昨年末にウクライナ人、ベトナム人、バングラデシュ人といっしょに富士山が見える山に登ってきた。この山の頂上では、個人的にひそかな楽しみにしていることが２つある。
まずは外国人が富士山と駿河湾の絶景コラボを見て（トップ画像）、全員が「オオ〜」とため息をもらすのを聞くこと。静岡県民としてこの反応はとても誇らしい。
そしてもうひとつは、彼らが用意してきた昼ご飯から、母国の食文化が見えてくることだ。
今回も彼らがバッグから食べ物を取り出す様子を、まるでドラえもんがひみつ道具を出すような期待感をもって見ていると、ウクライナ人はお手製のサンドイッチ、ベトナム人はコンビニで買ったおにぎり、そしてバングラデシュ人はスパイスの効いた麺とご飯ものを出した。
この日のバングラデシュ人のランチはチョウメン（麺類）とたぶんキチュリ（ご飯もの）、それと具材をチャパティで包んだもの（名前は聞いたけど、秒で忘れた）。
こういう食べ物のおすそ分けがあるから、それも自分内で、外国人とハイキングへ行く楽しみの一つになっている。
母国での食事のしかたについて聞くと、彼らはこんな話をした。
ウクライナ人は西洋人だから、基本的にはスプーン、フォーク、ナイフを使って食べて、ピザやフライドポテトなどは手で食べる。
バングラデシュ人は国民食のカレーをはじめ、チョウメンなどの麺類も手で普通は手で食べる。ただ、それはおもに家庭内の話で、レストランでの食事はスプーンやフォークを使うことが増えるらしい。
ベトナム人は以上の話を総合した感じで、手も道具もよく使う。
日常的には箸を使ってご飯や麺類を食べるけれど、フランスの植民地支配を受けた影響から、スプーンやフォークで食事をすることも多い。
ベトナム料理を代表する生春巻きは野菜や肉をライスペーパーにのせて、手で巻いてタレにつけて食べる。そんなふうに、手を使って食事をすることもよくある。
話を聞いていて、日本人の食べ方にいちばん近いと思ったのはベトナムで、バングラデシュはウクライナ以上に離れている。
日本人も一般的に箸と西洋の食器を使って食事をするけれど、おにぎりやすしのように手でつかんで食べるものも多い。春巻きの食べ方は手巻きすしとそっくりだ。
日本では大人がご飯や麺類を手で食べると、周りをドン引きさせてしまう。でも、日本人のように麺をすすって食べる行為は、世界基準ではマナー違反になる。これは文化の違いで、基準が変われば見方も別ものになる。
戦国時代の末期、日本にキリスト教を広めるためにポルトガルからルイス・フロイスという宣教師がやってきた。彼は織田信長や豊臣秀吉と会って話をしたこともある。
＊いま「ルイス・フロイス」と入力して変換したら、「ルイス風呂椅子」になって驚いた。彼はフランシスコ・ザビエルほど有名ではなくても、日本史ではわりと知られた宣教師だと思うのだけど。
フロイスは日本人の行動を観察し、ヨーロッパ人との食文化の違いについて『日欧文化比較』でこんなことを述べている。
・われわれヨーロッパ人は手を使って食べ、日本人は箸を使って食べる。
・われわれは食事の前後に手を洗うが、日本人は食べ物に手を触れてから洗う必要はない。
・われわれは食事の際、椅子に座り、日本人は畳の上に座る。
・われわれの料理は少しずつ運ばれてくるが、日本では一度に全部のせて出す。
フロイスがいたころのヨーロッパでは、すでに一部ではフォークも使われていたが、全体的には肉やパスタを手でつかんで食べることが一般的だった。道具を使って食べる習慣は日本のほうが早かった。
人類の「食事のしかた」の移り変わりを見ると、普通は手づかみから、フォークや箸などの道具を使う状態へ変化してきた。
しかし、バングラデシュ人やインド人はそれに逆行し、あえて手を使って食べている。その理由には、カレーという食べ物の特殊性があると思う。
これまで彼らから、スプーンやフォークなどの道具を使うよりも、手で食べた方が清潔でおいしく感じられるという話を聞いたことがある。手のほうが、よりリアルに食感を感じられて良いらしい。
それに加えて、今回のバングラデシュ人に言わせると、指を使ってカレーの具材やスパイスを細かく混ぜることで自分好みの味に調節できるから、スプーンを使うより手で食べた方が絶対においしい。
日本人も一周回って古代に戻り、カレーライスなどのご飯ものを指で食べると新しい発見があるかもしれない。
おまけ
食事のしかたについては、日本に住んでいたインド人から「スプーンですしを食べておいしいと思うか？ カレーもそれと同じだ」という話を聞いて、妙に納得したことがある。箸ですしを食べるのはいいとしても、スプーンやフォークで食べたいとは１ミリも思わない。
インド人やバングラデシュ人、スリランカ人が伝統料理のカレーを素手で食べたいと思うのも、これと同じような感覚か。
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