【韓国社会の個人攻撃】反日より国際法を優先した裁判官の受難

日本の統治時代、“強制徴用”されたと主張する韓国人らが日本企業を訴えた裁判で、２０１８年には最高裁が日本企業に賠償を命じて原告勝訴となった。
同じ内容の裁判で２０２１年６月、ソウル中央地裁は原告の訴えを棄却。内容としては原告敗訴で、３年前とは１８０度反対の判決を言い渡した。
最高裁の判決を地裁がひっくり返すのは韓国でも初めてのことらしく、これは大きな波紋をよんでいる。

韓国の全国紙・朝鮮日報によると、今回の判決こそ正しく、１８年の原告勝訴の判断が間違いの始まりだったと考える法律専門家が多そうだ。（2021/06/08）

今回の判決について、裁判所内部からは「当初の大法院判決に無理があった」との評価が聞かれた。ある部長判事は「18年の大法院判決は国際関係を考慮しない、多分に国民の対日感情を意識した判決だった。その後、韓日関係の行き詰まりを解決しようとする現政権にも負担になった」と指摘した。

既存の大法院判決と異なる判断…徴用被害者、一審敗訴

国家間の合意を一方の国が、国内法で否定することは国際法で禁止されている。
ソウル中央地裁のキム・ヤンホ裁判官は「国内的な事情や解釈があっても、条約の効力は維持される」というウィーン条約27条を持ち出し、「当事国は条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」と言い切った。

１８年の裁判では国際法（ウィーン条約）より国民の対日感情、つまり反日感情を優先して下された判決だったと認める声が韓国の裁判所にある。
今回の原告敗訴の結果について、釜山大法科大学院（ロースクール）のチュ教授も「国際法的にとても妥当な判決だ」と評価する。

でも、韓国国民の感情として正しいのは１８年の判決だ。
それこそが正義の判断で、日本企業に賠償を認めなかった今回の判断はとても受け入れられない。
その不満や怒りは、判決を下したキム裁判官への激しい個人攻撃となって表れた。

FNNプライムオンライン（2021/06/11）

韓国人の訴えを退ける判決を言い渡した裁判官が、苛烈な個人攻撃を受けています。与党は「戦犯国の国益を優先した」「国民感情に合わない」と激高。次期大統領候補者も「日本政府の主張を踏襲している」と反発し、韓国メディアも「親日判決だ」と猛批判しました。

“元徴用工”敗訴で「親日判決だ」と裁判官を個人攻撃司法を尊重しない韓国の矛盾

ネットでキム氏や家族の個人情報が暴露され、あらゆる罵倒が浴びせられている。
韓国社会ではネットリンチを受けて自殺に追い込まれた人もいるのに、次期大統領候補者がバッシングを助長するという救いようのなさ。
キム氏は裁判官としてウィーン条約を優先したのに、与党が「戦犯国の国益を優先した」と非難する絶望。
政治家がこんな人気とりをしているから、「やっぱり韓国は法治国家ではなくて情治国家だ」と日本人にあきれられるのだ。

この判決に激怒した国民が、大統領府にキム裁判官の弾劾を求める国民請願を出した。
その内容をみるとキム氏を「売国奴」とののしりこう批判。

「果たしてこの者が本当に大韓民国国民なのか疑問を感じるほど、反国家的、反歴史的な内容でつづられている」

法律の専門家は「国際法的にとても妥当な判決だ」と評価しているのに、国民の対日感情を否定する判決だったから、国民請願では「売国的軽挙妄動」にされている。
「民族的良心」を回復するため、キム氏には制裁を下さなければならないと主張する。

なお、１カ月以内に２０万人以上の同意を得ないと、韓国政府はその国民請願に対応しないという高いハードルは１日でクリアしたもよう。

ハンギョレ新聞の記事（2021-06-10）

同請願は「判事が根拠として提示した請求権消滅論は、日本の極右の立場をそのまま反映している」と指摘した。

「強制動員訴訟却下した判事の弾劾を求める」国民請願、１日で２２万人が同意

こんな訴えを認めたら韓国の「文明国としての威信は地に落ちる」と言ったキム氏と、「本当に韓国の判事と韓国の裁判所なのか」と激怒する原告側。
裁判所の内部にいる人たちは前者を支持しているとしても、それを公の場で口にしたら、今度は自分や身内が狙われる。
韓国社会の個人攻撃の恐ろしさは、韓国人ならだれでも知っているはずだ。

２０１８年の平昌五輪では、“いじめ疑惑”が浮上したスピード・スケート女子のキム・ボルム選手が全方向から攻撃を受けた。
非難殺到からのすべてのSNSアカウントの閉鎖は当然、キム選手は公開の場で泣きながら謝罪したけれど、それぐらいでは国民感情を傷つけた“罪”は消えない。
「韓国代表資格をはく奪するべき」という国民請願が提起されると、60万人以上の人がそれに同意。
キム選手のスポンサー企業には製品の不買運動を示唆するメールが洪水のように押し寄せ、企業は選手の支援を止めた。

心に深い傷を負ったキム選手が仏教僧からなぐさめの言葉をかけてもらうと、「仏教信者の評判を汚す」とまた攻撃される。
その後出場したマススタートの競技で銀メダルをとったキム選手は、リンクの上で国民に”土下座謝罪”した。

産経新聞の記事（2018.2.25）

「土下座は自分の言動を韓国国民に謝るため。ごめんなさいという思いしかありません…」と絞り出すのが精いっぱいだった。

氷上の“土下座”で韓国世論が軟化　“魔女狩り”受けたキム・ボルムに代わる標的は…

メダルをとった五輪選手が国民に公開土下座するシーンに、理解不能になったりドン引きした日本人は数知れず。
でもこれでようやく韓国社会では、選手を許してやってもいいという空気が広がり始めた。
まぁ別のターゲットが見つかったことが大きな要因なんだが。

20代の女性が国民から総攻撃を受けた傷は簡単に癒えることはなく、平昌五輪が終わった後、キム選手は精神科に入院する。だけでなく、母親も精神病院に入院して治療を受けることになった。
くわしいことはこの記事を。

【韓国社会の恐ろしさ】日本人もあ然。”国民の敵”にされた五輪選手。

今回、キム裁判官がした”罪”はきっとこれより重い。
それによる個人攻撃は、韓国のすべての判事への「国民感情に合わない判決を下したら、わかるな？」という圧力になっているのは言うまでもなし。
裁判所内部に「当初の大法院判決に無理があった」という意見があっても、「売国的軽挙妄動」という国民の非難ほうがずっと大きいし勢いがある。
朝鮮日報はキム氏の判断を支持しているからそんな意見を報じたと思うけど、かといって露骨に支援すると、「日本の極右の立場をそのまま反映している。売国メディアだ！」と批判を受けることは必至。
だからハッキリとは伝えられない。

個人的にはこの裁判官を支援したい気持ちはあるんだが、具体的には何もできん。国内の反日圧力に負けない勇者もいると紹介するぐらい。
国民感情ではなく、国際法に基づいて判決が下されるのは今回が最後になるかもしれない。
でも、政治家やメディアの支援は絶望的だし、あの集中攻撃を見るとそれも仕方ないか。