パレスチナ問題で、日本大好きエジプト人が伝えたいこと

 

今月7日、イスラム組織ハマスの奇襲攻撃によって、イスラエル軍との激しい戦闘がはじまった。
28日の時点で、ガザ地区とイスラエル側を合わせた死者の数は9000人を超えたという。
そんな悲劇が起こっている最中、以前ネットで知り合い、いまは日本の大学に留学しようとしているエジプト人の女子高生から、こんなメッセージが届いた。

「I really love Japan and I’m preparing for college application in Japan, but when I go there, I don’t want to see people standing with the wrong side of the story.」

(わたしが大好きな日本へ行ったとき、日本の人たちが間違った側についているのを見たくないのです。)

彼女はイスラム教徒で、率直に言ってイスラエルが大嫌い。
パレスチナ問題については、以前からパレスチナやハマスを支持しているから、日本人も自分と同じ見方をしてほしいと願っている。

このエジプト人女子高生からすると、イスラエルの味方をしている人は、誤ったメディアの情報によって「brainwashing(洗脳)」された被害者だ。
彼女は「あなたはきっと正しい知識を持っていると思いますが、念のためにパレスチナ問題の真実を伝えたい」という一方的な善意から、次々と動画を送ってきた。
動画の量が多すぎて、これを全部を見ていたら、『葬送のフリーレン』を見る時間が無くなってしまう。
いくつかの動画を見た印象では、彼女はボクにこんなことを伝えたいらしい。

アラブ人はパレスチナで平和に暮らしていたのに、突然イスラエルが建国され、多くのアラブ人が追い出され、住む家を失った。
しかし、これは終わりではなく、大きな困難の始まりだった。
その後、イスラエルは侵略者となり、パレスチナ人(パレスチナに住むアラブ人)の土地をどんどん奪っていく。
イスラエルに正義はないが、彼らは強力な軍事力を持っている。
一方、パレスチナ人は武力では圧倒的に劣勢だが、それでも必死に抵抗し、生命や財産を守っている。

上この内容については、個人的にはいくつかツッコミどころがある。
まず、イスラエルが建国された直後、国連決議を無視して、イスラエルに戦争を仕掛けたアラブ側の責任は免れない。
でも、全体的には、国際法違反の指摘を無視してパレスチナ人の土地に入植を続け、領土を拡大しているイスラエル側により大きな責任があると思う。

ただ、「ハマス=パレスチナ」ではない。
それに、ハマスによる今回のテロで、多くのイスラエルの民間人を殺害したり拉致(abduction)したりしたことを正当化するのは不可能だ。
エジプト人にそのへんについてはどう考えているのか聞くと、彼女はこんなメッセージを送ってきた。

「About killing and abduction, first Muslims do not kill hostages, Muslims do not kill for no reason, and do not treat hostage and innocents in a bad way」

まず、イスラム教徒は人質を殺さない。イスラム教徒は理由もなく殺人を犯さないし、人質や罪のない人にひどい扱いはしない。
彼女はその“証拠”として、カナダに住むパレスチナを支持するアラブ人女性が”真実”を話す動画を見てほしいと言う。

 

 

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イスラエルがガザ地区の学校や病院を爆撃している間、ハマスは人質に食べ物や飲み物、それと快適に眠ることのできるスペースを提供した。
この女子高生の意見は動画のアラブ人と同じで、ハマスはテロリストではなく、レジスタンスと主張している。ガザを攻撃し、多くの子どもやお年寄りを殺害するイスラエルこそテロリストだと彼女は考えている。
でも、そもそも論として、まずハマスは人質を解放するべきだ。
刃物で相手を刺した後に、「われわれは手厚い治療をしている!」とアピールしても意味はない。

 

多くの日本人がいまパレスチナで起きている問題に興味を持っているけれど、このエジプト人と同じぐらい熱心な人はほとんどいない。
SNSでは、イスラエルを悪魔のように非難し、懸命にハマスを擁護する日本人もいるが、それは本当に例外的なケースだ。
多くの日本人は冷静にパレスチナで起きていることを見ている。
彼女から見れば、日本人は全体的に“間違った側”についてはいないけど、きっとすごく冷めている。
彼女が大好きな日本に来て、「無関心」にショックを受け、知り合った日本人に“真実を知らせる”ために、動画をバンバン送り付けるようなことをしなければいいのだけど。

 

パレスチナを支持する人たちで埋め尽くされたロンドンの一角

 

 

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2 件のコメント

  • 例え親日穏健派のムリスムでも、我々(異教徒)の価値観を真に認めている訳ではないという証でしょう。
    ハマスが異教徒であるイスラエル人や巻き込まれた観光客に危害を加える行為もそれほど悪い事とは思っていないでしょう。
    日本人として気を付けなければいけないのは、近代法治国家の価値観が全ての地域で通用するわけではないということですね。

    イスラム教と他宗教との違いについては、イスラム思想研究家の飯山陽さんの解説が分かりやすかったですよ。
    要点を上げると、イスラム教以外の開祖自身(イエス・ブッダ等)は政治と距離を置いていたが、ム○ンマドは迫害してきた多神教徒を滅ぼして政治家としても大成功したこと。
    そのため、前者の教えは政教分離を進めて他宗教との共存も可能にした事に対し、後者は統治機能と深く結びついて他宗教との共存など考えていない事(ムリスムでなければ二等市民の上、異教徒国家でも教化を続けようとする)。
    ム○ンマドが教典の修正を禁じた為、以降の指導者らが解釈を歪めて一般教徒へ伝える事で他宗教と折り合いを付けて来たけれど、SNSの発達で原典に誰でもアクセスしやすくなって事(原典通りに解釈すれば、ISILなど過激派の行動が正しくなってしまう)。

    当時最新とはいえ、7世紀初頭の常識をアップデートしないまま現代に生きている人たちですからねぇ。
    因みに穏健派の人たちは、異教徒国家もイスラム教に改宗すればもっと良くなるという考えです。今までの良さが消えるとは思いもよらないでしょう。
    善良なムリスムでも多数派になって来れば、間違いなく日本のイスラム教国家化を狙いますよ(既にEUではそうなりかけている)。

  • 自分の考え方を絶対正義と考える人間はどの集団にも、日本にもいます。
    それは例外で、一般人は違いますが。
    ハマスは同じパレスチナ人の組織PLOとケンカするほど特殊な考え方をしていて、パレスチナ人を代表する組織ではありません。
    PLOは支持できてもハマスは嫌いというイスラム教徒もいます。
    ISILについても同じで、あんな過激派と一緒にしないでほしいというイスラム教徒は多いです。
    ヨーロッパでは公共の場でヒジャブやブルカの着用が禁止されたり、コーランの焼却が裁判所に認められるなど、イスラム教徒が住みにくい国になっています。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。