アジアにある差別意識 「道でコブラと○○人に会ったら、○○人を先に殺せ」

日本では、毒蛇のハブとマングースの戦いが有名だ(今は多分やってない)。
最近、タイで話題になったのはキングコブラと40代女性の「決闘」だ。タイ南部に住む40代の女性、スピンさんがキノコ採りをしている最中、3~4メートルほどのキングコブラと目が合った。周囲に武器になるようなものはなく、考える時間もない。彼女は素手で立ち向かうことを決意し、襲ってきたコブラを捕まえると何度も蹴りつけた。
コブラが力を失ってグッタリしたところで、スピンさんはその首をつかんで地面に押し付け、周囲に助けを呼んだ。この戦いでキングコブラは死に、スピンさんは足を噛まれたが、すぐに救急車で病院に運ばれて治療を受け、命は助かった。毒に合わせた適切な治療ができるように、スピンさんはキングコブラの死体を病院に持っていったという。その後、この出来事がSNSやメディアで紹介されると、彼女は「勇者」として称賛を集めた。

コブラもキングコブラも、どちらも人を死に至らしめる毒蛇だが、次のような違いがある。

コブラ:体長は一般的には1.5m〜3mほど。危険を感じると、体を丸めてフードを広げ、相手を威嚇する。その姿勢になると移動はできない。日本にも沖縄地方に「ハイ」というコブラが生息している。「ハイ」はフードを広げて威嚇はしないが、コブラ科に属する蛇で、れっきとしたコブラだ。
キングコブラ:平均的な長さは3〜4mほどで、5mを超えるものもいる世界最大の毒蛇。威嚇のためにとぐろを巻くと、その高さが人の胸近くまで達することがある。とぐろを巻いたまま前進して襲ってくることがあるから、それだけでも一生のトラウマになりそう。

コブラのほうが強い毒性を持つが、キングコブラに噛まれると、一度に注入される毒の量が多いため、どちらも人にとってはとても危険だ。
基本的に人から忌み嫌われるコブラは、差別表現の比喩として使われることもある。

 

タイの首都バンコクにあるヒンドゥー寺院

 

15年ほど前、バンコクを旅行中にインド人街に足を伸ばしてみた。そこにはヒンドゥー寺院があり、たくさんのインド人がいて、本場のインドカレーを食べることができる。でも、観光地としてはそれほど魅力的ではなく、「もうここには来ないだろうな」と感じた。
翌日、日本語ガイドにその話をすると、彼女はニコニコしながら、「あそこは臭わなかったですか? インド人は臭いから嫌いなんです」と平気でとんでもないことを言うから、言葉を失った。
彼女の差別発言は止まらず、タイにあるというこんな言葉を紹介した。

「もし道でインド人とコブラに出会ったら、インド人を先に殺せ」

「タイ人にとってインド人はそれほど危険で、みんな嫌いなんです」というのはガイドの個人的な感想でしかない。でも、本当にそんな言葉があるのだろうか?
調べてみると、1923年に創刊され、世界初のニュース雑誌として信頼性の高い『タイム誌』のエッセイにこんなことが書かれていた。(1965年4月9日)

“If you see an Indian and a cobra, strangle the Indian first,” the saying goes in Indo-China. Javanese peasants say, “When you meet a snake and a slit-eye [Chinese], first kill the slit-eye, then the snake.” Among Punjabis the proverb is, “If you spy a serpent and a Sindhi, get the Sindhi first.”

Essay: DISCRIMINATION & DISCORD IN ASIA

 

インドシナ(東南アジア)では、「インド人とコブラに出会ったら、まずインド人を絞め殺せ」と言われている。ジャワの農民は「ヘビと細い目(=中国人)に出会ったら、まず中国人を殺し、それからヘビを殺せ」と言う。パンジャーブ人の間では、「蛇とシンド人を見つけたら、まずシンド人を殺せ」という諺がある。

*シンド人はシンド州出身かシンド語を話す人のこと。

さまざまな人種や宗教が混ざり合っているアジアでは、そんな深い憎悪や差別(discrimination)があるという。ただ、上のエッセイは50年以上も前のもので古い。しかし、『Open Magazine』(2012年3月25日)の記事によると、今でも「インド人を先に殺せ」という言葉はタイの社会に存在しているという。

‘Kill the Indian First’

ある人が、インド系タイ人は傲慢で貪欲で祖国の名誉を傷つけると言うと、相手(おそらくインド系タイ人)が「タイには『蛇とインド人を見かけたら、まずインド人を殺せ』という諺がある」と話す。
人権意識が高まると、差別意識は表面的には目立たなくなるが、潜在化するからなかなか無くならない。

 

 

東南アジア 「目次」

日本と韓国にある人種差別行為 その「共通点」とは?

アジアで人気の歯磨き粉「黒人」、その背景は差別的だった

欧州で広がるアジア人差別 “日本好きドイツ人”の意見は?

【お断り】残念ながら、日本にもある外国人差別・排除

日本はどんな国? 在日外国人から見たいろんな日本 「目次」

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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