【困った時の】日本の雨乞いの儀式には、世界の雨乞いの要素があった

ことしの夏、熊本は雨に恵まれなかった。
水不足や農作物への影響を不安に感じる人は多く、6年ぶりに、太鼓をたたいて女性たちが歌って踊る「雨乞いの儀式」をおこなった地区もある。
すると、すぐに効果が現れた。それも住民の想像を絶する効果で、儀式の5日後、熊本には記録的な大雨が降り、各地で土砂崩れや冠水などの被害が相次いで特別警報まで発令された。竜神様は加減を知らないらしく、ニュースを見ると車だけでなく、コンビニまで水没している。

現代では科学が発展していて、雨が降るメカニズムは解明されているから、決して「運しだい」ではないことが人類の常識となっている。
しかし、はるか昔、雨が降るかどうかは神や精霊、先祖の霊などの「意思」によるという考え方が世界中にあり、そうした超自然的な存在を喜ばせて、雨を降らせてもらうための雨乞いの儀式が各地で行われていた。
ということで、これから日本や海外の降雨の儀式について見ていこう。

 

日本の雨乞いでよくあるパターンは、先ほどの熊本のように、太鼓をたたいて騒いだり、歌や踊りを神に奉納したりするというもの。こうしたパターンのほかに、挑発したり脅したりする例もある。
水神が住むと言われる湖に動物の死体を投げ込み、あえて水を汚して水神を怒らせることで雨を降らせようとしたり、お地蔵さんを縛って「雨を降らせたら、このヒモを解いてやる」とヤクザのように迫ったりする雨乞いの儀式もあった(今もあるかも)。

雨乞いでは、神さまの「心を動かす」必要があるため、儀式をおこなう場所やヒトは重要な要素だ。山に登って山頂で雨乞いをしたのは、神に誠意を見せようとするためだと思われる。
儀式をおこなう人については、神に願いを届けることができる特別な人物として、仏教や神道の聖職者や修行者、または地域で尊敬されている人が選ばれた。
古代の日本で、そんな呪術的な能力を持つ人物で「最強」と思われたのは、五条悟ではなく天皇だ。天皇は神に願いを届けることができ、それによって国を守る力があると信じられていたのだ。
『日本書紀』には、天皇が雨の恵みを神々に祈願したという話が何度も出てくる。飛鳥時代、蘇我蝦夷が雨乞いのためにお経を唱えさせたが、あまり効果はなかった。しかし、皇極天皇が祈るとすぐに大雨が降ったため、人びとは天皇を称えたという。

 

中国の北京の天壇では、皇帝が天帝に豊作や雨を祈願する儀式をおこなった。中国では、全世界を支配する天帝の命(天命)を受けて、地上を治める者を「天子」と呼び、皇帝の別名となる。この考え方は日本にも伝わり、天皇も天子と呼ばれていた。

 

アメリカ先住民の雨乞い(19世紀)

 

アメリカ先住民の雨乞いの儀式は世界的に有名で、部族によってやり方はそれぞれ違う。その一例には、風を象徴する羽根飾りと、雨を表す青いトルコ石などのアイテムを身に着け、雨乞いの踊りを行うというものがある。
ヨーロッパから来た入植者に物資をもらう代わりに、先住民が雨乞いの踊りを披露することが多かったという。

 

エチオピアの雨乞い

 

南アフリカのロベドゥ族には、雨を降らせる特殊能力を持つ人物として「雨の女王」がいる。
この地域では、雨が降るかどうかで生活が大きく左右されるため、雨乞いを行う人物の社会的地位は非常に高い。ロベドゥ族では女性が社会的に大きな権限をもっていて、伝統的に雨乞いの儀式は「モジャジ」と呼ばれる女王にまかされてきた。
土地は乾燥しているにもかかわらず、「雨の女王」が住む家は緑豊かな庭園に囲まれているため、その神秘性が増している。
雨をコントロールする能力は子供に受け継がれると信じられており、ロベドゥ族の「雨の女王」は世襲制だ。
2024年には、南アフリカの大統領が新しい「雨の女王」を正式に承認したと発表したが、王女の兄が「王」に選ばれたことにより、騒動が起きているらしい。
血の雨が降らないといいのだけど。

 

最後に紹介するのはスペインの事例だ。
2023年、カタルーニャ地方が干ばつに襲われ、このままでは収穫が危機的状況になってしまうと人びとはガチで心配になった。そして出した答えは熊本と同じで、雨乞いをすることだった。
ある村で日曜日に、200人以上の住民が参加して、聖母マリアに降雨を祈る特別なミサをおこない、台車にマリア像を乗せて行列を作り、村の中を歩いたという。
以前、あるスペイン人がこうした雨乞いについて、次のように指摘した。

「呪術的な要素があって、わたしには純粋なキリスト教の儀式には見えませんね。別の信仰による雨乞いの儀式がキリスト教に吸収された結果だと思います。スペインの歴史では、国民はキリスト教だけを信じ、それ以外の宗教は禁止されていた時期がありましたから。」

ヨーロッパではハロウィンのように、異教の習慣がキリスト教に「乗っ取られる」ことがあるから、スペインの雨乞いもその一つかもしれない。

 

「困ったときの神頼み」は人類共通の発想でも、やり方は文化や宗教によって異なる。
日本の雨乞いの儀式には、アメリカ先住民のようなダンスがあり、南アフリカの「雨の女王」のような特別な存在もいる。
(現在、天皇陛下が降雨を祈願する儀式をされているかどうかは分からないが。)
また、日本には、スペインのように一つの宗教が強大な力を持ち、他の宗教を駆逐する歴史はなかったため(例外はある)、雨乞いの儀式がオリジナルの形で受け継がれてきた。
日本の雨乞いにはさまざまな文化の要素があるから、言ってみれば「全部乗せ」だ。

 

参照:Rainmaking (ritual)

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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