「インターネットに国境はない」と言われるけれど、実際には「見えない壁」が存在する。
とくにお隣の中国では政治的に敏感な言葉が厳しく規制されており、日本では問題ない言葉でもすぐに消されたり、検索できなくなったりする。
最近、そんな中国の「絶対的なタブー」を実感させる出来事が日本で起きた。
東大教授が中国人を「排除」した方法
先日、東京大学は「本学教員としてあるまじき行為で、決して許されるものではない」として、60代の教授を懲戒処分にしたと発表した。
この教授は一体何をしたのか?
じつは大学院入試関連サイトの「ソースコード」の中に、「六四天安門」という文字列を埋め込んだのだ。
1989年6月4日、北京の天安門広場で民主化を求める学生たちに対し、政府が軍を出動させて武力でデモを鎮圧し、多くの死傷者が出た。
中国社会においてこの「天安門事件」は最大級のタブーであり、検索することも語ることも許されていない。
「6・4」という数字すら忌避されている。
そのため、日本に来て初めてこの事件を知る中国人もいた。

つまり、サイトの表面上には見えなくても、裏側に「六四天安門」というキーワードが書き込まれていると中国の検閲システムに弾かれ、中国国内からはそのページを閲覧できなくなる可能性が高い。
実際に、中国からは閲覧できなかったらしい。
特定の国の人だけに入試情報を見られなくすることは、大学として確かに「あるまじき行為」だ。
教授が中国人留学生を排除しようとした動機が気になるところ。
さて、この一件から、同じ東京で起きた「西太后」騒動を思い出した。
「西太后」騒動|迷惑系配信者を撃退した「魔除け」戦術
2023年末、東京にある中華料理店「西太后」がウイルス対策を理由に、「中国人お断り」の貼り紙を掲げた。
するとある中国人配信者がそれを見つけて抗議し、店で大声を出して騒ぎを起こしたため、警察に通報される事態に発展した。
その配信者は騒動の様子を動画で撮影し、中国のSNSに投稿したところ動画は大バズり。
そのためアクセス稼ぎを狙った別の中国人配信者が、次々と店に押しかけるようになってしまった。
特定の人の入店を拒否するのは問題だが、かといって、アクセス稼ぎの迷惑行為を正当化することはできない。
店主は彼らを追い払ったり警察を呼んだりして対応していたが、こうした配信者にとっては、騒ぎが大きくなることはむしろ「おいしい」展開だったと思われる。
困り果てた店主に対し、騒動を知った台湾のネットユーザーや日本人が支援に乗り出した。
迷惑配信者を力ずくで追い出そうとするのではなく、代わりに次のような対策をとるべきだと提案したのだ。
・店内に、天安門事件や習近平国家主席を批判する文や写真を貼る。
・台湾独立を支持する言葉を掲示する。
・迷惑配信者が動画を撮影していたら、チベットや新疆の独立を支持していると叫ぶ。
現代の中国において、これらはどれも絶対的な禁忌だ。
こうした文言や音声が動画に入っていると、中国のネット検閲に引っかかり、動画は確実に削除される。それだけでなく、アカウントが凍結されたり、警察に捕まったりする可能性もあるという。
ある意味、これは対中国に特化した最強の「魔除け」戦術だ。効果は絶大で、この対策を実施した後、嫌がらせは激減した。
それもそのはず。
もし自分が配信している動画の中に「六四天安門」という文字が映り込んだら、きっと配信者の人生を左右するような恐ろしいことが起こる。
何が起こったかをリアルタイムで動画配信したら、世界的に大バズりすることは確実だ。
この一件については、中国語版ウィキペディアの「日本东京中华西太后餐厅事件」にくわしい説明がある。
台湾人には通じない「魔よけ」
この「魔除け」の数々は台湾人にはまったく効果がない。
「西太后」騒動は台湾でも大きな話題になったため、店を訪れる台湾人は多いという。
騒動の後、ある台湾のネットユーザーが店を訪れ、その様子をSNSでこうつぶやいた。
「如今小粉紅已經聞之色變、不敢靠近。因為老闆有太多的『護身符』」
(今では小粉紅たちもすっかり怯えてしまい、店に近寄ろうともしない。店主が『魔除け』を大量に装備しているからだ。)
「小粉紅」(しょうふんこう)とは、激しい愛国主義や民族主義を主張する中国の若者を指す言葉だ。
中国を批判したり侮辱したりする海外アカウントを見つけると、一斉に押し寄せて攻撃的な書き込みをおこなうことで知られている。
中国社会における「絶対タブー」の数々
この台湾人が見たところでは、店内には次のような「護身符」があったという。
・天安門事件に関するもの:「19890604」や「8964」といった事件を連想させる数字や、戦車の前に立ちふさがった市民の写真。
・習近平国家主席に関するもの:習主席を揶揄するキャラクターとして知られる「くまのプーさん」の人形や、「反共反習(共産党と習近平に反対する)」というスローガン。
・台湾や各地域の独立支持:台湾(中華民国)の旗や、「還原中華民國!(中華民国を取り戻せ)」といった言葉。
さらに、チベット、新疆ウイグル自治区、滇国(てんこく:雲南省)などの独立を支持する主張。
・反体制的なスローガン:「打倒中共」、「中國解體(中国の解体)」、「東亞自由(東アジアの自由)」など。
「沒有討論 不是民主(議論がなければ民主主義ではない)」といった、台湾の抗議デモで使われるスローガンも含まれていた。
個人的に最も強烈だと思ったのは、「打倒中共 / 8964」という組み合わせだ。
これは「中国共産党を打倒せよ」という直接的な批判と、最大のタブーである「天安門事件の日付」を掛け合わせたものだ。
「悪魔合体」と言っていい。
ほかにも、中国政府が禁止している気功集団「法輪功」のパンフレットまで置いてあったという。
現在の中国社会において、これらはどれも「特級呪物」レベルの絶対的なタブーばかりだ。
これらが一つでも画面に入るだけで、中国のネット空間では完全に「アウト」となるし、おそらく投稿者の人生も「詰み」だ。
ある意味、中国の人たちにとって、これほど恐ろしい空間はほかに存在しないかもしれない。
どんなに過激な配信者でも、この「悪魔の城」では、きっとネコのように静かに食事をするはずだ。

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