【万歳と千歳】日本人の指摘に、現代の韓国人が怒ったワケ

 

日本や韓国の文化では、歓喜の瞬間に「万歳」を叫ぶ。
最近、中国で開催されたアジア大会で、韓国の選手がそれをするタイミングが早すぎて、取り返しのつかない失敗をしてしまった。

中央日報の記事(2023.10.05)

<杭州アジア競技大会>「金メダル」「チームメイト兵役免除」逃したチョン・チョルウォン「『万歳』を後悔している、軽率だった」

ローラースケート競技で、韓国のチョン選手は1位を確信し、両手を挙げて「万歳!」と叫びながらゴールした。
そしたら、後ろから猛ダッシュしてきた台湾選手に直前で抜かれ、2位になってしまった。
その差はわずか0.01秒。
この選手がゴールする前に「万歳パフォーマンス」をしていなかったら、金メダルは韓国チームのものだった。

選手には気のすむまで後悔してもらうとして、ここで取り上げたいのは「万歳」だ。
ある日本人がこの言葉を使ったことで、韓国の人たちを怒らせた。

 

 

グーグルに「韓国 時代劇」と入力すると、「ありえない衣装」という関連ワードが表示される。
韓国ではドラマを制作する際、視聴率が最優先されるから、「画面映え」がとても重視され、そのぶん時代考証がゆるくなる。
日本の時代劇に比べるとユルユル。
登場人物が、その時代には無かったようなカッコイイ(またはステキな)服を着ていることがよくあるから、それにツッコむ日本人は多い。

時代劇をエンターテインメントと割り切る姿勢に、あきれる韓国人もいる。
日韓友好を目的として、日本人と韓国人が参加するSNSグループで、まえに歴史を大切にする韓国人が歴史ドラマのワンシーンを投稿して、

「この時代に、こんな素材があるわけないじゃないですか。現代人が好きそうな派手なデザインもありえないです。これでは視聴者が誤解してしまいます」

と不満を言っていた。

韓国人が韓国ドラマについて、このレベルの文句を言っても特に問題は起こらない。
では、日本人がアップした”問題投稿”を紹介する前に、改めて「万歳」の意味について確認しておこう。

古代中国の言葉「千秋万歳」(せんしゅうばんぜい)の後半を取って、「万歳」がうまれた。
「千秋」とは千年(千歳)のことで、「長い年月」を意味する。
「万歳」とは一万年のことで、「限りなく永遠」を意味する。
つまり、万歳は千秋の上位互換だ。
だから、中国では、「万歳」は臣下が皇帝だけに言う言葉と決められていて、ワンランク下の王などの諸侯には「千歳」を使っていたのだ。
*皇帝は王よりも格上で、王は皇帝に対して臣下の立場にあった。

それを踏まえて、先ほどのSNSグループで日本人メンバーがこんな投稿をした。

「このまえ見た李朝朝鮮の時代を舞台にした韓国ドラマで、臣下が王に向かって『万歳』と言っていました。これは間違っています。朝鮮は中国の属国で、国王は中国皇帝の臣下でした。朝鮮では皇帝に配慮して、国王には『千歳』という控えめな言葉を使っていたのです」

新羅や高麗など、朝鮮半島に存在したすべての国で「万歳禁止」だったかは分からない。それに、中国にバレないように、王に対してコッソリと「万歳」を唱えていた可能性はある。
でも、1392年から1897年まで続いた朝鮮時代、公式行事で臣下は王に対して「千歳」と叫んでいたことは間違いない。
中国皇帝の専用ワードである「万歳」を使うことは考えられない。
だから、上の指摘はほぼ事実だ。

 

でも、正しいことと良いことは違う。
TPOを考えて主張しないと、内容が事実でも、相手のプライドや感情を傷つけて場が荒れてしまう。
あの投稿は、政治や歴史について議論するグループならよかったが、日韓の友好親善を目指すグループには不適切。
だから、さっそく韓国の人たちがかみついた。
彼らの主張は大体こんな感じ。

・朝鮮は独立国で、中国に従属していなかったから「属国」ではない。
・朝鮮国王が中国皇帝の臣下だったという指摘も誤り。
・「李朝」ではなく、「朝鮮」と呼べ。
・このグループで、歴史をわい曲する投稿をするな。

すると、投稿者はこんな反論をする。

・1895年に日清戦争で日本が勝利し、清が朝鮮の独立を認めたことで、韓国で初めて『万歳』が使われるようになった。
・李朝は中国の朝貢国だったから、「属国」の表現は正しい。
・朝鮮国王は中国皇帝に認められた「半島の統治者」に過ぎない。
・李朝の臣下は国王を「殿下」と呼んでいた。これは中国皇帝に対する配慮だから、「万歳」を使用しないのも当然。

個人的に、「殿下」という表現は初めて聞いたから、これについてはよく分からない。
これらの指摘は基本的に合っているけれど、正しくはない。
この日本人さんは相手の気持ちを考慮しないで、次々と事実を突きつけたから、怒った韓国人サイドから再度反論があり、ちょっとした炎上状態になる。
結局、この投稿は管理者によって削除された。
この投稿は日韓友好を目的とするグループではなく、自分のタイムラインにするべきものだった。
「正しさ」にこだわりすぎる人はときどき容赦や慈悲がなくなる。

 

朝鮮王朝を「属国」と呼べば、韓国人のプライドを傷つけて、怒らせるのはアタリマエ。
でも、それは現代の話で、その時代の韓国(朝鮮)人はそうじゃない。
当時の韓国人は中国をこの世で最も偉大な国と称え、そこに従属することを当然と考えていた。
朝鮮時代の末期(1895年ごろ)、朝鮮にいて政府関係者と交流のあったロシア公使が朝鮮情勢について、本国への報告書でこう述べている。

中国に属していた時代はこの半世紀の歴史において最も平穏で幸福な時期であったと考えられています。(中略)中国はその文化的影響によって朝鮮人の内面的な生活の至るところに浸透するという東洋の支配者とみられています。

「朝鮮外交の近代 (名古屋大学出版会) 森万佑子」

 

中国に属していた時代が最も平穏で幸福な時期であったーー。

この時代のロシア公使が本国にウソの報告をするとは思えない。
彼は中立的な立場にいて、朝鮮のありのままの姿を伝えたはずだ。

そもそも「朝鮮」という国名は、明の皇帝に選んで付けてもらったもので、中国は「国父」にあたる。
朝鮮時代の人たちはどれほど中国を尊敬し、慕っていたのか?
それは、16世紀に、朝鮮政府から北京へ派遣された趙 憲(ちょう けん)の態度からうかがえる。

朝鮮燕行使の趙憲は、皇帝万暦帝より謁見を賜る栄誉を拝受し、中華(大明帝国)の一員(属国)として世界秩序に参画していることに感激し、三跪九叩頭しながら喜びの涙を流すまでになった。

小中華思想

 

19世紀の朝鮮人が自国を中国の「属国」と考え、そのことを「栄誉」と感じていても驚くことではない。
もちろん、すべてがそうではなく、「独立派」の人たちはこの状態を屈辱的に感じていた。

 

それから時代が流れ、現代の韓国人は朝鮮を独立国だったと考えている。
150年前の韓国人が事故で亡くなり、現代に生まれ変わって、ネットに当時の認識を書き込んだとしよう。
たとえば、「中国皇帝こそ朝鮮の支配者である」というメッセージを書いたら、現代韓国人は激怒して「歴史をわい曲するな!」と袋叩きにするはずだ。
すると、転生韓国人は、朝鮮が中国の朝貢国だったことなどを挙げて、朝鮮は属国だったと反論するだろう。
数百年前の韓国人の常識からしたら、朝鮮国王に向かって「万歳」と叫ぶことは中国に対する不敬であり、許せない行為だ。

現代の韓国人と昔の韓国人が出会って、歴史について話をしたら、お互いに「何も知らないくせに、歴史をわい曲するな!」と激しくののしり合う予感しかない。
でも、あの投稿をした日本人なら、昔の韓国人ときっと意見や常識が一致する。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。