ビビンバ、サムギョプサル、サムゲタンにタッカンマリ…と、日本人にとって韓国旅行の大きな楽しみはグルメだ。でも、韓国在住のインド人には、まさにそれが悩みのタネだった。
朝鮮日報の記事(2025/08/20)
「韓国には食べられるものがない」とぼやくインド人留学生の投稿が話題に
韓国に留学中のインド人女性がSNSに動画を投稿し、宗教的な理由で肉を食べられず、韓国では野菜だけを食べて暮らしているから、「とても大変だ」と話した。韓国人から「食べられる物が全然ないね。どうしているの?」と聞かれ、そのインド人は「(韓国の)パンはとてもおいしい。でも、甘すぎるのがほとんど」と答える。
インド国民の8割を占めるヒンドゥー教では、肉の摂取を一切禁止していることがあり、インドは「世界一のベジタリアン大国」とも呼ばれる。
エア・インディアにを利用したときには、「チキン オア ビーフ?」ではなく、「ベジ オア ノンベジ?」と聞かれた。
ベジタリアンの外国人が韓国で暮らすのはハードモード。
その意見に共感する韓国のネット民がいて、「菜食専門のレストランは確かに少ない」、「テンジャンチゲ(韓国みそ鍋)にも煮干しやアミの塩辛のダシが入っているから、完全な菜食とは言えない料理が多い」といったコメントが寄せられた。
いっぽう、日本のネット民の反応は冷たかった。
・わさビーフは?
・他人の国に来て文句言ってんじゃねえよ
・寒いの苦手なヤツがアイスランドに移住して寒い寒い辛い辛いと言ってる、みたいな
・ヨガでなんとかなるだろ
・韓国旅行行った人が唯一パンが美味しかったって言ってた
店名聞いたら表参道のチェーン店だった

ソウルで見かけたベジタリアンレストラン
もちろん韓国にも、ベジタリアン料理を出す店はないこともない、程度にはある。でも、それはソウルに集中していて、全国的にはかなり少ないと思われる。
台湾では「一貫道」などの宗教の影響でベジタリアンが多く、肉を使わない料理が充実している。
日本でもおもに仏教思想によって、江戸時代まで肉食が禁じられ、精進料理が発展した。
韓国では高麗時代まで仏教が国教とされていたが、1392年に成立した朝鮮(李氏朝鮮)は仏教を廃止し、儒教を国教としたから、宗教的な理由で肉食を禁止することはなかっただろう。
そんな歴史的経緯からすると、現在の韓国は日本以上の「肉食大国」かもしれない。
韓国の食文化を調べてみても、肉や魚介類を使用するものが多く、野菜だけの料理が発展した時代はなさそうだ。
日本に住んでいるインド人にも、同じ悩みを持つ人が多い。ベジタリアンやヴィーガンの人たちから見ると、日本の食文化では肉が「主役」になっているから、外食がむずかしいとぼや人がいる。
外国人と一緒に食事をしようとすると、そのことに気付かされる。
以前、「肉を避ければいいんでしょ?」と気軽に考えて、ベジタリアンのインド人をうどん屋に連れて行ったら、出汁に使われているカツオがNGだと分かって驚いた。
韓国料理もそのレベルで、原材料に動物性の油などが一切含まれていない料理は少ないと思う。

インド独立の父・ガンディーが描かれているインドの紙幣には、ヒンディー語と英語に加え、15の言語で金額が表記されている。
インドはさまざまな宗教や民族を抱える多民族国家で、地方ごとに異なる言葉が使われるため、全国民が読めるように工夫されている(これで本当に全ての国民が読めるかは分からないけど)。
日本と韓国の共通点はほかにもある。
2025年、韓国の人口で外国人が占める割合は約5%と、過去最高を記録した。
日本でも外国人が増えているが、人口の約95%は日本人が占めている。つまり、日本と韓国には「同質性がとても高い」という特徴があるのだ。
日韓の国内では、政治的な対立があっても、文化は広く共有されている。だから、紙幣には日本語(韓国語)と英語があれば十分。17の言語を表記しないといけない多文化社会は想像できないだろう。
尊敬する歴史上の人物についても、「私はイスラム教徒だから、ヒンドゥー教徒のガンディーを尊敬できない」とか「わたしはベンガル人だから、タゴールを最も尊敬する」といった答えが、日本と韓国から出てくるとは思えない。
しかし、「みんな同じ」という同質性は「違い」を嫌い、排外主義を生む要因にもなる。
今、先ほどのインド人女性のSNSを見たら、「このページはご利用いただけません」と表示された。彼女はページを削除したようだ。その背景は簡単に想像できる。
外国人が韓国社会について否定的な意見を述べると、韓国人からは「郷に入っては郷に従え」の観点から、「嫌なら母国に帰れ」や「韓国にいるなら韓国語を理解しろ」といった厳しいコメントが寄せられることが本当に多い。
あのインド人も悪気はなかったと思うが、韓国生活での不満が思わぬ炎上を引き起こしたため、「なかった」ことにしたのだろう。丁寧に意見を返して鎮火を図るのではなく、怒って投稿を消してしまうのはインド人女性にありそうだ。
日本でも、他国の文化や価値観を尊重する態度がとても求められるから、外国人が文句を言うとよく叩かれる。もし、外国人がSNSで「日本には食べられるものがない」と言って、それが全国紙に載ったら、「ワガママ言うな」とか「食生活を調べずに来るのが悪い」といった批判コメントがきっと殺到する。そしてその外国人は耐えられなくなり、投稿を削除する未来が見える。
日本では、韓国関連のニュースにネガティブな意見が多くつくことがよくある。でも、今回のケースではインド人女性を批判し、間接的に韓国を擁護する人が多かった。日本のネット民が韓国を支持するのは珍しい。
ということで、日韓には次の2つの共通点がある。
・食文化では肉食が多く、菜食は少ない。
・社会では、「郷に入っては郷に従え」という考え方が特に重視される。
だから、「住みにくい…」と感じるインド人は多いはずだ。
日本人と韓国人の常識からすると、路上でコブラのショーが見られるインドは異世界すぎ。

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