韓国の女優さんで、日本人が一度聞いたら忘れれないのが「オ・ナラ(오나라)」さん。
韓国語で「ナラ」は「国」という意味で、彼女が生まれたとき、父が思わず「わが国万歳!」と叫んだことから、この名前がついたとか。
オ・ナラさんは日本語が上手だから、日本に来たときには、「自己紹介をするたびに笑われます」と自虐ネタを披露したこともある。
さて、今回はソウルに住む韓国人女性のお話を紹介しよう。上記のオ・ナラさんにちなんで、ここでは彼女の名前を「ナラさん」と呼ぶことにする。
ナラは10年ほど前に東京に住んでいたことがあって、日本語がペラペラで日本の事情にもくわしい。そんな彼女には、現代の韓国人に共通する悩みがあった。

韓国人と自転車
ケンジ:お〜ナラ、久しぶり! 元気だった?
ナラ: お久しぶりですケンジさん。今、悪意を感じる名前の呼ばれ方をされて、ちょっと複雑な気分になりましたけど、わたしはおおむね元気ですよ。
ケンジ:何のことだ? 最近、日本の大学に留学していた韓国人の友達と話したんよ。彼は日本で自転車通学をしていたのが気に入って、韓国に帰ってからも自転車を買って大学に通っているんだって。
ナラ:あ〜、その気持ちすっごくわかります。わたしも東京ライフで自転車が好きになって、韓国に戻ってすぐに自転車を買いましたから。
ケンジ:俺も彼の話を聞いて、ナラのことを思い出したんだ。韓国人ってあんまり自転車に乗らないの?
ナラ:乗りませんね〜。そこが日本人との違いのひとつです。
でも、その人はすこし珍しいタイプですね。大人の韓国人にとって、ふつう自転車は「移動手段」ではなく、「趣味」として楽しむものなんです。
わたしの場合は、ふだんは地下鉄を使って会社へ行って、休日に公園でサイクリングを楽しんでいました。
ケンジ:彼もそう言ってた。日本に行く前までは、自転車で大学に通うなんて想像もできなかったって。
ナラ:わたしもその人も、日本で変えられてしまいましたね。
韓国人とメンツ
ケンジ: でも、大学まで距離があるから、彼は日本で乗っていた「ママチャリ」じゃなくて、高性能なスポーツタイプと、専用のリュックを買ったんだって。
ナラ: それ、きっと距離だけが理由じゃないですよ。
韓国人は「メンツ」をすごく大事にするので、「見た目」から入ることが多いんです。わたしも当時、見栄えのいい自転車とヘルメット、ウェアを一式そろえて、15万円くらい使っちゃいました。
ケンジ: ああ、SNSによく写真をのせてたよね。って、あれって15万円もしたんだ! 確かに高そうに見えたしたけど…。そのわりには、あのブームはすぐに終わらなかった?
ナラ: 形から入って、それで終わっちゃいました。最初はやる気に満ちているんですけど、結局つづきません。
ケンジ:柔道では「礼に始まって礼に終わる」という精神が大切だけど、ナラはほとんど試合をしてなかったよな?
ナラ:「おお〜」ってやる気がわいて、頑張って装備を整えたんですけど、すぐに燃え尽きました。「韓国人あるある」です。まぁ、自転車は今でも倉庫にあるので、いつでも再開できるんですけどね。
ケンジ:部屋のオブジェ以下じゃん。
ナラ:でも、「レガシー」にはなりました。
ケンジ:どんなにカッコよく言い換えても、日本語に訳すと「3日坊主」になるけどな。
ナラ:印象が良ければいいんです。さっきも言ったとおり、韓国人には「メンツ」が大切なんですから!

韓国語の「ニャムニャム(냠냠)」は「もぐもぐ」や「パクパク」といった意味。ちなみに、「チヂミ」という韓国語はない。
韓国人とストレス
ケンジ:それでよぉ、ナラの最近のブームな何なの?
ナラ:もはや挑発を超えて宣戦布告ですね。
最近、わたしがハマっているのはヨガです。ここ数年、「心の疲れ」というものを強く感じていて、「なんとかしたいなー」って思っていたときに、アパートの近くにヨガ教室ができたんですよ。これは運命だと直感して、ことしの4月からその教室に通い始めて、8月にヒマラヤへ行って瞑想をしてきたんです。
ケンジ: いきなりヒマラヤ! 話が急展開すぎる!
ナラ:それが韓国人なんです。早く慣れてください。
ケンジ:そしてマイペース!
ナラ:ヨガの先生がレッスンの終わりに、ネパール旅行のパンフレットを配って、「ヒマラヤの空気を吸うだけでリフレッシュできますよー」と話をして、参加者を募集したんです。
そのとき、これも運命だと思って行くことにしました。
ケンジ:運命ってそんな短期間に何度も感じるものか? それに、その話は先生の営業じゃん。ナラっていうより、食いつきのいいボラじゃん。
ナラ:結果的に正解だったからいいんです!
そのころ、わたしは公私にわたって強いプレッシャーを感じて、ストレスがたまりまくって精神が崩壊しそうだったんです。それで、ヒマラヤの雄大な雪山を想像して大きな魅力を感じたのです。

2019年ごろ、韓国では大気汚染が深刻な問題となっていて、「毎日、ガス攻撃訓練を受けている気分」と語るソウル市民もいた。
当時、韓国で英語を教えていたアメリカ人が上の写真をボクに送って、「太陽がかすんで見えない」とボヤいていた。
大気汚染と太陽 アメリカ人が感じた韓国と日本の“最大の違い”
過酷な韓国社会
ケンジ:ヒマラヤって「雪のあるところ」という意味らしいぜ。ソウルとはかなり違うんだろうな。
ナラ:はい、まったく違いました。一番の違いは「空」です。
ソウルはビルばかりで、空がせまく見えるんです。それに、最近は良くなってますけど、大気汚染もけっこうヤバいんです。
ケンジ:5年くらい前、ソウルに住んでいたアメリカ人もそんなことを言ってた。スマホに大気汚染の警戒情報がどんどん入ってくるけど、その対策は市民に丸投げするから、ストレスがたまるって。
ナラ:あ〜、あのころは本当にひどかったですね。
それに加えて、韓国は競争がとても激しいので、肉体的にも精神的にも疲れている人が多いんですよ。
嫌な話ですけど、韓国の自殺率の高さが世界トップクラスにあるのも、それが大きな原因です。
ケンジ:日本も自殺が多い国と言われているけどな。
ナラ: 韓国社会の競争の激しさは日本以上です。過酷な受験戦争に勝っても良い仕事に就くのはむずかしく、失業率は高くて貧富の差も広がっています。それが若者の「極端な選択」(自殺)につながっています。
ケンジ:韓国人は日本に対して強いライバル意識をもっているから、ジャンケンでも負けたくないんだってね。でも、日本よりも政治がうまくいっていないことや、生活が苦しいことについては素直に負けを認めるって、別の韓国人から聞いたことがある。
ナラ:それについては同感です。どんなに視力の良い人でも、韓国の政治に希望なんて見えません。
まぁ、わたしも心がかなり疲弊していたので、ネパール旅行に行くことにしたんですよ。「どこか遠くへ行って癒やされたい」と願う人は多いです。
ネパールのイメージ
ケンジ:韓国ではネパールについて、どんなイメージがあるんだ?
ナラ:韓国人を代表してわたしが言いますと、ネパールは貧しい国ですけど、仏教の影響が強くて、文化的には韓国と似ている部分があります。でも、なんか神秘的でミステリアスな国というイメージがありますね。
ケンジ:つまり、巨大なパワースポットみたいな感じ?
ナラ:何ですか、その言葉は? 初めて聞きました。
ケンジ:パワースポットって、神秘的で霊的な力を感じる場所のこと。和製英語だから、外国人には意味不明で、「たくさんの人が筋トレをしている感じ」って言ったイギリス人もいた。英語では「spiritual place」って訳すことがある。
ナラ:日本人はすぐに新しい言葉を考えつきますね。それなら、「神秘的な場所」でいい気がしますけど。
ケンジ:いまネットで日本のサイトを見たら、ソウルだと南山がパワースポットだって書いてある。
ナラ:はあ? 南山がですか? あそこは恋人たちが集まる「ラブスポット」ですよ。ケンジみたいな人にとってはストレスの発生源です。
南山はいいとして、韓国人にネパールは、霊的なエネルギーを感じられる「パワースポット的な国」というイメージがありますね。
心の癒やし「ヒルリン」
ケンジ:話を聞いていて思ったんだけど、韓国社会において、メンツと競争とストレスの3つの要因は深く結びついてないか?
ナラ:それはあります。三位一体で、ひとつの集合体になっていますね。
だからこそ、わたしはそんな環境から離れて、ヒマラヤで心が解放されたのです。雄大な雪山を見ながら歩くと、「人間はすごくちっぽけな存在なんだな〜」って感じました。
ケンジ:「3つの悪」から離れて、心が癒やされわけだ。
ナラ:はい。韓国語でいう「ヒルリン(힐링)」です。現代の韓国人は生活で疲れているので、みんな自分なりのヒルリンを求めているのです。
ケンジ:何だ、その言葉? 初めて聞いた。それって英語の「ヒーリング(healing)が韓国語化したもの?
ナラ:そうです。現代の韓国人はみんな心が疲れているので、ストレス解消やリラックスできる何かを探しているのです。
わたしのサイクリングやヨガがそれですし、ご友人の自転車通学もきっとそうなんでしょう。
ケンジ:確かに、単なる移動手段じゃなくて、彼は「自然を感じられるのが気持ちいい」って言ってたから「ヒルリン」なんだろうな。
ナラ:わたし、韓国ではよく他人と比べていましたけど、ネパールにいたときは一度もありませんでした。ヒマラヤの大自然を前にしたら、ストレスがふき飛んで心身がリフレッシュできました。
ネパール旅行はここ数年の中で、いちばん印象的なイベントになりましたね。
ケンジ:ボラれなくてよかったよ。
ナラ:せっかく、あの時の美しい空気と感動を共有しようと思ったのに、「最後にうまいことを言った」みたいなケンジさんの顔を見て台無しになりました。すこしストレスがたまってしまいました。
ケンジ:それは悪かった。でも、韓国人がストレスを感じる原因には、「感じやすい体質」があると思うんだけど。同じ経験をしても、日本人のほうがストレスを感じにくい気がする。
ナラ:まぁ、それはあるかもしれませんね。「メンツ」を重視する民族なので。
おまけ
韓国の自殺率は高く、先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)の中で、22年連続1位という厳しい状態がつづいている。
最近では、「うつ状態」ではないのに死にたいと思う「非典型的自殺危険群」の人たちが増加して、新しい危機として注目されている。
見た目は健康そうだけど、実際には深刻な自殺リスクを抱えている人のことで、把握することが困難なため、韓国社会は新しい対策が求められるという。
「AFPBB News」の記事(2025年10月16日)にくわしい説明がある。
「うつではないが死にたい」…韓国・自殺危険群の6割が“非典型”→新たな対策の必要性浮上
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