慰安婦裁判、３か月でなぜ大逆転？文政権・韓国司法の思惑

同じ内容の裁判結果が３か月で、オセロのように１８０度変わるというのはかなり異例なことだ。

１月に韓国の地方裁判所は慰安婦訴訟で日本の主張する主権免除を認めず、原告に賠償を命じる判決を言い渡した。
この国際法を無視した判決に、日本政府がすぐに抗議したのは言うまでもない。でも、もともとこの裁判自体を認めていなかったから日本は控訴せず、この裁判はそのまま“日本敗訴”で確定。

そして今月４月に行われた同じ内容の裁判で韓国の地裁は、今度はこの真逆、日本の主権免除を認めて原告敗訴を言い渡す。
これは国際法に基づく常識的な判決だ。とはいえ、なんでここまでみごとにひっくり返ったのか。

この３か月の間で大きな変化があったのは、ムン・ジェイン大統領が３月に行った演説の中で、１月の日本敗訴の判決について「少し困惑している」と否定的な見方を示したこと。
ムン大統領はこれまでずっと政治が司法に介入することはできないと、距離を置くことしか言っていなかったのに態度が一変。
自国の裁判結果に困ったという文大統領はつづけて、２０１５年の慰安婦合意を「両国政府の公式合意であるということを認める」と明言した。
また別件の元徴用工裁判にふれ、日本企業の資産が現金化される事態を「望ましくないと考える」と言う。

こうした発言をはさんで、日本敗訴→逆転勝訴の急展開を見せたのだから、文政権からの何らかの力が司法にはたらいたと見るのはしごく当然。
日本との関係改善に力を入れているいまの文政権にとって、この判決が追い風になるのは誰の目で見ても明らかだ。

中央日報日本語版の記事（2021.04.22）

文政府が任期末に入り、日本政府との関係改善を模索するにあたっても肯定的に作用するだろうという評価がある。

なぜか文大統領「困惑」後に裁判所交代…そして慰安婦判決覆した

韓国の大学教授が「政府では外交的な空間が広がり、喜んでもよいほどの判決」と記事で話すように、対日外交での韓国政府の負担はこれによって軽減した。

「３か月での大逆転」の原因は韓国政府の“見えない力”の他にもある。
司法判断のせいで韓日関係が極度に悪化しかねいという政治的な重みに、裁判所が耐えられなかったのではないか、という見方もあるのだ。

読売新聞の記事で神戸大教授の木村幹氏（朝鮮半島研究）はこう分析する。（2021/04/22）

韓国社会はポピュリズム（大衆迎合）的で、最近は急進左派の流れが強く、裁判所が示す判断もどんどん変わってきた。今回は変化が行きすぎではないかという不安感が働いたのだろう。

日韓関係悪化に司法耐えられず、日本に有利な判決…「慰安婦」訴訟で専門家

そのときそのときの国民感情が司法判断に大きな影響を与えることは、前々から指摘されてきたことだから、確かにこれは納得。
ここ数年、国際法より国民感情を優先するような、韓国政府でさえ予想できなかった判決（１月の日本敗訴）を韓国の裁判所が出している。
反日迎合の“ポピュリズム判決”に「そろそろブレーキをかけないとヤバい」と韓国の司法が思い始めての今回の結果だろう。
裁判官も人間だ。
自分たちの判断で、韓日関係を“終わらせる”重みに耐えきれないのもわかる。

国際法や国内法より、国民情緒が上位にあるというのも困った話だ。だけど、それもそろそろ行き詰まりを見せてきたらしい。というか、これまでがやりすぎですよ。

もしこの間、日本が韓国に安易な譲歩をしていたら、今回の「勝訴」はきっとなかった。
文政権に対しては現実的な解決案を示すまで、これまでと同じ対応を続ければいいということになる。
日本が対立を覚悟すれば、その緊張は韓国内で圧力となっていろいろなころへ作用するから、結果的にこれは日韓にとって良い方向へと動いていく。