サーモンは超失礼? 香港人の寿司に対する愛と関心の高さ

 

知り合いの香港人の大好物はお寿司。
日本へ来て寿司を食べまくれば、それだけで日本旅行のモトを取れると言う。
彼女にとって、日本の寿司の魅力はまず値段が安いこと。もともと香港は日本より物価が高く、3、4年前の彼女の感覚では、香港と同じレベルの寿司が日本では3分の1ほどの値段で食べることができた。
香港では日本人が握った寿司は基本的に割高だから、その点でも日本で食べることが安心できていいらしい。まぁ、最近ではキッチンを覗いてみると、アルバイトのベトナム人や中国人が握っていることも多いのだけど。

それと、その香港人は日本文化に興味があって、火を通す中華料理に比べ、日本料理の本質は生食にあると考えていた。素材が本来持つ味を最大限に引き出すことが和食の大きな特徴と思っていたから、鮮度を命とする寿司はその代表になる。本人的には、油や刺激の多い中華料理と違って、寿司はヘルシーだから、たくさん食べてもあまり気にならない。

 

香港の人たちの寿司への愛や興味はいまも高いらしく、香港メディア「香港01」に面白い記事があった。(2024-10-19)

日本江戶前壽司店點三文魚壽司超失禮?拖羅都唔得、識食必點XX!

香港の漢字は日本でむかし使われたものだから、基本的にむずかしい。寿壽は「すし」、三文魚は「サーモン」、超失禮は「超失礼」になる。
記事のタイトルは、「日本の江戸前すし屋でサーモンを注文するのは超失礼なこと? 食べ方を知っているなら、XXを注文しなければならない!」といった意味になる。ネタバレすると、これは卵焼きのこと。

香港人が日本食と聞けば、まず寿司が頭に浮かぶ。日本を旅行すると、リーズナブルな回転すしだけでなく、修行を積んだ職人のいる本格的な寿司屋に行く香港人も多い。それで記事は、去年日本であったお寿司をめぐる論争を取り上げた。

日本の漫画家の「ゐ」さんが Xに、「寿司屋でサーモンやめろ」というメッセージとと4コマ漫画を投稿した。
キレイ系女子がイケメン風の男性と江戸前寿司の店に行ったところ、男性がサーモンの握りを注文したから、女性が「……逃げ出したい」と言葉を失った。
これで日本のネット界隈では、江戸前寿司屋でサーモンを頼んではいけないのかどうかの議論が巻き起こる。サーモンは香港人も大好きなネタの一つだから、その理由が気になるらしい。

香港メディアの記事はその理由として、江戸時代、今の東京湾でサーモンは獲れなかったことと、もし獲れても、生で食べる習慣がなかったことを指摘する。
そもそも寿司ネタとしてサーモンが無かったから、いもでも伝統を大切にする本格的な江戸前寿司店の職人は、天然物の魚しか握らないことを誇りにしているという。
それだけではなく、回転すしの店と差別化を図るために、あえてサーモンを扱っていない店もあるのでは?

また、記事では、高級寿司店では食べる順番があって、サーモンやトロのような脂の多いネタではなく、アッサリしたネタから食べ始めるべきだと伝えている。そして、職人の技術を確かめるために、卵焼きを注文しなければならない! と強調する。

 

江戸前寿司のお店に行って、三文魚を注文するのは超失禮なことになるのか?
それはないと思う。そもそも、ネタとして店に置いてあるなら問題ないし、無いものを頼むのは常識としておかしい。
ネットを見ると、最近では高級寿司屋でもサーモンを扱う店が増えている。それに、寿司職人は客とのコミュニケーションを大切にして、リクエストに応えようとしているから、サーモンの握りを注文して「超失礼!」と怒るとは思えない。それよりも、香水や遅刻をマナー違反と考えているらしい。

この記事に日本のネット民はどう思ったか。

・そんなめんどくさい食い物じゃないよ
・好きに食えよ エセグルメの押し付けなんぞ気にしてどうすんだよ
・頼むならエビマヨチーズ炙りと穴子チーズ炙りだよな
・うなぎ頼んで、「海のモンしかねぇよw」って笑われたって聞いたことあるわ。
・東京湾で取れた魚で寿司を握るから江戸『前』寿司なのであって
豊洲で買ってきた魚を握ってる寿司屋にサーモン云々言われたくねえよな

 

江戸時代にこだわったら、イクラもトロも扱うことができなくなる。
脂ののったトロはダメになるのが早いから、昔は加熱して食べて、それ以外の部分は捨てられていた。トロを生で食べるようになり、人気が出てきたのは戦後になってからだ。
それにしても、寿司に対する香港人の関心や愛の強さは想像以上だった。
専門誌ではなく一般のネットメディアで、江戸前寿司でサーモンを注文するのはNGなのか、食べる順番はどうなのか、卵焼きの意味などを解説しているとは思わなかった。

 

 

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

外国人の質問「すしを食べるのは箸か素手か?」の答え

黒人が握る寿司:多様性・寛容を試されるこれからの日本人

インド人が感じた「日本の多様性」。衣と食の沖縄文化

反論できる?「日本人が、外国人の日本料理をインチキと言うな!」

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。