アパホテルの「アパ(APA)」という言葉は、「JAPAN」から J と N を取って、「日本の中心」を意味しているーー。
前回、そんな記事を書いたのだよ。
インドネシア人がアパホテルに注目したわけ “APA”の由来と意外な意味
「JAPAN」の真ん中部分を抜き出すのは問題ないけれど、後ろを省略して「JAP(ジャップ)」とすると、それは日本人に対する差別的な言葉になる。
ネットを見ていると、「JAPANの略なんだから、JAPでもいいんじゃないの?」とか、「日本人が外国人を“外人”って呼ぶのと同じでしょ」と気にしない人がたまにいる。しかし、アメリカ社会ではこれは日系人や日本人への侮辱を意味しているため、不適切な言葉とされている。
最近、ワイオミング州の議員が、第二次世界大戦中に日系人を収容した施設のことを「ジャップキャンプ」と呼んで問題になった。議員はあわてて、「誰かを傷つける意図はなかった」と釈明したけど、それで火消しに成功したかは分からない。
これに日本のネット民の反応は?
・傷つける意図がなければ
なにを言ってもいいという謎の風潮
・日本も戦時中は似たようなもんだからお互い様
・口癖になるくらい普段から使ってるって
悪意に充ちてるやんw
・まあ、我々も不良のことを日常的にヤンキーって呼んでるし
・日本でもアメ公とかブリカスとか言ってんだから気にすんな
アメリカの地方紙に「テキサスの偉人」と紹介された西原 清東(さいばら せいとう)。
「ジャップ(Jap)」という言葉は、もともとは英語圏で「Japanese(日本人)」を短くしただけの略語で、19世紀後半から使われ始めた。このときは差別的な意味はなく、ただの略称にすぎない。
戦前、西原清東(さいばら せいとう)を中心とする日本人がテキサスへやって来て、日本米で稲作を始めると、それが大成功した。地元では、地域社会の発展に貢献した日本人移民を称えて、新しくつくられた道に「Jap Road(ジャップ・ロード)」という名称をつけることにした。
このときは、まったく悪い意味はなかった。しかし、日本軍が真珠湾を攻撃してアメリカに宣戦布告すると、アメリカでは反日感情が強まり、「Jap」という言葉は日系人や日本人への蔑称として使われるようになる。
However, following the bombing of Pearl Harbor and the Japanese declaration of war on the US, the term began to be used derogatorily, as anti-Japanese sentiment increased.
当時、ニッポン(Nippon)の略語である「Nip(ニップ)」という差別用語もあり、アメリカ、イギリス、オーストラリアの軍人の間で使われていた。「ニップは駆除すべき害虫でしかない」(Nips are just vermin to be exterminated)」と言うアメリカの軍人もいた。
ただ、戦争中は「ニップ」よりも「ジャップ」のほうが、より軽蔑の気持ちが強く、広く使われたという。
「Japs」と「apes(猿)」を合わせて、「Japes(ジェイプス)」という新しい侮辱語まで作られたが、これはあまり流行らなかった。
アメリカが作成した第二次世界大戦のプロパガンダ・ポスター
出っ歯で描かれた日本人をネズミに見立て、米軍が仕掛けた「死のワナ」にはまりそうになっている。
※「ジャップ(Jap)」と「トラップ(Trap)」で韻を踏んでいる。
このプロパガンダ・ポスターでは、ワシ(米軍)がヘビ(日本)に爆弾を落としている。
日本の降伏を伝える新聞をかかげて喜ぶアメリカの市民
人間以下の生き物であるサル、汚くて醜いネズミ、邪悪なヘビ…。
「ジャップ」という言葉はそんなネガティブなイメージの象徴で、日系人や日本人に対する最大級の侮辱語だった。
だから戦後になると、この言葉はアメリカ社会で差別用語となり、使われなくなっていった。
日本人への称賛の意味が込められていたテキサス州の「Jap Road」も見直され、2004年に「Boondocks(ブーンドックス)通り」という名前に変えられた。
これはこれで、日本人移民が地域に貢献した歴史までもが消えてしまいそうな気もするのだけど。
「Jap」は、もともと「Japanese」の略で悪い意味はなかったが、戦争によって蔑視や憎悪の象徴となり、戦後は差別用語としてバンされた。
この流れは「支那(シナ)」という言葉と同じ。
中国人が嫌う言葉「支那(シナ)」 日本での使用例やNGの理由
一方、当事者である日本人は、アメリカ人ほど「ジャップ」という言葉に敏感ではない。
戦前、アメリカの日本大使館で二等書記官をしていて、戦後は国連大使をつとめた松平 康東(こうとう)は、テレビ番組で「ジャップ」について聞かれたとき、こう答えたという。
「私は気にしない。これは英語で、スラングじゃないかな。自由に使ったらいい(you are free to use it)」
この傾向は令和の現在でもある。ネットを見ていると、「ジャップ」がNGワードだと知っていても、具体的なイメージがわいてこないから、あまり怒りを感じないという人はよくいる。
米国民を激怒させた「バターン死の行進」のポスター
「人殺しジャップを絶滅させるまで手を休めるな!」と書かれている。
こういう激しい差別意識を知ると、怒りがわいてくる人も多いのでは?
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