【蝉と知了】中国人が日本の夏を経験し、初めて気づいたこと

中国のいちばん奥、つまり最も西にある「新疆ウイグル自治区」は日本の約4・5倍ととんでもなく広い。だから、気候も地域によって異なるけれど、タクラマカン砂漠があって、基本的には乾燥している。
歴史的に、ここにはシルクロードの拠点があったので、西と東から様々な人が訪れ、記録を残している。
『西遊記』で孫悟空が牛魔王と戦った舞台で、ウイグル自治区の気候を象徴するような場所に「火焰山」がある。赤い砂岩に「ヒビ」のような模様があり、まるで炎が燃えているように見えることからその名がつけられた。

最近、ウイグル自治区から日本に来た中国人と話をしていたら、「中国ではセミなんて食べません!」と言われてびっくりしたぜ。

「中国人はセミを食べません」 多種多様な中国料理の世界

彼は中国東北部(日本では「満州」と呼ばれていた場所)に住んでいたことがある。そこで初めてカエルを使った料理を見て、食べてみたらおいしかったのでファンになった。でも、セミの食べ物なんて見たことも聞いたこともないと言う。

それはおかしい。彼の言葉は、人民網日本語版の記事と正面衝突している(2025年07月14日)。

中国でセミの幼虫が人気に 素揚げが酒のつまみにピッタリ?

成虫も食べるかもしれないが、ここで紹介されているのはセミの幼虫だ。
幼虫を油で揚げると、外側はサクサクで、中は弾力のある食感が楽しめ、お酒のつまみにぴったりだという。
山東省のある市場では、500グラムのセミの幼虫が約370円で販売されていて、1匹単位で取引されることもある。中国ではセミの需要が高まっていて、セミの幼虫はちょっとした高級食材になっているという。
「セミの揚げ物」は伝統的な食べ方で、最近では、それを使ったケーキやパンも登場している。コッペパンにセミの幼虫を挟んだパンは、まるでたくさんの幼虫がパンから発生しているような強烈なビジュアルをしている。日本のパン屋がこれを店頭に置いたら、赤字を超えて倒産を覚悟しなければならないレベル。
中国では、そんな斬新なパンに挑戦する若者も少なくないらしい。

中国にセミを食べる文化があることは間違いない。だから彼から「中国ではセミなんて食べません」と聞いたときは、一体何の話か分からなかったが話を聞くと、中国の広さが見えてきた。
彼はタクラマカン砂漠の近くに住んでいて、そこはとても乾燥していて木があまりなく、セミの声を聞いた記憶もなかった。その後、彼が引っ越した東北部は基本的に寒く、夏になってもセミの鳴き声を聞くことはほとんどなかったという。
ということで、彼の中国での生活にセミは身近な虫ではなかったし、それを使った食べ物も見たことがなかった。

 

知っているからといって、分かっているとは限らない。
「でっかいどー」という別名をもつ北海道には、新潟、宮崎、大阪など1都1府10県が入るほど広い。ジャスコ釧路店まで「直進110キロ」と書かれた、異世界のような看板も存在する。ほぼすべての日本人が北海道の位置を知っているけれど、その広さを理解している人は少ない。
この認識は中国にも当てはまる。
中国の面積は日本の約26倍で、日本より大きい省が8つもある。日本は中国で8番目に大きい省である雲南省よりも小さい、ということを知っている人はレアだ。
中国では、地域が変わると自然や生態系も別ものになるから、彼のようにセミを食べることを知らない中国人もいる。

 

ヨーロッパ人が初めて日本の夏を体験すると、蒸し暑さに泣きそうになる人が多い。彼の場合、暑さは大したことなく、日本の夏で一番印象的だったのはセミの大合唱だった。
朝、起きると窓の外から鳴き声が聞こえ、大学へ行く途中に森の近くを通ると、すさまじい音が聞こえてきて頭がガンガンした。
彼は中国でそんな体験をしたことがなかった。

中国語でセミを表す言葉には、「蝉」と「知了(ジーリャオ)」の2つがある。
セミの鳴き声は中国人の耳に「ジーリャオ、ジーリャオ」と聞こえることから、後者の名称ができたらしい。「知了」という漢字には、「よく知っている」「物事を知り尽くしている」という意味がある。
「一目瞭然」という言葉があるように、人間は視覚で存在を認知することが多い。しかし、強烈な個性を持っているモノにこの法則は通じない。
姿が見えなくても鳴き声を聞けば、そこにセミがいることはすぐに分かる。彼は中国にいたとき、「蝉」と「知了」の違いを意識したことはなかったけれど、日本に来て初めて「知了」という言葉の意味を実感できたという。

 

 

日本・中国・バングラデシュの食文化、共通点と違うとこ

日中の食文化の違い:水と生食の日本、火と油の中国

中国文化は日本文化の起源!?①オリジナル性・香港人が驚いた京都

外国人の好きな日本文化「着物」。歴史と特徴を簡単にご紹介

「中華人民共和国」の7割は日本語。日本から伝わった言葉とは?

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

コメント

コメントする

目次