インドを旅行していたとき、首都デリーの街中を歩いていると、牛車とすれ違った。
牛車には、人が移動するものと荷物を運ぶものの2種類があって、前者を「ぎっしゃ(ぎゅうしゃ)」、後者を「うしぐるま」と呼んだ。
平安時代の貴族が乗っていたのは「ぎっしゃ」で、ボクがデリーで見たのは「うしぐるま」のほうだ。
ヒンドゥー教で牛は神聖視されているから、奈良の鹿みたいに街中を自由に歩き回ることができて、(一部かもしれないが)日本人旅行者は「野良牛」と呼んでいた。牛が荷物を引いていることも珍しくない。
でも、この牛の角には色が付いていたから、「あれ?」と思ってよく見たら、オレンジ(サフラン)・緑・白の3色が描かれていた。
あれはインド国旗の色で間違いない。
インドの国旗が制定されたのは、1947年7月22日のこと。
この3つの色の意味については、サイトによって説明が違うので、どれが正しいのかはっきりしない。海外のことは英語版ウィキペディアの説明が正確だと思われるので、ここでは「Flag of India」の説明を参考にして書くことにする。

インド国旗のサフラン(以前は赤)は「勇気と犠牲」、白は「平和と真実」、緑は「信仰と騎士道」を表している。しかし、以前はサフランがヒンドゥー教、緑がイスラム教、白がそれ以外の宗教とそれぞれの宗教間の平和を象徴していた。
しかし、その配色では宗教が強調されすぎてしまう。インドでは宗教を国教にしていない。インドは宗教国家ではないので、それぞれ「勇気」、「平和」、「信仰」に変えられた。
旗の真ん中にある24本のスポークのある輪っかは、「アショーカ・チャクラ」と呼ばれるものだ。チャクラはインドのサンスクリット語で円や車輪を意味する。
アショーカは紀元前3世紀、マウリア朝の王で、彼は法(ダルマ)による統治をおこなったことで知られている。インドの第2代大統領によると、アショーカ・チャクラがデザインに選ばれた理由には次の2つがある。
・アショーカ・チャクラは真実、ダルマ、徳を意味していて、この旗の下で働く者たちの基本的な原則となる。
・車輪は「運動」を象徴する。停滞には死があり、運動には生命がある。インドは常に前進し、進歩しなければならない。車輪は平和的な変化のダイナミズムを象徴している。
以前は、ガンディーがイギリスに対する独立運動で使用し、抗英運動のシンボルとなった「糸車」が国旗に採用されていたが、後に対称性と実用性のあるアショーカ・チャクラに変えられた。
つまり、左右対称のデザインのほうがインド人の美的感覚に合っていて、「見栄えが良い」ということだろう。また、イギリスへの配慮もあったと思われる。

1931年にできた国旗

ガンディーが使っていた糸車
インドの人たちは国家の尊厳を大切にしていて、愛国心がとても強い。国旗に対する侮辱は国家の名誉を傷つけることになるため、国旗には敬意を持ち、丁寧に扱うことが法律で定められている。
具体的には、公式に次のような規則がある。
・旗を地面や水にふれさせたり、カーテンとして使用したりしてはいけない。
・旗にどんな文字も記してはいけない。
・旗に花びら以外のものを載せてはいけない(これはインドっぽい)。
・どんな天気の日でも、日の出から日没まで旗を掲揚することができるが、十分に照明がなければ、夜間に旗を掲揚することはできない。
(つまり、国旗が雨に濡れても問題はないが、闇にふれることは”侮辱行為”と見なされるのだろう。)
牛の角にサフラン・白・緑の3色を描くことはセーフらしい。
奈良の鹿の角に日の丸を描くと、動物虐待と見なされるかもしれない。

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