は1431年に、「男性用の衣服を身につけた」ということで有罪判決を受けてイングランド側に処刑される。

ジャンヌ・ダルクが処刑された理由は「女が男の服を着たから」

19歳だったジャンヌ・ダルクは柱に縛られた状態で、生きたまま焼き殺された。
英国側は黒焦げになった死体を人々にさらした後、また火をつけて燃やして、ジャンヌ・ダルクは人の姿を失って灰となる。
そしてセーヌ川へ捨てられた。
そのあと1456年に「ジャンヌ・ダルク復権裁判」が行われて、あの時の裁判は間違っていたと判断された結果、ジャンヌの処刑判決は無効となった。
名誉が回復されたと、あの世で聞いたジャンヌは「25年おせーし」とつぶやいた(想像)。

「Better late than never」(遅くても、やらないよりはいい)という英語の言葉があるように、本人が死んだ後でも、不当に奪われた名誉を回復するのはしないよりはマシだろう。
西洋史ではこんなことがたまにある。
イタリア人の「ジョルダーノ・ブルーノ」もジャンヌと同じように、宗教裁判(異端審問)で有罪となって、1600年に火刑に処されて遺灰はテヴェレ川へ投げ捨てられた。
「ごめん、アレ間違ってたわ」とカトリック教会が当時の異端判決を取り消して、彼の名誉が回復されたのは379年後の1979年のとき。

太陽が回っているのではない。地球が太陽のまわりを回っているのだ。
そんな地動説を唱えて、いまでは「天文学の父」と呼ばれる「ガリレオ・ガリレイ」も1633年の宗教裁判で有罪判決を受けた(処刑は免れた)。
1992年にその裁判は間違いだったと認められて、やっと彼の名誉は回復した。
にしても島原の乱(1637年)がおきたころの判決が、平成になってから無効化されたというのは時間かかりすぎ。

 

ガリレオ・ガリレイ

 

ヨーロッパの歴史ではたまにあるこんな名誉回復が、日本では聞いたことない。
日本史を代表する悪人に、源義経の”悪行”をでっち上げて頼朝に伝えて、義経が命を失う原因をつくったとされる梶原 景時(かじわら かげとき)がいる。
でも、「言うほど悪くない」と市民団体が景時の名誉回復に動き出したことはある。
そんなレベルではなく、市議会で名誉回復が可決され、条例として成立したのはこれが全国で初めてだ。

読売新聞の記事(2023/03/25)

桜田門外で暗殺の井伊直弼、名誉回復条例が成立…専門家「聞いたことない」

彦根藩主で大老だった井伊 直弼は幕末に開国を進めて、天皇の許可(勅許)を得ないまま日米修好通商条約を結んでしまう。
*本人の名誉のために言うなら、直弼は勅許を優先しようとしていた。
そんな強引なやり方に反対する人たちがいると、強大な力で弾圧・粛清したことで吉田松陰などが処刑される。(安政の大獄
それで激しい恨みを買った直弼は1860年の「桜田門外の変」で暗殺された。
そんなことから彼には、苦痛・血・死といった闇ワードが付きまとっている。

でも、そんな井伊直弼はじつは有名な茶人で、「出会いは一生に一度限り。だからこそ誠心誠意向き合うことが大切」という利休の教えを「一期一会」で表して世間に広めた人物だ。
そんな直弼さんのイイところを見つめ直す条例案、「井伊直弼公の功績を尊び茶の湯・一期一会の文化を広める条例」が滋賀県の彦根市議会で成立した。
これは4月1日に施行されるというけれど、これで負のイメージを払拭できるかはナゾ。

このめずらしいニュースにネット民の感想は?

・名誉回復すべきは彦根だったら石田三成じゃないの?
・俗説で牛肉の恨みと聞いたが。
・意味のない条例だよ
・それ吉田松陰の前で同じこと言えんの?
・護衛失敗して切腹させられた彦根藩士の名誉から回復させろよ

ということで、やった内容はまったく違うとしても、国のために活動したら不幸な死に方をしたジャンヌ・ダルクと井伊直弼には、死後に公式に名誉を回復されたという共通点がある。
2人に感想を聞けば「もう何でもいいよ」かもしれないし、あの世でラノベみたいな展開があって、「転生したらナオスケでした」とじつは同一人物だったりするかもしれない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。