20年ほど前、中国を旅行していたとき、現地に住んでいる日本人からこんな話を聞いた。
中国人の「できました」、韓国人の「できます」、日本人の「できません」は信用してはいけない。
中国人が「できました!」と言っても、その質や内容に問題があることが多いから、自分で確認しないといけない。
韓国人は楽観的だから「できます!」と聞いても、段階的にチェックを入れて進捗状況を確認する必要がある。
日本人は遠慮のかたまりだ。
だから本人が「できません…」と言っても、やらせてみると、実はけっこうできてしまう。
これはその日本人が日中韓以外の外国人から聞いたジョークらしい。
でも説得力があって、一面の真理はついていると言う。
このあと同じようなことばをネットで見たから、これはけっこう有名なネタかもしれない。
日本人・韓国人・中国人の価値観や考え方を知りたかったら、労働という同じ条件であらわれる違いに注目するのもいいが、表現の違いを知ることも有効だ。
ということで今月はじめ、中国で大炎上した日本のアニメ『無職転生』の出番です。
ニュースポストセブンの記事(3/5)
『無職転生』巡り中国で大炎上 中国版”ポリコレ棒”が横行する背景
このアニメは、ひきこもり状態だった34才のニート男が事故で死亡した後、ファンタジーの世界に生まれ変わるという転生もの。
人間世界では何もできなかった主人公が異世界では魔法や剣術をおぼえて、仲間を引き連れて旅をするというのが『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』のストーリー。
いまも日本で放送中だから、興味のある人はどうぞ。
中国の「bilibili(ビリビリ)動画」で配信されていたこのアニメ、多くの視聴者を集めて大ヒットを記録した。
ビリビリ史上最速で、1億再生達成の直前だったらしい。
だが好事魔という魔はどこにでもいる。
主人公がニートで無職だったこと、主人公の父親がメイドと不倫するシーン、さらに主人公(少年)が女性の下着を盗んだ場面などが中国で問題視される。
約900万人のフォロワーを持つ有名インフルエンサーの中国人が「ニートの主人公に共感できない」といった批判をするとすぐに炎上。
ビリビリ動画には抗議が、スポンサー企業にはクレームが殺到する。
主人公が女性の下着を盗むシーンには「女性を軽蔑している!」という批判が殺到し、女性をターゲットとした複数の企業が「女性に対する侮辱的な行為や発言は見逃せない」として、ビリビリ動画への広告出稿を取り止めた。
大炎上を受けたビリビリ側は「技術的な理由」をあげて『無職転生』の配信中止を発表。
そんな理由を信じる人は中国全土で一人もいないのでは。
この間、アニメの内容に激怒した中国のフェミニストたちが共産党に通報しまくったことで、政府の怒りを恐れたビリビリがアニメの配信停止をすぐに決定したという話もある。
残念ながら、中国での転生には失敗したらしい。
もちろんこれらの表現は日本では問題なく放送できた。
まぁまったく批判がなかったわけではないけど、少なくとも公共の電波で流すことはできた。その自由度は中国とは違う。
このアニメの下着盗難シーンを見たフィリピン人女性はこう言う。
「私もあのシーンを見たとき、すごく気持ち悪かったんですけど、続いたシーンは良くなってきて良かったです。」
このフィリピン人の話では『無職転生』の主人公が引きこもりだったことが、中国でいちばん問題視されたとフィリピンでは考えられている。
30代で働かない人間は中国では特にイメージが悪いし、共産党の価値観にとっても不適切な存在だとか。
それは置いとくとしても、不必要なエロシーンが日本のアニメには多いとよく思う。
まえに知人の中国人から、『進撃の巨人』が中国政府から有害指定されたワケを聞いたことがある。
「高い壁に囲まれて住んでいた人たちが、自由を求めて強大な巨人と戦う」という設定を、共産党による統治と民衆に置き換えられると、政府にとっては激しく都合が悪い。
そんなことで『進撃の巨人』が規制対象になったらしい。
実際、香港の民主活動家が、巨人を共産党に見立てた動画をつくって中国政府を批判したことがある。
中国共産党がこんな自由を許すわけない。
政府批判を警戒してそれにつながる表現は、小さな芽でも素早く摘み取るところが日本とは違う。
ちなみに「監視された社会」に疑問をもつことのないようにと、『サイコパス』も中国では規制対象となった。これも日本の価値観ではありえない。
『無職転生』の場合は反政府の要素ではなくて、「愛国愛党か」「社会風紀を乱していないか」といった中国社会の価値観に反したことで、「ポリティカル・コレクトネス(政治的な公正さ)」に引っ掛かり、“中華版ポリコレ棒”でぶったたかれた。
「ビリビリ」とは日本のアニメ『とある科学の超電磁砲』のキャラ・御坂美琴の愛称。
この動画共有サイトはもともとアニメオタクをターゲットにしていたところ、人気が出てきて一般の利用者も増えた結果、“ポリコレ棒”で攻撃されたようだ。
ということで、日本と外国の価値観の違いを知るには、アニメの表現の違いや限度に注目するのは有効な手段になる。
アニメについて言えば、中国では「できました」が少なくて、日本では「できません」が少ない。
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> このフィリピン人の話では『無職転生』の主人公が引きこもりだったことが、中国でいちばん問題視されたとフィリピンでは考えられている。
> 30代で働かない人間は中国では特にイメージが悪いし、共産党の価値観にとっても不適切な存在だとか。
え? それ以外に、中国当局(の意向を受けた配信会社)が問題視する理由って何かありますか? 私もそのフィリピン人の見解に完全同意です。
下着泥棒のシーンが女性蔑視であるという多数の抗議は、理由としてただ利用されただけじゃないですかね。
その割には向こうのモーターショーのコンパニオンは日本以上に露出過多。近年は抑制命令が出て入場者が激減してましたけど。
中国当局が問題視したか分かりません。
その前に自主的に配信を停止したように思います。