1941年のきょう12月8日、日本軍が真珠湾攻撃(とマレー作戦)を決行し、太平洋戦争がはじまった。
この戦争は1945年に広島と長崎へ原子爆弾を投下され、日本が力尽きたことは誰でも知ってるはず。
でも、それから約50年が過ぎた1994年に、「原爆切手発行問題」が起きたことを知ってる人はきっと少ない。
2023年のいま、日本では戦争の記憶も遠くなって、みんながアメリカ文化を楽しんでいる。
クリスマスにはフライドチキンを食べるという、アメリカと融合した日本独自の文化も生まれた。
しかし、日本とアメリカの距離がすごく縮まった現在でも、原爆投下については認識の違いを埋められないでいる。
広島の被爆者
戦時中、アメリカは核兵器の開発を進めていた。
そのプロジェクトが「マンハッタン計画」で、責任者だった科学者のオッペンハイマーは成功に導き、後に「原爆の父」と呼ばれるようになる。
核実験を成功させたとき、オッペンハイマーは一瞬で大量の日本人を殺害できることをさとり、「我は死なり、世界の破壊者なり」という言葉を思い浮かべたことは有名。
そんな彼の人生を描いた映画『オッペンハイマー』がやっと来年、日本で公開されることになった。
そのことについて、配給会社のビターズ・エンドはこんなコメントを出す。
「本作が扱う題材が、私たち日本人にとって非常に重要かつ特別な意味を持つものであるため、さまざまな議論と検討の末、日本公開を決定いたしました。」
アメリカでこの映画は今年7月に公開され、 韓国やインド、中東でもすでに上映されている。
日本でこれほど遅れた理由は、日本人は原子爆弾にとても敏感で、ほかの国と違って反応が予測しにくかったから。
しかも、アメリカでは、バービー人形の映画『バービー』と結びつけられた「バーベンハイマー(Barbenheimer)」という社会現象が生まれ、これが日本人を怒らせた。
ファンが原爆のキノコ雲を背景に、笑顔を浮かべるバービーの画像を作ってネットに投稿すると、『バービー』の公式アカウントがこんな好意的な反応をする。
「It’s going to be a summer to remember 😘💕」
(忘れられない夏になりそう😘💕)
あの雲の下で数十万人の日本人が死に、大ケガを負ったのだから、日本としては笑顔やハートマークは絶対に受け入れられない。
結果、世界中で大ヒットした『バービー』は、興行的には、日本のメディアに「核爆死」と書かれるほどの大失敗に終わる。
『オッペンハイマー』は真面目な歴史映画だから、日本で公開されても問題はないと思うのだけど、会社側としては大きな不安を抱えていたようだ。
原爆投下についてアメリカでは一般的に、「それによって戦争終結を早めた(=被害を少なくすることができた)」と好意的に考えられている。
それで、1994年にアメリカの郵便公社が、キノコ雲のデザインと「原爆が戦争終結を早めた」という説明を加えた切手を発行すると発表した。
原爆投下で子どもを含む多くの市民が殺された日本では、核兵器は絶対に使ってはいけない非人道的な兵器と認識していたから、 この切手の発行に大反発し、当時の政府要人はこんなコメントを出した。
河野外務大臣:「被爆国たるわが国の国民感情からいえば、決していい感じはもたない」
村山総理大臣:「国民感情を逆撫でするようなことは困る」
五十嵐官房長官:「わが国にしてみれば、あのことで三〇数万人が亡くなり、いまなお原爆症に苦しむたくさんの人がいる。そういう痛みが国民感情に深くあるので、こういう点を考えてほしいという気持がする」
アメリカでは、あの戦争は真珠湾攻撃という日本の「だまし討ち」によって開始されたもので、原爆投下は当然の報いとする主張もあって、日本の反発に不快感をしめす。
しかし、この時の日本は譲らない。
郵政大臣は記者会見でこう言い切った。
「もしアメリカがこんな切手を出すのなら、対抗して、日本も”原爆投下は国際法違反”と書いた切手を発行したい」
この「原爆切手発行問題」は最終的に、アメリカが日本の国民感情に配慮し、切手の発行を中止して終わった。
もちろん、「原爆が戦争終結を早めた」という歴史認識を撤回することはなかったが。
アメリカとしては、これだけは譲れない。
日本も、アメリカ人の考え方を変えるつもりはなく、切手の発行さえ阻止できればよかったはず。
それに成功したから、これは日本の“勝利”と言える。
戦後、日米は仲良しになったけれど、原爆投下の認識はいまでも大地雷のまま存在していて、不用意に触れると爆発する状態は変わっていない。
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