【世紀の捏造】アメリカと世界をだました“ナイラの証言”

 

「ウソつきは泥棒の始まり」という言葉がホントなら、警察は絶対にウソをついてはいけないことになる。
にもかかわらず、日本でとんでもないコトが起きた。いや、起きている。
まず、軍事転用が可能な機械を無許可で輸出したとして、2020年に警視庁が会社の社長ら3人を逮捕した。
しかしその後、逮捕に問題があったとされ、東京地検は21年に起訴を取り消す。
この間、3人の中には最長で11か月間も勾留されたり、起訴が取り消される前に亡くなった人もいた。

警察と検察は「捜査に問題はなかった」と主張しているが、捜査を行った警察官が裁判所で「事件は捏造(ねつぞう)だった」と証言した。
これは本当だろうか?
警察が事件をでっち上げて、市民を逮捕するというのはアニメの世界だ。
でも、その可能性が浮上したことで、読売新聞が社説で真相究明を訴えた。(2023/07/20)

上司は法廷で、適正な捜査だったと述べたが、2人の部下が揃って捜査を批判するなど前代未聞の事態だ。経産省の担当者も、無許可輸出には当たらないと、何度も警察に伝えたと証言している。

警官「捏造」証言 何があったか検証し説明せよ

 

しかし、世の中は広い。
日本にとっては、前代未聞のこの事態が有象無象のひとつに見えるような、想像を絶する捏造が1990年にあったことをご存知だろうか。

この年の8月2日、イラク軍がクウェートへの軍事侵攻を開始すると、守備隊はあっという間に撃破され、クウェートはイラクに占領されてしまった。(クウェート侵攻
イラクのフセイン大統領は勝手にクウェートの併合を決め、イラクの19番目の県(クウェート県)とする。
クウェートという国が消えかけた時、「ナイラ」という15歳の少女が現れ、アメリカ議会で重要な証言をした。

イラク軍がクウェートを侵略したことで、平和だった私の国と人生は永遠に変えられてしまいました。
私がある日、病院でボランティア活動をしていると、イラクの兵士たちが銃を持って病院に侵入しました。
彼らは保育器を奪い、中にいた赤ちゃんを冷たい床に放置し、皆殺しにしたのです。
さらに、イラク軍はスーパーマーケットの食料品や薬局の薬などを略奪し、私の友人や近所の人に対して、爪をはがすなどの拷問を行いました。

クウェート人の少女「Nayirah」は声を震わせて、米議会でそんな内容の話をする。

 

 

このナイラの証言は爆発的な反応を引き起こす。
アメリカ国民の3~5千万人がこれを視聴し、ブッシュ大統領はその翌週から、少なくとも10回はこの証言に言及した。
その結果、アメリカ世論はイラクとの戦争へ傾いていく。

President George Bush repeated the story at least ten times in the following weeks. Her testimony helped to stir American opinion in favor of participation in the Gulf War.

Nayirah testimony

 

そして米軍を主体とする多国籍軍が組織されて湾岸戦争が始まり、1991年にイラクが撤退し、クウェートは解放された。
しかしその後、あのナイラの証言は大ウソで、完全な「捏造」だったことが判明する。
まず、イラク兵が病院に入ってきて、赤ん坊を殺したという出来事は確認できず、フェイクであることが分かった。
そもそも、ナイラというクウェート人の少女なんて実在していなかった。

あの証言を行なったのは、当時のクウェート駐米大使の娘で名前を「アッ=サバーハ」という。
彼女は「命からがらクウェートから逃げてきた」と語ったが、実際にはクウェート侵攻の際、アッ=サバーハはアメリカで何不自由なく生活していた。
当然、母国の状況については直接的には何も知らない。

当時のクウェート政府は、単独でイラク軍を追い出す力を持っていなかった。
でも、国際社会はイラクとの戦争に消極的で、クウェートは世界最強のアメリカを動かす必要があった。
そのために、米企業の「Hill & Knowlton」に米世論を操作するキャンペーンを依頼する。
巨額の報酬を受け取った「Hill & Knowlton」はいい仕事をした。

「ナイラ」という架空のクウェート人の少女を作り出し、彼女に米議会で赤ん坊が殺されたと涙ながらに虚偽の証言をさせた。
ただ、クウェートに侵攻したイラク兵が略奪や暴行をしたことは事実で、人々がその話を信じてしまう背景はあった。
このナイラの証言は日本を含む各国のメディアで放送された結果、イラクに対する憎悪が集まり、多国籍軍の結成や湾岸戦争の後押しとなる。
世界はまんまとだまされた。
「外国政府によりアメリカ国内で行われた、最も洗練された高価な広報キャンペーンであった」と評価する人もいて、プロパガンダとしては過去に類例を探すのが難しいほどの成功を収めた。(ナイラ証言
少女の涙を見ると思考が奪われてしまうから、大人が子供を利用していないか、背後をしっかり見極めないといけない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。