政治不信なら日本より韓国の方がヒドイ、と韓国人が言う理由

実態や根拠ない恐怖話を韓国では「怪談」と呼ぶ。
日本政府は福島原発から出る放射能汚染水を、放射線物質を可能な限り取り除いた処理水に変えて海へ流す予定だ。
これは国際原子力機関（IAEA）が検査を行い安全性を確認し、原子力分野では韓国で最高の権威を持つ韓国原子力学会も「問題ない」と結論づけている。

そんな科学的根拠に基づいて、韓国政府も日本の対応を認めているが、野党を中心に、日本の海洋放出を「井戸に毒物を入れる行為」とデマを流して反対する勢力がある。
政府と同じ立場の朝鮮日報は、そんな怪談を流布しながら政府を攻撃する野党を批判した。（2023/06/26）

怪談は弱い所に付け入ってくる。健康や食べ物ほど敏感な分野はない。福島の放出水がそうだ。炎上させやすい。「親日攻撃」で油を注ぐこともできるから、怪談を広める勢力にとっては一言で言えば「チャンス」だ

怪談と科学の戦い、勝つのはどちらなのか

韓国では日本に同意すると、「親日（＝裏切り者）」として攻撃されることが多々ある。
間違った情報により、韓国では塩の買い占めや盗難が発生しているから、処理水を海へ放出することより、現実的には怪談を社会へ流すほうが危険だ。
怪談と科学の戦いは、そのまま韓国政府と野党の戦いと言い換えることができる。

韓国は先進国の中の先進国、G８入りを目指している。
なのになんでそんな国で、怪談と科学が戦うと互角の勝負になってしまうのか？
なんで政府を支持する国民は少ないのか？

知人の韓国人にそのワケを聞くと、彼は「国民の圧倒的で絶望的な政治不信」を理由にあげた。
それなら日本だって負けてないと思うのだけど、彼は日本に住んでいた経験から、その点では韓国の方がはるかに上回っていると断言する。
その根拠の一つが曺国（チョグク）氏の存在だ。
文在寅（ムンジェイン）前大統領の側近で法務部長官（法務大臣）だった彼は、自分の立場を悪用して自身の子供を不正入学させたなど12件の罪に問われて、ことし２月に裁判で実刑判決を言い渡された。
チョ氏は法相のほか、政府高官の不正を調べる大統領府民情首席秘書官も務めていたのに、タマネギの皮をむくように不正疑惑が次々と浮上したから、韓国では「タマネギ男」と呼ばれた。
チョ氏の妻も不正行為で有罪判決をくらっている。

「韓国の政治家なんてこんなものですよ。２１世紀の日本で、タマネギ男みたいな不正まみれの大臣なんていましたか？」と言われると、確かに思い浮かばない。
このタマネギ・ショックが政権全体への信用失墜につながり、昨年の大統領選挙で与党は敗北し現在の伊（ユン）政権が誕生した。

文政権の前の朴槿恵（パク・クネ）政権もそうだった。
パク大統領に近い人物だった鄭允会（チョン・ユンフェ）氏と崔順実（チェ・スンシル）氏が、スポーツ大会で娘を不正に優勝させたり、高校の卒業を不正に手助けしたりしたという疑惑が浮かんで、国民の怒りを買って政権交代へつながった。

日本の首相と比べて、強大な権限のある韓国の大統領は”国王”と言っても過言ではない。
そしてその力を利用して、自身の利益を得ようとする政治家や人間が集まって、耳ざわりの良いことを言うから、大統領と彼らとの間で特殊な閉鎖空間ができて不正行為が生まれやすくなる。
そんなことは国民のほとんどが知っているから、特に若い世代で、政府への不信感が高まっていると知人は考えていた。

２０１４年に韓国の大学生を対象として行った調査で、「最も信頼できない職業は何か」を聞いたところ、

１位：政治家（８５・３％）
２位：ジャーナリスト（７％）
３位：兵士（２％）

と政治家への不信感は圧倒的だった。
（日本人に同じ質問をしたら政治家がトップにくるとしても、ここまでぶっちぎりではないと思う。）
また、「社会が直面する差し迫った問題」という質問では、「汚職」が２６・７％、「政治的安定性」が１８・４％と、韓国社会の一番の問題は政治と考える大学生が多かった。

「日本にはジャンケンさえ負けてはいけない」と言われるほど、韓国の人たちは日本に強烈なライバル心を持っている。でも、「政治の信頼性」に関しては日本に負けていると言われても、国民は素直に認めると知人は自信を持って言う。
だから、首相が先鋒に立って日本の処理水の安全性を強調したとしても、そもそも政府に対する国民の信頼は超低空飛行なのだから、効果はほとんど期待できない。
韓国のメディアが「怪談は弱い所に付け入ってくる。健康や食べ物ほど敏感な分野はない」と分析したように、国民は健康や安全に関わる問題にはどうしても慎重になる。
それに強烈な政治不信が加わったら、科学という援軍があったとしても、韓国政府は怪談には勝てないかもしれない。