日本と韓国では、近代史の認識が違うのではない。逆転しているのだ。
今年の春ごろ、日本の文科省が中学校の歴史教科書をチェックし、内容に間違いが無かったため「OK」を出すと、すぐに韓国はNGを突きつけた。
中央日報(2024.04.20)
「歴史歪曲」教科書 また検定通過…韓国政府、日本大使呼んで抗議
ハンギョレ新聞」(2022-03-30)
[社説]慰安婦・強制動員の「真実」消した日本、関係悪化を望むのか
「また」と書かれているように、日本の歴史教科書について韓国側が抗議するのはこれが初めてではない。これまでに何度もあったから、日本のネット上では、「検定の風物詩」と受け流す人もいる。
立場が逆になって、韓国政府が「OK」を出した歴史教科書に日本政府がダメ出しをしたら、韓国側はその無礼を許さないだろうけど、まぁそれはいいとして(よくないが)、韓国が問題視したのは近代史の記述だ。
今回の教科書では、日本統治時代(韓国では日帝強占期)について、以下のような内容が書かれていたから、「歴史を歪(ゆが)めている!」と怒られてしまった。
・日本軍が朝鮮の女性を強制連行したという事実はない。
・徴用工には賃金が支給されていて、違法ではなかった。
・日本が鉄道、ダム、上下水道、病院、電話、郵便などを整備し、朝鮮の近代化につながった。
一方、韓国側では日帝強占期について、一般的に以下のことが真実とされている。
・日本軍が朝鮮の女性や男性を強制連行し、慰安婦や徴用工として奴隷のような過酷な労働を強いた。
・日帝(大日本帝国)が朝鮮の資源や食料などを奪ったため、国土は疲弊し、食べ物が無くなって民衆は困窮した。
日本の歴史教科書の内容は、こうした「歴史的事実」と矛盾する。
韓国側の歴史認識を知るために、中学生用の歴史教科書を見てみると、この時代の朝鮮の人びとの生活についてこう書かれている。
自分の身体を売って生計を維持するしかない人々が故郷を離れなければならなかった。
彼らが行く所は多くはなかった。日帝の経済侵略によって工業発展が遅れ、どこでも働き口を探せなかったからである。「躍動する韓国の歴史 (明石書店)」
韓国としては、これに反することは認められない。
日本が社会基盤を整えたという説は、これを真っ向から否定するから、「植民地支配を美化している」と激怒した。
しかし、文科省の検定をパスしたということは、先ほどの内容は少なくとも日本にとっては、すべて真実ということになる。
実際、日本軍による「慰安婦強制連行説」には客観的な根拠が無いため、日本政府はそれを否定し、国連で訴えたこともある。徴用工についても法律に基づいて行われたことで、国際法に違反していないと主張している。
日本の「真実」と韓国の「真実」が正面衝突し、これは絶対に負けられない戦いだったから、韓国外務省はこんな声明をだす。
・極めて非常識で理解できない嘘の記述を含む教科書を検定で通過させたことに深い遺憾を表明し、即刻是正を求める。
・青少年に歪曲した歴史観を教える無責任な行動。
・未来を築く世代がこのように偏向的で歪曲された歴史教育に露出する場合に抱くことになる偏見に懸念を禁じえない。
そして、日本政府に対して強い遺憾の意を表明し、日本大使を呼んで抗議した。
韓国メディアも、検定を通過した歴史教科書を「右翼教科書」と非難し、「日本の歴史認識の後退を端的に示している」と嘆く。
そう反発されても、日本の歴史教科書が韓国政府の基準で書かれていたら、それこそ大問題だ。
現実的に不可能な要求をし、「関係悪化を望むのか」と迫るのは、友好国に対する態度ではない。
日本の統治がどのようなものだったのかは、その時代を生きていた人がよく知っている。
1929年に朝鮮半島に派遣されたアメリカ人記者は、「朝鮮時代よりも日本統治によって朝鮮人民は救われている」と評価をした。(日本統治時代の朝鮮)
現代の韓国から見れば、これも「極めて非常識で理解できない嘘の記述」で、このアメリカ人は「極右記者」と認定される。
では、次に、日本統治時代に生きた韓国人の声に耳を傾けてみよう。
以前、現在 60代の韓国人の読者さんが、貴重な経験談をコメントでおしえてくれた。
彼が子どものころ、学校で日本の蛮行について学んでいて、ある日、先生から「日帝時代に日本人が朝鮮で行った蛮行について親、祖父母に聞いて調査してこい」という宿題をもらった。
それで家に帰ると母親に、「日本人は私たちにどんな悪いことをしましたか?」と質問する。
日本刀を持った日本の警察官は朝鮮人を殴りつけ、虐待したという話が出てくると期待していたのに、母はこう言った。
「日本人は公平で礼儀正しく親切な人たちだった」
まさかの返答に彼は困ってしまう。
学校で学んだこととまったく違うから、そんな内容を書いて先生に提出すれば、ひどい評価を受けることは明らかだ。
それで、「いや、お母さん、日本が朝鮮人を虐待した話をしてください」と頼むと、母はこう答えたという。
「そんなのないよ」
また、こんな話もある。
1956年に韓国で生まれた評論家で、日本研究者でもある呉 善花(オ・ソンファ)という女性がいる。
彼女は子どものころに反日教育を受けた結果、日本人は我が民族を徹底的にいじめたとんでもない人たちで、絶対に許してはいけないという気持ちを強く持っていた。
しかし、呉さんが日本に住みはじめ、日本人からさまざまな話を聞くと、どうも韓国の教育がおかしかったようだと疑問を感じるようになる。
それで、彼女が日本統治時代に生きた人たちにインタビューをして、その記録を『生活者の日本統治時代 (三交社)』という本にまとめた。
この中に、韓国人男性の閔(ミン)さんに行なったインタビューがある。
呉さんは先に、日本人の吉田さんから話を聞き、そのとき吉田さんから、統治時代の親友の閔さんを紹介された。
呉さんが電話で吉田さんの名前を出すと、閔さんはとても喜んで会って話をすることとなる。
(この時点で現在の韓国の歴史認識とは大きく違う。)
当時の日本人と韓国人の関係について聞くと、閔さんは、個人的には日本人と仲が良く、悪い感情は無かったと答えた。韓国人が日本人に嫌がらせをしたというのは、見たことも聞いたこともないという。
日本が韓国人の家や土地、財産を奪ったか聞かれると、「いえ、そういうことはまったくありませんでした」と回答した。
閔さんは統治時代のことを嬉しそうに話していたが、30代の息子が入ってくると態度が急変した。
呉さんは、父親が客と話している場に入ってくるから、「失礼ではないか」と不快に感じたが、息子は座って父の話を聞いている。
閔さんは息子が気になって話しづらそうになり、「典型的な反日的発言が飛び出すようになっていった」という。
たとえば、いきなり「日本人は韓国人にひどいことをした」「日本人にはいいことは一つもなかった」と言い出す。
しかし、その具体的な例は出てこない。
状況から推測するに、戦後教育を受けた息子は父親を「監視」していたのだ。
父もその気配を感じたから、突然、日本の悪口を言い出した。
そうでなければきっと、後で息子に「植民地支配を美化するな」、「親日(売国奴、非国民)だ」と非難される。
父親はそれを恐れ、時代の空気に合った模範的な回答をしたとしか考えられない。
戦後の韓国社会には、息子にさえ本音を話せない状況があったことは想像できる。
現代の韓国で、「日本人は韓国人に対して親切だった」、「日本は韓国人の家や土地、財産を奪わなかった」と話せば、「極めて非常識で理解できない嘘」や「歴史の歪曲」と激しく非難され、立場によっては社会的に抹殺されてしまう。
日本軍の「慰安婦強制連行説」を否定した朴 裕河(パク・ユハ)教授は有罪判決を受け、給料の一部を差し押されてしまった。最終的には無罪を勝ち取ったが、朴教授が失ったものはあまりに大きい。
「真実を消した」のはどっちなのか?
当事者が自由に話せる雰囲気をつくり、ネガティブな意見とポジティブな意見に耳を傾けていれば、韓国の歴史認識は現在のものとは違い、台湾に近いものになっていたと思う。
同じ日本統治を受けた台湾は、日本政府が認めた歴史教科書に怒り、「関係悪化を望むのか」と迫ることはない。
今の韓国人は漢字をどう思う?漢字を読めないハングル世代はいつから?
事実と真実を追求する韓国人として、もし、韓国で暮らす心情を語るようにと聞かれると、ガリレオの言葉を思い出すことになります。
“And yet it moves”
苦しいお気持ちはお察しします。
「自分の家族が無理矢理連れてかれてスレイブにされてもいいのか?」
こんな喩えを用いて主張する韓国の方をデモ活動やメディア、ネットの空間でよく耳にします。
その度に私は
「自分の家族が誘拐犯や性暴行犯だと訴えられていたら、こう思わないか?その証拠はあるのかと。」
と思っています。
韓国社会でその説を否定すると、人として否定されます。