親切&丁寧、そしてフレンドリーといった接客の王道をバッサリと捨て、客に上から目線の態度で接するレストラン(ザ・レイジーハウス)が名古屋にある。客が店に入ると「早く歩け! 早く!」と移動をうながされ、店員は無愛想に食べ物を持ってきてテーブルに「どんっ!」と置く。そして会計を済ませると、「金払ったからもう用ない」と退店を指示される。
もちろんこれは、接客態度の悪さを「エンタメ」として楽しめる感性のある人を対象にしたレストランで、入店前にコンセプトを説明しているから問題はない。と思ったら、昨年、沸点の低い客がいて傷害事件が発生したらしい。
外国人に話を聞くと、日本ではコンビニやレストランで店員が笑顔であいさつをしていて、全体的にサービスがすごく良いと褒める人が多い。
特に知人のハンガリー人はそれを絶賛していた。
中欧(か東欧)のハンガリーは、戦後ずっとソ連の影響を受けた共産主義政権に支配されていて、1989年にその一党独裁制が崩壊し、現在の民主的な国に生まれ変わった。
彼が言うには、共産主義体制の社会では、決められた仕事(ノルマ)をすればいいだけだから、客に笑顔を見せる理由も必要性もなかった。当然、サービス精神なんて育つはずない。
35年ほど前に民主化され、「笑えばいいと思うよ」というアドバイスも受けて(しらんけど)、ハンガリーでも笑顔が増えてきて、共産主義時代に比べれば、かなりマシになったらしい。しかし、日本の気持ちいいサービスには遠く及ばない。
そんな話を聞いた後、ドイツ人と話す機会があった。
ドイツの事情は、半分ハンガリーと似ている。
戦後、ドイツは東西に分裂し、西ドイツはアメリカと同じく資本主義の国となり、東ドイツはハンガリーと同じく、ソ連の息がかかった共産主義政権に支配されていた。1989年にベルリンの壁が崩壊し、翌年1990年に東ドイツが西に吸収される形で再統一された。
そんな特殊な歴史を持っているドイツのサービス事情はどうなのか? 西はアメリカ的で、東はハンガリー的といった違いがあるのだろうか?
ドイツの電車と駅
知人のドイツ人は日本に住んでいたから、東西ドイツと日本を比べて意見を言うことができるはずだ。
そう思って期待を込めて彼にたずねると、
「私は西ドイツに住んでいて、東には何度か行ったことがある。サービスについては特に違和感はなかったから、私には同じレベルだったね」
とやや意外なことを言う。
彼は西ドイツで生まれて、子どものころに東西が一つになったから、東ドイツに行って、共産主義社会を肌で体験したことがない。祖母は東ドイツ出身で、店員は無愛想で怒りっぽいと聞いていたから、西に比べるとサービスレベルは低いと思うけど、それがどの程度なのかは分からない。
ただ、彼的に最も重要なポイントは、もともと西ドイツはサービスの良い国ではなく、現在の統一ドイツも日本に比べたら、接客態度は全体的に悪いという点だ。
スーパーの店員が「いらっしゃいませ」と言うかどうかは、その人のその日の気分に左右されるから、客が無視されることもしばしば。
日本に比べると、特に鉄道のサービスがひどい。
時間に遅れることは「あるある」で、運行がいきなりキャンセルされることも多い。そんなとき、日本のように「ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません」といったアナウンスはなく、ドイツの鉄道職員は絶対に謝らない。利用客はその不便に慣れないといけない。
ドイツの鉄道職員は客に対し、「上から目線」の言動が標準で客が怒鳴られることもある。
だから、日本で新幹線に乗っていて、車掌が車両に入ってたときに頭を下げたのを見て、ドイツでは異世界の光景に心が震えたという。
以前、ドイツに住んでいた日本人がSNSに、駅の構内で制服を着た鉄道職員が喫煙コーナーで、一般客と会話を楽しみながら、リラックしてタバコを吸っているのを見てビックリしたと投稿した。
日本なら、職員がタバコを吸う姿を見せるだけで「罪」になり、客から多数の苦情がきて、会社は謝罪に追い込まれる予感しかない。
日本は昔からサービス精神が行き渡っていたのか、それとも、どこかで「分岐点」があってそうなったのか、じつはそのへんがよく分からない。
コメント
コメント一覧 (2件)
> 日本(の鉄道)は昔からサービス精神が行き渡っていたのか、それとも、どこかで「分岐点」があってそうなったのか、じつはそのへんがよく分からない。
へー、ブログ主さんは知らないんですか。そんなの分かり切ったこと。
1987年第三次中曽根内閣が行政改革の一環として行った「国鉄分割民営化」が、その転換点の始まりです。昔の国鉄はそりゃもう「親方日の丸」が服を着て歩いているようなもので、労働組合を介して共産主義過激派セクトなども入り込んで、誰の言うことも聞かないような強い「役所」でした。列車や駅の国鉄職員なんか、乗客に対して、まるで警察のように(←いい意味でも悪い意味でもです、そこは日本の「警察」ですから海外とは違う)ふるまってました。「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」なんてアナウンスは絶対になかったです。私はまだ子供~少年でしたけど、実感としては結構覚えています。なぜか私鉄も当時は似たような感じでした。
それが今では完全な営利企業として、自由競争市場において、サービスの向上で私鉄やJR各社で競い合うようになったのです。つまり規制緩和と民営化の利点が充分に発揮されたという訳です。
国鉄の分割民営化をもって、70年安保以来の日本の社会主義運動は終息を迎えたと言えるんじゃないでしょうか。
国鉄は「酷鉄」と言われていましたからね。
ただ、ここでは日本全体のサービスについてです。