韓国人が「バスの運転」で感じた日本との価値観の違い

 

10年ほど前、ソウルを旅行した際、知人の韓国人女性に市内を案内してもらった。
1人でいるときは地下鉄やタクシーを使っていたから、バスで移動したいと伝えたところ、彼女は少し考えて「それは止めたほうがいいですよ」とやんわり断る。

こっちは韓国のバスに乗ってみたいのだけど、あっちはそんな体験に価値はないと言う。
彼女は国内を電車や地下鉄、自動車で移動していて、バスはできるだけ避けているらしい。
その理由は、バスの運転手は態度が悪く、運転が乱暴で、乗ってて嫌な気分になるからだと。
それでもバスに乗ることが決まると、知人は「車内で立っているときは急停車を想定して、必ず何かにつかまっていてください。これはマストです」と注意する。

でも、実際にバスに乗ってみたら、急停車だけでなく、バスの加速も想像以上にすごく、つかまっていないと倒れるレベルで驚いた。
降りた後に彼女に聞くと、あれが韓国では平壌、いや平常運転だから、私は乗りたくないんですと言う。
ボクも同感で、韓国でバスに乗ったのはこれが最初で最後になった。

 

あれから約10年が過ぎて、今では韓国のバス運転手の態度もかなり改善されたようだ。
と思ったら、現実はそうでもないようだ。

「KOREA WAVE」の記事(11月12日)

高速バス運転手「スマホで株価見ながら走行+あおり運転」という衝撃

韓国で最近、ある乗客が高速バスに乗って移動中、異変を感じた。
バスが左右に揺れるから、何だろうと思って前方に目を向けると、運転手が片手でハンドルを握り、もう片方の手でスマホを持って画面を見ている。
運転手はその日の株価を確認していたのだ。

日本人ならビックリするかもしれないが、これは韓国ではよくあるマルチタスク(複数の作業を同時にすること)…ではなくて、これは韓国人の常識からしてもあり得ない危険な行為。
乗客が抗議して止めさせたが、運転手は株価のチェックができなくなり、かなりムカついたらしい。
突然、車間距離を詰めるなどの「あおり運転」をやりはじめた。
まぁ運転手が怒り出したのは、株価が下がったせいかもしれないが。

運転手がスマホを見ながら運転する様子はSNSで公開され、韓国でひんしゅくを買っているという。
日本では、バスのドライバーが赤信号などの停車中に、熱中症対策としてお茶を飲むだけでクレームがくるのだ。
乗客を乗せたバス運転手がスマホの「ながら運転」と「あおり運転」をしたら、ひんしゅくを買うだけじゃ済まされない。
日本でもバス運転手の不祥事は起こるけれど、この合わせ技は次元が違う。

 

韓国のバス運転手については、先月にも朝鮮日報にこんな記事があった。(2023/10/17)

バス運転手「お前は何様か」 遅延出発に抗議した乗客の首絞める /群山

バスの運転手が同僚とおしゃべりを楽しんでいたら、出発時刻を過ぎてしまった。
(この時点では日本の出来事ではないとわかる)
怒った70代の客が抗議すると、運転手が逆ギレし、乗客の首を絞めて「お前は何様か。×××」と、新聞には書けないような罵声を浴びせたという。
後日、バス会社側は「あり得ないことが発生した」と謝罪した。

もちろん、良い運転手もいる。
韓国のある運転手は、赤ん坊を抱いてバスに乗り込んできた女性に気づいて、席を譲るようアナウンスした。
それは日本人女性で、この気遣いに感動したというニュースがあった。

 

上の2つは特殊なケースとしても、日本と韓国のバスを比べると、一般的に日本の運転手の方が態度やマナーは良い。
冒頭の韓国人女性は東京で暮らしたことがあって、少なくとも、彼女はそう太鼓判を押す。
彼女がワーキングホリデーで日本に住んでみて、特に印象的だったのがバスだった。
日本のバス運転手は、アクセルやブレーキをゆっくり踏むから、バスは少しずつ動き出してやさしく停まり、車内で倒れる心配がない。
それに、運転手はしっかりバス停で停車してくれる。
韓国のバスに、そんなサービスは期待してはいけないらしい。

日本人向けに韓国の情報を発信しているサイト『ソウルナビ』にも、「バス停はあってもないようなもの!!」と注意がある。(ソウルでバスに乗る時の心得!
韓国でバスに乗る際は番号を確認し、そのバスが停まったところへダッシュする。
だから、ソウルでは「列をなして走っているお年寄り、子供、サラリーマンをよく見かける」という。
そのせいか、知人は日本に来てからバスの概念が変わって、とても便利で快適に感じるようになり、よく利用していた。

 

その韓国人女性は日本に住んでいて、バスの運転手やコンビニの店員などの態度やサービスが良くて、よく感心したという。
彼女が考えるにその理由は、日本では韓国よりも、従業員の教育がしっかりされているから。韓国社会では全体的に、社員やバイトを教育するために、時間やお金をかけたがらない。
それに、国民の間にも「運転手にマナーやサービスを求めても仕方ない」とあきらめる空気がある。
韓国は超競争社会で、トップレベルの大学や企業は高い評価や敬意を集めるが、その反動で、肉体労働者を軽視する雰囲気がある。
日本でもそれがないワケではないけれど、知人からすると韓国社会よりは薄く、どんな立場の人でも尊重される空気を感じる。
バスの運転の違いの背後には、きっとそんな日韓の価値観の違いがある。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。