日本の「七草かゆ」の習慣は、中国の「七種菜羹」をルーツにもつ。
本国で消えた習慣が日本で独自に進化し、今も伝統として根付いている。外来文化を自国の価値観に合わせて取り入れ、大切に守り続けるところに日本文化の特徴がある。
ヨーロッパでのカードトラブルと「羹に懲りて膾を吹く」
SNSを見ていると、ヨーロッパを旅行していて「クレジットカードが使えない!」と悲鳴をあげる日本人がいた。
彼がカードを使って買い物をしようとしたら、不正を疑われ、本人確認を求められた。
しかし、海外にいた彼はそれを突破することができず、結局、そのカードを使うことはできなかったという。
クレジットカードの不正利用を防ぐため、カード会社がセキュリティレベルを上げた結果、本人が使えなくなってしまった。
過去に痛い思いをしたから、必要以上に警戒してしまうーー。
そんな状況を「羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹く」という。 羹(熱いスープ)を飲んで舌をやけどしたから、膾のような冷たい食べ物まで「フーフー」と息を吹いて冷まそうとする。
この表現の元ネタは二千年以上前の中国の古典『楚辞』にある。
古代の日本は中国の影響を強く受けていたから、いつの間にか日本にもこのことばが伝わり、現代まで使われている。
ちなみに、羹は「羊羹(ようかん)」と同じ漢字だ。
最近、日本の大学で留学生として学んでいる20代の中国人男性・ウーロンから、中国文化について聞いた話ので、これからその内容をお届けしよう。

「七草かゆ」のルーツ、古代中国の「七種菜羹」とは
※唐の時代、1月7日の「人日(ジンジツ)」に、7種類の野菜の羹(熱いスープ)を飲んで(食べて)、無病息災を祈る風習があった。これを「七種菜羹(しちしゅさいこう)」という。
遣唐使がこれを日本へ伝え、現在の七草かゆの起源となったと思われる。
ーー日本では、1月7日に「七草かゆ」を食べる習慣がある。
春に芽吹いた七草を食べることで、一年の無病息災を願う。これは、古代中国の「七種菜羹(しちしゅさいこう)」にルーツがあるんだって。
今の中国でもこの習慣はある?
ウーロン:いや〜、聞いたことがないですね。「七種菜羹」ということばも、いま初めて知りました。
ちょっと待ってください。今、ここに南部の重慶出身の中国人がいるんで、彼に聞いてみますね。フムフム、彼も「七種菜羹」なんて初耳だそうです。
ーーそうなんだ。北部出身のウーロンも、南部出身のプーアルも知らないんだ。
ウーロン:彼はそんな名前じゃないですけどね。
ーー日本で「七草かゆ」は日常生活に溶け込んでいて、1月7日が近づくと、スーパーには「七草セット」が並んでいる。
ウーロン:日本には、そんな古い中国の風習がまだ残っているんですね。
日本独自の進化を遂げた伝統文化
ーーそうだけど、ソックリそのままではない。
日本では羹(スープ)じゃなくて、お米が入った「お粥」になっている。神道ではお米を大切にしているから、その影響かもしれない。
日本人は中国や西洋から入ってきたものを、自分たちの好みや価値観に合わせて変えてしまう。それが日本文化の特徴なんだよ。
ウーロン:時代によって方法や中身が変化することは、世界中の国であるでしょうね。「七種菜羹」はそうじゃなくて、中国からその風習が消えましたけど。
ーー中国は途方もないからね。面積は日本の25〜26倍、人口は10倍以上もある。
ウーロン:中国には長い歴史があっていろいろな文化を生み出したんですけど、歴史の中に消えていった伝統や風習も多いんです。
ーー「中国あるある」だ。
別の中国人からも、同じ話を聞いたことがある。彼女は日本に住んでいて、保存状態の良い建物がたくさんあるから、「日本人は伝統を大切にしているナ」ってよく感心するんだって。
ウーロン:私も同感です。それは日本人の素晴らしいところです。 ネットで調べたら、七種菜羹の考え方は東南アジアに伝わっているみたいです。
東南アジアへ渡った「七種」の文化と、本家で消えた理由
ーー東南アジアにも? それは意外だな。
ウーロン:マレーシアやシンガポールの中国人コミュニティには、「七彩鱼生」という縁起の良い食べ物があります。刺し身を中心に七種類の食材を組み合わせた食べ物で、これは幸運を象徴しているらしいですよ。
ーーなんで本家では消えちゃったんだろ?
ウーロン:中国の歴史は移り変わりが激しくて、そのたびにいろんなものがぶっ壊されましたからね〜。
ただ、中国はとても広いので、私が知らないだけで「七種菜羹」が残っている地域があるかもしれません。少なくとも、一般的な風習としては無くなりました。

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