【韓華思想】日本と韓国で、歴史対立が終わらない理由

きょねんのこの時期、韓国では安重根をテーマにした映画『英雄』が上映されていた。
日本と韓国にとって、安重根は本当に微妙で象徴的な人物だ。
彼が「伊藤博文を殺害した人物」という点では、日韓の認識は一致しているが、その解釈についてはまさに正反対。
韓国では伊藤博文が「朝鮮侵略の現況」とされているから、その人物を“除去”した安重根の行為は正義と見なされ、彼は「義士」として尊敬されている。
一方、日本ではこんなふうに呼ぶ人もいるから、韓国側を刺激する。

中央日報の記事（2023.01.02）

安重根義士をテロリストと言う日本のネットユーザーに徐ギョン徳教授「歴史教育を受けていないため」

しかし、この見方はネット民だけのものではない。
2014年に、当時の菅官房長官が記者会見で「安重根はわが国の初代首相を殺害し、死刑判決を受けたテロリスト」と述べていている。
これが日本の“公式見解”と言っていい。
政治的な動機で元首相を殺害する人物がいたら、その犯人を「テロリスト」と呼ぶのは世界では常識的だ。

でも、韓国ではそれがなかなか通じない。
韓国の義士を日本人がテロリストと呼んだことに対し、ソ・ギョンドク教授は次のように指摘する。

「日本のネットユーザーのこのような反応はちゃんとした歴史教育を受けていないため」
「日本政府が正しい歴史教育を施行する必要がある」

そして、「日本の歴史わい曲」を正すために、韓国側は積極的に努力する必要があると強調した。

過去の歴史に対する日韓の認識は真逆で、まさに水と油、と言うよりは「火と油」で、接するとすぐに炎上してしまう。
だから、上のようなやり取りは数十年以上も前から続いていて、韓国ウォッチャーからしたら、いつもの光景の一つでしかない。
たとえば、20年ほど前には中央日報にこんな記事があった。（2005.02.18）

「日本、歴史教科書のわい曲を中断せよ」

当時、韓国の国会議員が、日本に歴史教科書は“わい曲”しているという理由で、その中断を求める決議案を国会に提出した。
これを行ったのは、「正しい歴史教育のための議員の会」に所属する、約80人の与野党の議員だから、この考え方は政党の違いを超えて、韓国の常識を反映していると考えていい。
彼らは決議案で、歴史教科書のわい曲によって、日本は「国際社会で日本を孤立させる結果を招く」と警告し、韓国は「政府レベルで対処すべき」と提言した。

こんなことは「日韓あるある」で、歴史をめぐる対立は終わる気配がまるでない。

さて、数日前、「中華思想」についての記事を書いた。
中国には、わが国は世界で最も進んだ文明国であり、その文化や思想は神聖なものであると考える中華思想があった。
だから、19世紀の帝国主義の時代になっても、西洋列強に本気で学ぼうとせず、それが一因となって清王朝は滅亡した。
対照的に、日本は欧米を先進国と認め、その文明や文化、制度を謙虚＆真剣に学んだ。
それによって、日本は近代国家に生まれ変わり、日清戦争に勝つことができた。

【中華思想】日本は近代化に成功し、中国が失敗した原因

中華とは「世界の中心」を意味する。
そんな中華思想の考え方によると、中国は世界最高の文明国だから、外国が中国に学び、その思想や文化を受け入れることはあっても、その逆はあり得ない。
伝統的な中国人の考え方では、他国が中国化することが「文明化」になる。
中国が中華思想から抜け出して、真剣に他国から学び、自国を変えようとしたのは日清戦争で負けてからだろう。

話を戻すと、日韓の歴史論争については、韓国にも中華思想と同じような考え方がある。
自国の歴史認識こそが唯一正しく、日本の認識が誤っていると信じているから、「歴史わい曲」と一方的に日本を非難する。
自分たちは正義の側にいて、日本は悪という道徳的優位に立って発言するから、「日本国民はちゃんとした歴史教育を受けていない」「日本政府が正しい歴史教育を行う必要がある」といった、日本人からすると上から目線の言葉が飛び出す。

2022年にも、日本の歴史教科書について、韓国は「歴史的事実がわい曲された」と非難し、そんな教科書で学ぶ日本の小中高校生は「誤った歴史の価値観を持って成長する」と懸念を示し、「北東アジアの平和と和合を妨げ、日本の国際社会での孤立を招く」と警告した。

かつての中国は、他国が中国化することを文明化と考えていた。
そんな中華思想のように、いまの韓国も日本の歴史認識が韓国化することを「国際化」と見なし、アジアの平和につながると考えている。
しかし、日本はそんな「韓華思想」を受け入れないから、日韓はいつまでたっても「火と油」のままだ。
日本は世界から孤立していないから、歴史認識を変える必要性がない。
日本の教科書で、安重根を「義士」と表現することは不可能だ。

ただし、日本は韓国に対して、自国の見方を押し付けることもしない。
日本の議員が、「韓国の歴史教科書は事実がわい曲されている」と非難し、中断を求める決議を国会に出したことない。
また、そんな教科書で学ぶ韓国の小中高校生は「誤った歴史の価値観を持って成長する」と懸念し、「北東アジアの平和と和合を妨げ、韓国の国際社会での孤立を招く」と警告したこともない。
韓国のネットユーザーが安重根を「義士」と呼んだとしても、「ちゃんとした歴史教育を受けていないからだ」と批判する教授もいない。
日本は自分たちの意見を主張するだけで、韓国の歴史認識を日本と同じものに変えようとはしない。
「日華思想」なんて無いから。

19世紀の中国では、中華思想は近代化の邪魔になるという認識があったから、そこから抜け出すことができた。
一方、いまの韓国では「韓華思想」は国民をまとめ、政治家はそれによって支持を得ることが期待できる。
メリットが多いから、韓国側がこれを手放すとは思えない。
だから、歴史をめぐる日韓の対立はこれからも続くはずだ。
ただ、現在の尹大統領は歴史論争にはウンザリの様子で、それはいったん棚上げにして、日韓友好を優先しているようだ。
この路線が現実的だと思うが、大統領が変わったらまたどうなるか分からない。