「売国奴」と言われ続け… 韓国社会に居場所が無くなった李完用の子孫

「それを言われたら、絶対に許せない」という罵倒の言葉はどこの国にもある。
韓国社会で最大レベルの罵倒語が「おまえは李完用みたいなヤツだ!」で、とくに政治家にとっては侮辱的で、これを言われてすぐに否定しないと政治生命にかかわる。

李完用(イ・ワニョン、り かんよう)は大韓帝国の政治家で、大臣として第二次日韓協約に賛成したことで知られている。この協約によって韓国は日本の保護国になったため、現在の韓国では「日本支配の始まり」と考える人も多い。第二次日韓協約を推進した李完用は「乙巳五賊」の一人に数えられている。
李完用の「賊(=売国)っぷり」はそれだけではない。
現在の韓国で「侵略の元凶」として嫌われている伊藤博文の意向をうけて、李完用は内閣総理大臣になり、1910年にその立場で韓国併合条約を結んだことで、大韓帝国は完全に消滅して日本の一部になった。

*以上の歴史の流れは、韓国では常識的だから、広く国民に知られている。しかし、日本が韓国を併合したことで、大韓帝国の借金を全て肩代わりしたという事実は、ほとんど知られていない。

 

李完用

 

韓国では、国を日本に譲り渡した人物を「親日派(=売国奴)」と呼んで、軽蔑すべき対象になっている。近代史では、親日派が何人もいて、彼らは「乙巳五賊」「丁未七賊」「庚戌国賊」などのグループにまとめられる。そのすべてに入っている唯一の人物、李完用はいわば「負の三冠王」として、親日派の代表的な人物として嫌われている。
当時から、李完用は韓国社会で売国奴と見られ、暗殺の対象にもなっていた。日韓併合の直前には李在明(イ・ジェミョン)に襲われ、刃物で刺されて肺に達するほどの重傷を負ったこともある。
(現在の野党代表で、同姓同名の李在明氏が「反日強硬」なのも、この精神が宿っているせいかも。)

現在、李完用は韓国政府から親日反民族行為者に認定され、歴史教科書やメディアで「売国奴」と非難されている。しかし、20世紀前後の世界では、欧米列強が定めた帝国主義がグローバル・スタンダードだったから、力の弱い国が強国に吸収され、支配されるのはよくあることだった。朝鮮王朝や大韓帝国の国力は弱く、日本との差も大きかったから、当時の国際情勢を考えると、韓国が独立を守るのはとても難しかった。
2023年に、シン国防部長官候補が「李完用は売国奴だったが、一方では仕方のない面もあった」と言ったところ、「売国奴の李完用を擁護した!」と十字砲火を浴びた。

といってもあの時代、大韓帝国が独立国として存在するのは困難というか不可能で、その運命を個人の力で変えられるような、ジャンヌ・ダルクのような人がいたら、今ごろ伝説的な人物になっていた。たまたま19世紀に生まれ、首相という立場にあった李完用も、ある意味では時代の被害者だったと言えるのではないか。
…なんてことを言うと、「売国奴を擁護しやがった!」と袋叩きにされるのが今の韓国社会。

 

李完用が500年以上前の人物ならまだよかった。しかし、彼は近代史の人物で、その子孫はハッキリ分かっているから、最近、朝鮮日報がこんな記事を掲載した。(2025/05/05)

李完用のひ孫、取り戻したソウルの土地を30億ウォンで売却してカナダに移住していた

李完用のひ孫がソウルにあった土地を約3億円で売却し、カナダに移住したことが明らかになり、国民から怒りや非難の声があがっている。しかし、記事を読むと、ひ孫は韓国の法律にしたがって行動していたことが分かる。

まず、韓国政府が李完用が残した土地を「親日行為を通じて蓄積した財産」として接収したが、ひ孫が返還を求めて訴えた結果、裁判所は「親日派だからといって法律上の根拠なしに財産権を剥奪することはできない」と判断して原告の訴えを認め、土地は返還された。
この時点で、国を売った人間の子孫が国を訴えたことや、「売国的」な判決を出した裁判所に対して、国民の非難が殺到したことは言うまでもない。(世界的は常識的な判決だろうけど)
そして今回、ひ孫が返還された土地を売却し、そのお金でカナダに移住していたことが発覚し、国民の怒りはさらに高まっているという。

第三者から見れば、この選択は仕方ない。
「親日派だから」という理由で国が法をねじ曲げて財産を没収する、曽祖父が歴史教科書やメディアに「売国奴」と書かれている、国民から冷たい視線を浴びせられる…そんな状態だったら、韓国内に居場所なんて無くなって、国外に逃げたくなるのも当然。見方を変えれば、韓国民が彼を追い出したとも言える。今となっては「乙巳五賊、丁未七賊、庚戌国賊」の子孫も、歴史の被害者だ。

…なんてことを言うと、「お前は親日派を擁護するのか!」と袋叩きにされるのが韓国社会。とはいえ、知人の韓国人はもう親日派の子孫は許してもいいと考えていて、そういう人はきっと他にもいると言う。でも、空気がそれを許さない。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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