日本を旅行した韓国人が“地方の魅力”に感心し、母国を嘆くわけ

 

SNSを見ていると、ある韓国人が九州旅行の感想を投稿していた。
その人は前に大分の由布院温泉を楽しんで、その時に熊本にも良い温泉があると聞いたから、今度はそこへ目的地にした。
すると、きれいな川ときれいな緑の中に、歴史を感じさせる旅館がいくつもあり、自然と伝統文化が一体化していて、とても魅力的な観光地になっていることに感動した。
ほかにも、鹿児島には砂むし風呂で有名な指宿温泉があるから、次はそこへ行ってみたいと意気込む。

日本は九州の温泉地だけを見ても、さまざまな魅力を持つところがあって、さらに季節に応じた楽しみ方を提供している。そんなことを知って、その人は日本人の創意工夫や努力に感銘を受けた。
そして、ここが韓国人らしいところで、日本と母国を比較してこう嘆く。

「왜? 한국은 이러한 전통을 살려서 온천지역을 활성화 하지 못했는지 안타깝습니다.」
(なぜ、韓国はこのように伝統を生かして、温泉地域を活性化できなかったのか、残念です。)

この韓国人が言うには、毎年たくさんの外国人が旅行で韓国へ来るけど、そのほとんどはソウルやチェジュ島など特定の場所に行くだけで、地方には足を運ばない。観光は特にソウル中心に偏っていて、地方の観光産業は盛り上がらないし、利益を上げていない。
だから、この人は、日本のように地域の良さを積極的にアピールして、観光商品を紹介する広報活動に力を入れる必要があると訴えた。

 

韓国では全国に、力を入れて観光業を盛り上げようとする重点地区がある。
しかし、東亜日報の記事によると、その観光特区を活性化させるため、年間30億ウォン(約3億3千万円)の税金を投入しているのに、「見るものがない」と旅行者を失望させ、廃業するホテルや飲食店が続出しているという。(2024-10-18)

“볼 것도 없네” 관광객 끊긴 관광특구… 年30억 투입해도 줄폐업

記事の中で、温泉地を訪れたキムさんが、「ここが観光特区? 見るものも楽しむものもない……」と絶句している。
現在、34カ所ある観光特区のうち、基準を満たしているところは2つだけしかない。
観光特区の評価は毎年行われていて、「優秀」「普通」「不十分」「不振」の中で「不振」の評価をされると、特区の指定が解除され、支援金をもらえない可能性がある。しかし、それを行うのは各自治体だ。
つまり、自分で自分をチェックする「セルフ評価」だから、ほとんどの場所の評価は「普通」になり、指定解除は行われない。
だから、記事では、観光特区の基準と制度の見直しが必要だと提言している。

 

 

19世紀の末期に、日本人の本間九介が朝鮮半島を旅行した。
彼は釜山(プサン)から陸路で京城(ソウル)へ行く途中で、東萊(トンネ)という温泉村を訪れる。
本間はそこで「李別将」という朝鮮人と出会い、筆談をして、ソウルへ行くには二つの大きな道があるから、そのどちらかを通ればいいと教えてもらった。
本間がその情報にしたがって、小径(しょうけい:2人以上が並んでは通れないほどの小さな道)を歩いていても、なかなかソウルに達する大きな道と合流しない。
途中に分かれ道はなく、迷うようなところもなかったから、これでいいはずだ。不思議に思いながら歩いていると、本間はあることに気がついた。

そこではじめて、別将が説明してくれた大道が、この小径であることを知ったのである。私は、かの国の道路事情が悪いことに、たいへん驚いた。

「朝鮮雑記――日本人が見た1894年の李氏朝鮮 (祥伝社) 本間九介」

 

本間九介が旅行したころ、朝鮮で流通していたお金は硬貨だけで紙幣はなく、朝鮮の人たちは紙幣を見ても、それが何か理解できなかったという。
だから、日本人が紙幣を取り出すと、人々が集まってこんなことを言った。

「こんなものを通貨というのは、もしや日本人は、私たちを欺こうとしているのではないか」

【韓国の渋沢栄一】130年の日本人が感じた朝鮮経済の停滞

 

東萊(トンネ)の温泉村は、朝鮮時代には、王族や両班(貴族)が休養に利用していたところで、日本の統治時代になって鉄道が開通してから、近代的な温泉地として発展していった。
本間九介や同じ時代に朝鮮を旅したイギリス人イザベラ・バードの記録を読むと、当時の朝鮮では経済が停滞していて、日本に比べるとインフラストラクチャーもかなり遅れていたことが分かる。庶民が旅行するのは、現実的には不可能だったはずだ。
温泉地だけを見ても、日本と韓国では開発にかかった歴史の長さが違う。韓国が地方観光の魅力をつくり上げるのはこれからで、いまは日本との比較はやめた方がいい。

 

 

韓国 「目次」 ②

韓国 「目次」 ③

近代化に貢献 vs 経済侵奪 日韓で逆転する渋沢栄一の評価

優秀な遺伝子?韓国人で好き嫌いが分かれる「クッポン」

【鬼神信仰】19世紀の韓国で、英国人と日本人が感じたこと

日本人から見た韓国人 130年前からある「誇張表現」

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。