天使に翼がある理由 

 

アフリカ人と一緒に『浜名湖ガーデンパーク』を歩いていると、彼が「なあ、あの女の子たちは何なんだ?」と言って指をさす。
その先にいたのは、天使だった。

 

 

この日はハロウィンに近い週末だったから、親が娘に天使のコスプレをさせて、きれいな花と写真を撮っていたのだろう。とボクは思ったのだけど、キリスト教徒のアフリカ人としては「う〜ん」とビミョウな様子。
彼の考えでは、天使の最大の特徴は背中に羽があることだから、この姿ではよく分からないらしい。
ドンキに行けば、2つの大きな羽のある「天使セット」が売ってる気がするけど。
(そもそも、これが天使のコスプレかは分からない)

 

これはカンペキな天使

 

天使はイスラム教でも出てくる。
洞窟でムハンマドが瞑想にふけっていると、大天使ジブリール(ガブリエル)が現れてアッラーの意思を伝えたことで、イスラム教の歴史がはじまった。

 

たしかに、背中にある2つの羽は天使を特徴づける重要アイテムで、これさえ付ければ天使っぽく見える。
ところで、この羽の「元ネタ」をご存だろうか?

新しいデザインをゼロから考案することはとてもむずかしい。
だから、デザイナーがすでに存在するものからインスピレーションを受け、それに独自のアイデアや表現を加えて新しいデザインを創作することはよくある。
たとえば、ホンダのバイクやナイキのロゴは、勝利の女神「ニケ」をイメージして作られた。

【勝利の女神】NIKEにホンダ… 世界中でニケが人気のワケ

 

ルーブル美術館にある「サモトラケのニケ」

 

紀元前5世紀ごろに描かれたニケ

ニケは一般的に翼を持っているが、それがないニケもあった。
アテナにあった翼のないニケについては、女神をアテナに留めておくためだったとする説がある。

 

古代ギリシアでは、芸術、音楽、戦争、運動競技など、さまざまな分野での「勝利」がニケとして擬人化され、それが女神として神格化された。
サモトラケ島で発見されたニケの像は、海戦に勝利した後、女神ニケが空から降りてきて、船首に立ったことをイメージしているという。

現代の世界には、戦争にもルールがあり、国際法によって捕虜や民間人は保護しないといけないことになっている。
でも、はるか昔の戦いでは、敗戦国の人々は殺されたり、奴隷にされたりした。
地中海世界の覇権がギリシアからローマに移ると、勝利の女神ニケは「ヴィクトリア」になったとされている。
紀元前3世紀、ローマがポエニ戦争で、最大のライバルであったカルタゴを破ったときに、初めてヴィクトリアが登場した。
戦いに勝って戻ってきた将軍は、ヴィクトリアに感謝の祈りを捧げる儀式を行うことがローマのお約束となる。
ヴィクトリアは戦争の勝利に特化した女神だったらしい。

 

戦車をあやつるヴィクトリア(西暦 100 ~ 200 年)

 

ヴィクトリアの2つの翼はやがて勝利のシンボルとなり、ローマの建築物にデザインされるようになった。
しかし、4世紀ごろ、ローマ帝国でキリスト教が支持されるようなると、ローマ神話の神々は社会から排除されていく。
だがしかし、ローマ世界がキリスト教化していく中でも、ヴィクトリアの「勝利の翼」(Winged Victories)は残り続け、キリスト教で天使の姿をあらわすために使われるようになった。

Pairs of winged victories continued to appear after the Christianization of the Roman Empire and gradually evolved into depictions of Christian angels.

Victoria (mythology)

トラヤヌス帝の門に描かれた勝利の翼

 

ヴィクトリアは勝利の女神として人気があったが、キリスト教の考え方からすると、異教の神だからその存在は消さないといけない。
でも、ローマ人は完全に無くすことを嫌がった。
それで、翼を「勝利の精神」と見なし、それを天使の背中にくっつけて、何とか勝利の女神を残そうとしたのだと思う。
そのへんの正確なことは古代ローマ人に聞かないと分からないが、天使の羽のルーツをたどると、勝利の女神ニケにたどり着くことはまず間違いない。
あの女の子たちも翼をさずかっていれば、アフリカ人から見ても天使だった。

 

中世のヨーロッパで、キリスト教軍の守護者として兵士から崇拝された天使ミカエル。
勝利の神としてのニケやヴィクトリアの面影が残っているような。

 

 

キリスト教 「目次」

ミカエルってどんな大天使? 日本の守護聖人になった理由

仏教とギリシャ神話の共通点 “三途の川”で欧米人が思ったコト

ヨーロッパ人が思う神道とキリスト教の違い:神・聖人・奇跡

【閻魔とサタン】仏教とキリスト教の“王”、その共通点と違い

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。