人類を対象にしたアンケート調査で、「実際にいた人物で“奇跡の少女”と言えるのはだれ?」と聞いたら、まず間違いなくトップにくるのがフランスのジャンヌ・ダルクだ。
当時、フランスはイングランドを相手に百年戦争(1337年〜1453年)で戦っていて、圧倒的に不利な状況にあった。農村に生まれ育った少女ジャンヌ・ダルクが、奇跡を体験したのはそのころだ。
彼女が12歳くらいの時、大天使ミカエルや聖人が現れ、「あなたがイングランド軍を追い出して、シャルル(後のシャルル7世)をランスへ連れていき、フランス国王にさせるのです」と言ったという。「神の声」を聞いたジャンヌは泣き崩れた。
*ランスはフランスにある都市で、歴代の国王はランスのノートルダム大聖堂で戴冠式を行っていた。
「オルレアンの乙女」から、フランスの国民的ヒロインとなったジャンヌ・ダルク
ジャンヌは農民の家に生まれ、まともな教育を受けられず、文字の読み書きもできなかった。ただ信仰に篤い少女だったと思われる。
王太子シャルルは「神の声」を聞いたという少女に会い、その奇跡に最後の希望をかけたのか、それとも「お試し」だったのかは分からないが、ジャンヌを軍に加え、イングランド軍に囲まれて陥落寸前だったオルレアンへ派遣した。すると、ジャンヌはやってくれた。イングランド軍を撃退し、オルレアンを解放することに成功したのだ。
この功績で彼女は「オルレアンの乙女」と呼ばれ、本当の奇跡の始まりとなる。
ジャンヌを得たフランス軍はその後も連戦連勝、快進撃を続け、ついにイングランド軍をフランスから追い出し、国を守ることができた。シャルルがランスの大聖堂で国王になったことは言うまでもない。
と、ここまで読んで、「そもそも田舎の娘がどうやって王太子に会うことができたのか?」という疑問を持った人もいるかもしれない。
その理由もまた奇跡だ。まず彼女は守備隊隊長のボードリクールに会い、オルレアン近郊で行われる「ニシンの戦い」でフランス軍が敗北すると予言した。本当に彼女の言った通りの結果になったため、守備隊隊長は「この少女はただ者ではない」と確信し、その話が伝わり、王太子との謁見が実現した。
ジャンヌがフランス軍を「覚醒」させた理由については諸説ある。
彼女が聞いたという「神の声」を信じたことで、兵士たちの士気が高まり、軍全体の攻撃力がアップしたと唱える歴史家もいる。実際、ジャンヌは剣よりも旗を持つことが多かったというから、彼女が振るう旗を見て、「神は自分たちの味方をし、勝利を望んでおられる!」と兵士たちは勇気づけられたはずだ。
おもに剣や弓などで戦っていたこの時代、戦いにおいて「戦意」は重要な要素だった。
一方ん、この説に反対する研究者もいて、ジャンヌは優れた戦術家で、軍の指揮官たちから尊敬されるほどの能力を持っていたと主張する人もいる。
フランスを百年戦争の勝者に導いたジャンヌ・ダルクは、その栄光を見る前に処刑された。1430年に行われた戦いで彼女は敵軍に捕まり、当時の常識では、身代金を払えばフランスに戻されるはずだったのに、シャルル7世はそれをしなかった。なぜか?
ジャンヌを英雄視する人も多く、彼女の影響力は強くなりすぎた。シャルル7世は何をするにも彼女の意思を無視できず、存在が邪魔になったため、“見殺し”にしたとされている。
母国は自分を助けてくれないと知ったジャンヌは絶望し、何度か脱走を試みたがすべて失敗に終わる。
彼女は宗教裁判(異端審問)の結果、「異端者」と認定され、19歳のころ生きたまま焼き殺された。その直前、十字架を掲げて欲しいという要求はかなえられたから、彼女はその十字架を見ながら奇跡のような一生を終えたのだろう。
百年戦争が終結した後、すぐにフランスでジャンヌ・ダルクを「異端者」と認定した裁判を無効にする審議が行われ、1456年処刑判決の無効が宣言された。イングランドの脅威がなくなると、シャルル7世はあのとき彼女を救わなかったことを後悔し、せめて名誉だけは回復しようとしたのだ…というお花畑な理由からではない。
ジャンヌ・ダルクが「異教の魔女」と認定されたままだと、シャルル7世は悪魔の力を借りて国王になったことになる。これは王の名誉を汚すことになり、政治的にも不利に傾いてしまう。
Joan’s execution created a political liability for Charles, implying that his consecration as the king of France had been achieved through the actions of a heretic.
シャルル7世は自分の栄光に傷をつけないために、ジャンヌ・ダルクの名誉を回復させたことになる。彼女は王と国に人生をささげたが、王は冷たかった。生きている間は彼女を利用するだけ利用し、負担になったら損切りして、死後も迷惑に感じていた。
しかし、ジャンヌの母は復権裁判を望んでいたので、この結果に満足し、娘の霊に「あなたは悪魔ではなく聖女ですよ」と報告できたのは、せめてもの救いだ。
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