宗教的には「無色透明」と言っていい日本と、イスラム教の影響が圧倒的なパキスタンでは、まったく違う価値観をもっている。
最近あった選挙戦から、そのことを書いていこう。
地理的も感覚的にも遠い、日本とパキスタン
きょねん SNSで、友だちに「イスラエルがパキスタンに侵攻した」と言ったら、激しくバカにされたと投稿した人がいた。
パレスチナとパキスタンは語感が似ていて、どちらも日本から遠いから、両者をごちゃ混ぜになっている人は意外と多いかもしれない。
パキスタンもパレスチナもイスラム教の影響がとても強く、社会の価値観は日本とは銀河系レベルで違う。
最近、その差を強烈に感じさせる出来事が日本で起きた。
前橋市長選に驚く日本人
きのう、「悪名は無名に勝る」を実感した。
前橋市長を務めていた小川晶(あきら)氏は、既婚の男性職員と何度もラブホテルに出入りしていたことが発覚した。本人は「打ち合わせだった」と主張したが、世論の反発を受けて辞職し、市長選が行われることになった。
ところが、その選挙で小川氏は4人の新人候補を破り、きのう再び市長の座に返り咲いたのだ。
このまさかの結果に驚く人は多かった。
・民間ならこんなんありえないぞ絶対
・色ボケのオッサン大杉やろw
・前橋市の民度どうなってるのこれ?
・前橋、めっちゃ民度高い
メディアに振り回されずに、誰が市長として有能かで判断してるからさ
・完全にビジュアルだよな
可愛いはどんな困難にも勝てる
「ラブホ密会」というスキャンダルで注目が集まり、それを知名度向上につなげたことが成功要因のひとつにある。
実際、選挙活動中には、握手や写真撮影を求める人の列ができていたという。
有権者は道徳性の高さより、「政治的な有能さ」を重視して投票したのだろう。
女性政治家に衝撃をうけるパキスタン人
昨年末、日本の大学に留学しているイスラム教徒のパキスタン人と話していたとき、この市長選の話題が出た。
パキスタンでは、ベナジール・ブット氏のように女性首相が誕生した歴史もある。だから、女性市長ということ自体に驚きはなかった。
しかし、既婚男性と何度もホテルに入った女性政治家が、再び選挙に立候補したという事実には完全に言葉を失っていた。
これは多くの日本人にとっても衝撃的で、「鋼どころじゃない。オリハルコンのメンタルだ!」と称賛する(あきれる)人もいた。
イスラム社会における「ズィナー」の重さ
パキスタンは国民の大多数がイスラム教徒のイスラム社会だ。
イスラム世界では、日本でいう不倫は「ズィナー」と呼ばれ、宗教的にも法的にも極めて重い罪とされる。
パキスタンでは男女がホテルの同じ部屋に入った時点で、疑惑ではなく、「クロ(事実)」と認定されるという(日本も普通はそうだけど)。女性の政治家が当事者なら、ただ辞職するだけでは絶対に済まない。
彼が考えた結末は、大きく分けて2つある。
シャリーアにもとづく裁判と死刑の可能性
ズィナーは神の教えに背く重大な罪だから、それをした人間は警察に捕まり、シャリーア(イスラム法)にもとづく裁判を受けることになる。
その結果、姦通罪が認められれば、最悪の場合は死刑判決が下される可能性もある。
名誉殺人という私的制裁
実際には、裁判より先に私的制裁が行われるケースも多いという。
イスラム社会では、女性の貞操は「家族の名誉」と強く結びついている。そのため、ズィナーは一族や部族、または村全体の「恥」と見なされる。
「汚された名誉」を回復するため、家族や共同体の手で当事者が殺害されることがある。これが「名誉殺人」だ。
パキスタンでは毎年数百件が報告されているが、実際の件数はさらに多いと考えられている。
昨年7月には、駆け落ちしたカップルに対し、部族会議が死刑を言い渡し、実際に執行された事件もあった。
パキスタンの名誉のために言うと、こうした人命を軽視する価値観に反対するパキスタン人も多い。
女性政治家に向けられる厳しい視線
パキスタンでは、女性が社会で活躍すること自体に否定的な人もいる。
2007年には、パンジャーブ州の女性大臣が射殺された。
犯人は「イスラムの服装規定を守らず、女性解放運動をしていたからだ」と動機を語っている(Zille Huma Usman)。
日本とパキスタン社会の価値観の違い
彼の話を総合すると、女性政治家がズィナー(不倫)をした場合、最も「運が良い」ケースでも警察に拘束されることで、現実には、一族に殺害される可能性のほうが高い。
もし、パキスタンで女性がズィナーを犯したら、私的制裁から逃れるために、できるだけ早く警察に捕まったほうがいい。それが「命を守る行動」になるというのが彼の意見だ。
仮に刑務所から出られても、「神の教えに背いた者」としてコミュニティから完全に排除されるから、遠くへ逃げて人生をやり直すしかない。
しかし、その後も親族に命を狙われるかもしれないから、彼が考える「最善」は海外へ亡命することだ。
知人の個人的な意見だが、もしパキスタンで女性政治家が不倫をしたら、法的な禁錮刑を受けるか、家族によって殺害されるかの2択になる。どちらにしても、社会に居場所は無くなる。
そんな価値観や常識を知るパキスタン人にとって、「ラブホ密会」して辞職した女性政治家が再び市長選に立候補し、堂々と選挙活動をおこなう光景は、まったく理解できないものだった。
日本では海外に亡命するどころか、そんな女性が公の場で市民から握手や写真撮影を求められ、また市長に選ばれた。しかも圧勝で。
日本とパキスタン(イスラム)の価値観や文化の違いとして、これほどわかりやすい事例はなかなか無いだろう。

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