日本・米国人の「心に刺さった」名演説 北条政子とパトリック・ヘンリー

3月23日は1775年に、アメリカ独立戦争でパトリック・ヘンリーが永遠に消えることのない名演説を行った日。それにちなんで今回は、日米の歴史であった「心に刺さる名演説」を紹介しよう。

 

欧米にあって日本にはなかったもの、それが演説だ。
公開の場で個人が自由に意見を述べて聴衆の心に訴えて、自分の望む方向へ世論を動かすことは、日本では江戸時代までは必要なかったらしい。明治時代、福沢諭吉は欧米列強をモデルに、日本を近代化・文明化するにはそれではいけないと考え、英語の「speech」を「演説」と訳しって広く社会に紹介した。
それまでの日本社会には、「スピーチ」の概念がなかったかもしれないが、演説が行われた例はあった。
特に有名なのは、鎌倉時代に北条政子が御家人に対してしたものだ。

1221年、後鳥羽上皇が「鎌倉幕府を打つべし!」と諸国の武士に命じ、1221年に「承久の乱」がはじまった。
この事態に鎌倉では、「ということは、俺たちは朝廷の敵になるってこと?」と動揺する御家人たちが続出して不安や混乱が広がる。それを鎮めるため、初代将軍・源頼朝の妻の北条政子が有力御家人に対して、こんな演説を行った。

「心を1つにして聞きなさい。亡き頼朝公が平家を打倒し、鎌倉に幕府を開いてから、関東の武士たちの地位は上がり、土地も増えた。その恩は山よりも高く、海よりも深い。その恩に報いようというあなたたちの気持ちは浅いはずがない。」

政子は御家人たちに、頼朝から受けたご恩の大きさを自覚させることで、恩返しとして幕府のために戦うことを説いた。将軍(幕府)と御家人は「御恩と奉公」の固い絆で結ばれていたから、これを聞いた武士たちは心をぶち抜かれ、涙を流して言葉にならなかったという。
政子の名セリフの影響もあって武士たちは一生懸命に戦い、朝廷軍を撃破したことで鎌倉幕府の統治体制が確立した。
頼朝公から受けた御恩に対して、彼らは十分以上に報いたこととなる。

では次に、アメリカ人の心に刺さった言葉を見ていこう。

 

ニューハンプシャー州の標語「Live Free or Die」(自由に生きる、さもなくば死を)。
アメリカにあるすべての州の標語のなかで、これが最も有名な標語といわれている。

 

イギリスの植民だったアメリカでは、イギリス議会が勝手に課税を決めたことで反発を招き、抵抗運動が激化していった。しかし一方で、イギリスに反旗を翻すことに抵抗を感じていたアメリカ人も多かった。
バージニアの議員だったパトリック・ヘンリーはイギリス支配に「ノー」を突きつけ、いまこそ立ち上がるべきと考え、1775年3月23日、議会で反対派に向かって演説を行った。彼は「戦争は始まっているのです!」、「我らの兄弟はもう戦場にいるのです!」と述べ、最後にこう話した。

「Is life so dear, or peace so sweet, as to be purchased at the price of chains and slavery? Forbid it, Almighty God! I know not what course others may take; but as for me, give me liberty or give me death!」

(命と平和は鎖につながれ、奴隷になる代価となるほど甘美で、価値のあるものだろうか? 全能の神にかけて言おう、断じてそうではない! 他の人たちがどの道を選ぶか分からないが私に関しては、「我に自由を与えよ、そうでなければ死を与えよ!」だ。)

*これは意訳なので、正確な日本語訳はお近くの英語マスターに聞いてほしい。

この言葉は多くの人の心を動かし、議会で彼の案が採択された。
このときパトリック・ヘンリーがしたスピーチは、アメリカの歴史に残る名演説となった。特に最後の「give me liberty or give me death!」というセリフはニューハンプシャー州の公式標語になるなど、現代のアメリカ人にも強く支持されている。

 

13世紀の武士は主君から受けた「恩」を返すために、18世紀のアメリカ人は「自由」のために命をかけて戦った。戦闘行為は別として、この価値観は現代にも通用するはずだ。日本人は恩返し、アメリカ人は自由を大切にしているから、それらを強調すると心に刺さりやすく、行動を起こす動機になる。

 

 

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