イスラム教徒の外国人から見た日本社会 「エロ要素が多すぎ」問題

近ごろ都に“流行らない”もの、それは「裸婦像」だ。

日本では駅前や公園など、老若男女が行き交う公共の空間に、裸の女性や少女の像がある。戦前は公共の場に軍人の像などがあったが、戦後に日本を統治した連合国軍総司令部(GHQ)の考えで、それらが撤去され、代わりに、「平和の象徴」として東京に裸婦像が設置され、それが全国に広がって今にいたる。

しかし、時代は変わった。
今では裸の像について「恥ずかしい」、「時代に合っていない」という声が増えてきた結果、公共の場にふさわしくないということになり、全国的に裸婦像を撤去する動きが進んでいる。
これは初耳だったのだけど、そもそも街中に裸の女性の像があるのは、世界でも日本だけらしい。読売新聞の記事で、全国の記念碑を研究する専門家がこう話している(2025/08/18)。

高山教授は「公共空間に女性の裸像がたくさん置かれているのは日本だけ。欧州やアジアでは美術館の敷地内や庭園に限られる」と話す。

街の裸婦像は時代にそぐわない? 撤去の動き、各地で…小学生「見ていて恥ずかしくなる」

 

ネットでいくらでもエロ画像を見られる時代に、裸婦像を「ケシカラン」と撤去するのは不思議な気もするが、現実世界とネット空間では違う基準があるのだろう。

 

静岡県には「浜名湖ガーデンパーク」という大きな公園があって、外国人をそこへ連れて行ったことが何度もある。その経験から言うと、これまでバングラデシュ人、パキスタン人、インドネシア人、トルコ人のイスラム教徒が男女を問わず、不評だったのがこの像だ。

 

 

もちろん、これが芸術作品ということは理解できる。しかし、子供も楽しめるような公園に裸の女性の像を設置することは母国なら考えられないという。
イスラム教では、女性の肌の露出に対してとても厳しく、外出する際は、ヒジャブと呼ばれる布で髪を隠すことが一般的だ。イエメンを旅行したとき、女性は「ニカブ」という布で目以外を隠し、「アバヤ」という服で全身を覆っていた。肌を露出するだけでなく、体型が分かる服装もイスラム圏ではNG。

※イスラム教徒の女性でもヒジャブをしない人がいて、服装は個人や地域によって違う。

そんなイスラム世界から来ると、日本の公共空間にある「裸婦像」は見るに耐えないかもしれない。

 

 

ここまでに登場したのは、芸術作品だからまだいい。
数年前まで、知人のアメリカ人やドイツ人、イギリス人などは、日本のコンビニに「成人誌」が堂々と陳列されていることを嫌悪していた。彼らの国なら、子供が買い物に行く店にエロ本が何冊も置いてある状態はありえないらしい。

外国人が日本のコンビ二で不快な成人誌。撤去に海外の反応は?

こんな感じに、日本の社会では、思いがけないところで肌を露出した女性を見かける。そのことには、欧米人以上にイスラム教徒の外国人が不満を言っていた。

 

あるアメリカ人がこれを見て、「アメリカならきっとこんなことはできない。公共交通機関に、10代の女の子が肌を密着させた姿をでっかく描いたら、批判が殺到するだろうね」と言った後、「俺は日本のこういうところが好きだ」と付け加えた。

 

「報道の自由度ランキング(2025年版)」で日本は66位と、G7では最下位だった。しかし、マンガやアニメでは日本の「表現の自由度」は世界的に見てかなり高い。
日本のアニメが海外で放送されると、女性の胸の谷間が消されたり、戦いで血がほとばしるシーンがカットされることがよくある。つまり、海外では許されない表現が、日本では認められるのだ。

その国の文化や価値観によって、アニメの表現が規制されるから、オリジナルと変わってしまうことはよくある。そのなかでも、マレーシア版の『進撃の巨人』は強烈だった。
マレーシアではイスラム教が国教に定められていて、社会ではイスラムの影響がとても強い。
『進撃』に出てくる巨人たちは裸で、マレーシアの価値観とは絶望的に合わなかったため、とんでもない姿に変えられて、日本人や外国人に大きな衝撃を与えたのは記憶に新しい。

巨人に生殖器が描かれていないにもかかわらず、スパッツや短パン、Tシャツと腰巻きをして下半身を隠しているから、ストーリーで重要な要素である「巨人の恐怖」が激減されている。
巨人化した「アニ」は派手な柄のワンピース(みたいな服)を着ているし、それと戦うエレンは黄色、青、黒色の長ズボンを履いて、せっかくの緊張感をぶち壊している。
「車力の巨人」は花柄のパンツを履いていて、『進撃』のシリアスな世界観を笑撃的に変えてしまった。

※画像は「マレーシア版 進撃の巨人」をクリックして確認してほしい。

 

日本人の価値観は、欧米社会に比べてもエロや残酷なシーンに対して寛容で、アニメやマンガなら、OKの基準はかなり広い。
公共空間に女性の裸像がたくさん置かれているのは、世界でも日本だけらしいし、イスラム世界とは反対で、日本の社会には「エロ要素」がかなり多くある。

日本にいるイスラム教徒の外国人から、自分の子供には、日本基準のアニメは見せられないとか、電車の中でビキニ姿の女性の写真を目にするのはとても不快だ、といった話を聞いたのは一度や二度ではない。
そうは言っても、日本の表現基準を変えることは難しい。とりあえず、公共空間から「裸婦像」が消えるのは、イスラム教徒的には安心できる変化のはずだ。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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