旅先に知り合いはいないから、どんなに恥ずかしいことをしてもその場で終わって、自分にダメージはない——。
そんなことを「旅は恥のかき捨て」なんて言う。本人はそれでいいかもしれないが、残された人はそうもいかず、他人の恥を「回収」しないといけなくなることもある。
今回は、日本に住むフィリピン人のそんな思いについて書いていこう。
同胞の迷惑行為に怒るフィリピン人
日本に来て好き勝手にふるまい、迷惑行為をする外国人はいつも一定数いる。日本にいて日本の文化やマナーを無視したら、日本人を怒らせるのは当然。でも、日本人以上に、日本にいる同胞が強い怒りを感じることがある。
最近、そんな出来事があった。
フィリピンの女性コメディアン(コメディエンヌ)が旅行で日本へやって来たまでは良かったが、彼女は自動販売機の上に座って写真を撮り、その写真をSNSにアップした。
個人的には、鳥居で懸垂をするとか、お寺の中で踊って動画を撮るといった神聖な場所を冒とくする行為に比べたら、ずっとマシだと思うのだけど、フィリピン人は違った。英語のネットメディア『Japan Daily』にはこんなことが書いてある。
「facing criticism from Filipinos living and working in Japan」
このコメディエンヌに対して、日本で働いていたり生活したりしているフィリピン人から、批判が殺到したという。
以下、英語の原文を日本語訳したコメントを紹介しよう。
・外国にいるときは「敬意」が重要だ。あなたはフィリピン全体を代表しているという意識を持たないといけない。
・自国にいてもその態度は大切です。
・これはそんなに深刻なことではない。もし日本人がやっていたら、誰も話題にしなかっただろう。
日本人は絶対にあんなバカなことはしない。
・自動販売機が故障しないのであれば、少し楽しむくらい問題ない。
・日本でそれは通用しない。外国人訪問者は現地の規範や行動様式に従うべきだ。
・問題は自動販売機が壊れるかどうかではありません。尊重とマナーが問われているのです。
・これが一回で終わらず、トレンドになったら、すぐに自動販売機が壊されてしまう。それは人が座れるように設計されていない。
・日本人に決めさせたらいい。私は特に問題はないと思うが、もし地元の人たちが間違っていると感じたら、私は喜んでその意見を受け入れる。
他国を訪れるときはその国のマナーを守れ。そうしないと、外国人が追放される原因になる。
旅行者と在住者のギャップ
日本に旅行で来るフィリピン人、特に有名人は非日常の空間にいて、「日本での体験を最大限に楽しむこと」や「『映える』写真や動画をSNSでシェアして注目を集めること」に集中しがちだ。
すぐに母国へ戻る人ならそれでいい。しかし、日本に生活基盤をもつフィリピン人はそうではない。彼らは日本社会で起こる摩擦を最小限におさえ、良好な関係を築くことで生活を安定させ、自分たちが住みやすくなることを知っている。
だから、旅行で来ただけのフィリピン人より、日本人の視線に敏感だ。
一部の同胞による迷惑行為がニュースやSNSで広がるたび、その負のイメージがフィリピン人コミュニティ全体に向けられることが怖い。日本にいるフィリピン人から、そんな話を何度か聞いた。
「旅行者」と「在住者」との間には、生活がかかっているかどうかという決定的な意識のギャップがあるのだ。
コミュニティの「防衛本能」
有名人は影響力があるから、そんな人物が軽率な行動をすると、マネする人が続出する可能性がある。そうなると、在日フィリピン人としては、これまで日本社会で築き上げてきた信頼を失いかねないという脅威を感じるのは当然。
日本人の「フィリピン人嫌悪」の視線は自分たちに向けられ、愚行を犯したフィリピン人は帰国し、関係ないフィリピン人がその責任を取らされるという理不尽なことが起こる。
こうした場合、外国人の怒りは日本人以上に激しい。
グーグルからペナルティを受けないように、批判コメントは穏やかなものをピックアップしたが、実際には「お前はサルと同じだ」と差別的な言葉で同胞を叱る人も多かった。
これは有名人を攻撃することが目的ではなく、フィリピン人コミュニティを守るための防衛本能のようなものだ。
日本人はあまり気づかないと思うけど、SNSを見ていると、外国人コミュニティの中で同胞を袋だたきにする現象はよく起きている。

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