クレームや問い合わせでコールセンターに電話すると、日本ではよくこんなアナウンスが流れる。
「この通話はサービス向上のため録音させていただきます」
「話の内容はしっかり記録させてもらうからな」と事前に警告しておくことで、なるべく相手にヒドイ言葉を使わせないようにする。
こんなコールセンターは韓国にもあって、そこで働く人の”精神崩壊”を防ぐための対策も行われている。
そのやり方は日本では想像できない、とても韓国らしいものだった。
最近、空前絶後のレベルで大炎上した日本のラーメン屋がある。
全国チェーンのその店でラーメンを食べた人が、ツイッターで「不味い」「もう2度と行かない」とつぶやくと店主がこう反応した。
「もちろんもう二度と来ないでください!」
「クソ素人が来たなと思ってた」
結果、ネットで店は燃え上がり、本部が「あってはならない対応だった」と謝罪する。
ペナルティーとして店は屋号をはく奪されたというから、いっそのこと新しい店前を「クソ素人が来た」にしたらどうか?
この一件はレジェンドになるだろうから別枠としても、世の中には理不尽すぎるクレームをつける客がいて、その対応に苦慮する企業はよくある。
これからの時代、店が客の取捨選択をして、「モンスタークレーマー」と判断したらさっさと切り捨てることも必要だ。
そんな話を知人の韓国人(30代・女性)にしたら、彼女はこう言う。
「同じ世界に住んでいるとは思えない客なんて、韓国にはいくらでもいますよー。日本人に比べて韓国人はストレートな性格で、思っていることをそのまま言葉にします。それに韓国語にはヒドイ悪口がたくさんありますから、クレーム対応をする人はよく精神をやられます」
ネットを見たら、韓国では電話口で「オマエを〇してやる!」と怒鳴るクレーマーがいたり、自殺したコールセンターのスタッフもいる。
こういう犯罪レベルの言葉を使わせないために、日本では「この通話はサービス向上のため~」とアナウンスを流す。
知人の話では、「お客様は神様です」の考え方は韓国にもある。
だから、クレーム対応にあたる人は大声で怒鳴られても、不条理な内容やセクハラ発言をされても、ひたすら「ハイハイ、大変申し訳ございません」と頭を下げ続けていた。
いつも罵倒されていると、人間の心はどうしても病む。
スタッフのメンタルを守ると同時に、高い離職率を下げようと韓国の企業が思い切った決断をして「対策マニュアル」を作成した。
「ちょっと何言ってるか分からない」という対応不可能なクレームにはスタッフが2回警告し、それでも相手の言動が変わらなかったら、スタッフのほうから電話を切る。
つまりスリーストライク制で、スタッフの「ガチャ切り」が認められた。
「もう二度と来ないでください!」を具体的なカタチにした格好だ。
スタッフを守り、モンスター相手に無駄な時間を使わないというこのやり方に共感して、多くの韓国企業がこのやり方を取り入れたという。
「それまでコールセンターのスタッフのことを真剣に考えず、使い捨てにしていた韓国企業の態度もおかしかったです。だからこれは当たり前ですよ」と、知人はこのアイデアに大賛成。
「ほかにも、韓国人の心に刺さるやり方を導入した会社もあるんですよ」と教えてくれたのは、たしかに日本では聞いたことない方法だった。
ニューズウィーク誌にそのくわしい内容がある。(2017年09月10日)
温もりのある声で癒しを 感情労働ストレスを軽減させた取り組み
暴言からスタッフを守るのが「ガチャ切り」なら、これは客に暴言を吐かせないためのやり方だ。
客がコールセンターに電話してスタッフが出るまでの間、日本では「この通話は~録音させていただきます」となるところ、韓国のある企業はこんなアナウンスを流すことにした。
子供の声で「今から私が世界で一番好きなママが対応します」
中年男性の声で「やさしくてまじめなうちの娘におつなぎします」
若い男性の声で「愛するうちの妻が対応します」
こんな保留音を聞かせることによって、これから対応するスタッフにも、大事な家族がいることを相手に気づかせて感情をクールダウンさせようとした。
「この先制パンチはいいですよ! 韓国人は熱しやすくて超冷めやすいんです。こんな声を聞いて頭を冷やしたら、言葉を選ぶ人もいます。作戦勝ちですね」と知人もこのやり方を絶賛。
この対応はうまくいって、ある会社のアンケートではストレスを感じていると答えたスタッフは79%だったのに、保留音を導入した後は25%に激減。
自分が尊重されていると感じると答えたスタッフが、0%から25%に増えたというのは、むしろベースラインに韓国社会の過酷さを感じさせられる。
「この通話はサービス向上のため録音させていただきます」
「私が世界で一番好きなママが対応します」
このアナウンスの違いに真面目な日本人と、情に訴える韓国人の”らしさ”が表れている。
仕事にサラリと情を混ぜて、相手に譲歩を求めるところが韓国人にはあると思う。
韓国に住んでいる日本人の記者がオンラインでビザの延長を申請したところ、1カ月近くたっても完了の連絡がない。
遅いなあと思っていたら、担当者から手続きの遅れをわびるメールが来て、そこにはこう書いてあったという。
「週6日以上働いていて、休日も自宅で処理をしています。睡眠時間も削っているんです」
ソース:産経新聞のコラム「ソウルからヨボセヨ」(2023/4/11)
個人的な知り合いじゃなくて、役所の人間がこんな「頑張ってますアピール」をすることは日本ならない。
こうをすれば韓国では、「ならもう少し待とう」といった誠意ある呼応が期待できるのだろうけど、日本人なら「そっちの事情なんて知らん。言い訳してるヒマがあったら、さっさと手続きを進めろ」となる予感。
「私は寝てないんですよ!」とテレビカメラの前で言ってしまい、日本中からぶっ叩かれた大企業の社長もいた。
日本の会社も韓流クレーム対応を採用して、「今から愛するうちの妻が対応します」と流したらどうなるか?
「仕事に私情を持ち込むな!」と、かえって怒らせる人のほうが多くなって失敗する気がする。
まあ何を言っても、「クソ素人が来たなと思った」を下回る対応はない。
これがその音声らしい。
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