朝鮮語にハングル試験だと? 韓国人が日本で感じた不満

 

10年ほど前、日本にいた知人の韓国人(20代の女性)が「大学に行ってみたい」とリクエストしたから、母校の京都大学、おっと京都にある大学へ連れて行った。
キャンパスを散策して「ウチの大学と違ってきれいですね。ゴミが落ちてない」と感心していた彼女は、こんな外国語のスケジュールを見てフリーズした。

 

 

「なにこれ…」と驚きの表情を浮かべ、「この大学では韓国語じゃなくて、北朝鮮の言葉を学んでいるのですか?」と聞いてくる。

それってどっちも同じでは?
朝鮮半島は戦後になってから、38度線を境に南北に分かれ(別れ)、それぞれ韓国と北朝鮮が成立した。でも、それまでは1000年以上も同じ国として存在し、どちらも同じ民族として同じ言葉を話していたはずだ。
この第二外国語は韓国の言語のことだろうけど、表記は朝鮮語でも韓国語でもどっちでもいいのでは?

カジュアルにそんな話をすると、

「いやいや、それは違いますよ。韓国と北朝鮮では使っている言葉は別です。韓国語なら“韓国語”と書くべきですよ!」

と真顔で反対され、今度はこっちがビックリするターン。
韓国語も朝鮮語も文法や基本的な単語は同じで、彼女が北朝鮮の言葉を見たり聞いたりすれば、意味を理解できる。
もともとは同じ言語だったのが、独立後に北朝鮮では公用語を「朝鮮語」、韓国では「韓国語」と呼ぶようになったことで、現在の分裂がうまれた。
戦後数十年の間に両国で言葉が発展をとげ、いまの韓国と北朝鮮では独自の発音や単語があるという。

といっても、それは「方言」ぐらいの違いだから、世界的には「同じ言語」としてジャンル分けされる。
戦後の韓国と北朝鮮では、アイデンティティや愛国心も形成されるようになり、韓国にとっては「韓国語」、北朝鮮では「朝鮮語」が正しい呼称と認識されるようになった。
いまから思うと、彼女にとって朝鮮語は「敵性語」のような響きがあったかもしれない。
それなら、あの反応も納得がいく。

 

そんなことがあってから時間が流れ、2年ほど前、日本にいた20代の韓国人男性と話をしていると、彼は日本の「ハングル」という表現が好きじゃないと言う。
韓国人は一般的にハングルに愛着や誇りを持っているけど、この場合はちょっと違う。
外国人の日本語スキルを判断するために「日本語能力試験」があるように、韓国語には「韓国語能力試験」があったなら、彼に不満はなかった。
でも、日本にそんな試験は存在しない。
韓国語の能力を測る試験は「ハングル能力検定試験」というから、彼としては失望感が避けられない。

1965年に日韓が国交を回復すると、日本は韓国を「朝鮮半島における唯一の政府」と見なすようになる。
その後から、韓国国内で使われている「韓国語」という表現が日本でも広まってきて、「朝鮮語」を使う機会は減っていった。しかし、消えることはなかった。

1980年代に、NHKが語学番組の「朝鮮語講座」を制作しようとした際、これが問題として浮上する。
日本にいる北朝鮮寄りの人たちは「朝鮮語」という呼称を使うべきと主張し、韓国寄り人たち力は「韓国語」を用いるべきだと訴え、NHKは板ばさみの状態になった。
NHKは当初、「朝鮮語講座」という番組名に決めていたら、韓国側から「ちょっとマッタ」と言われたらしい。
それで苦肉の策として、文字の名称を使った『ハングル講座』が爆誕。
韓国でも北朝鮮でも文字はハングルと呼ばれているから、これなら中立的だ。
ある年の大学入試センターで「朝鮮語」という言葉が使われ、韓国サイドから抗議がきたこともあった。
政治的中立性は大事だ。

このような事情から、韓国人の彼は「韓国の言葉はハングル語」と誤解する日本人がいると文句を言っていた。
「韓国と朝鮮はまったく別の国です。韓国の言葉なら、“韓国語”と書くべきですよ」と、どこかで聞いた言葉をまた聞かされた。
たしかに、『ハングル講座』だと『ひらなが・カタカナ講座』と同じで文字の学習になってしまう。
しかし、正確性よりも、「どこからも不満が出ない」ということを重視したら、これ以上の最適解はない。
ここで出てきた2人は一時的に日本に住んでいた韓国人だから、昔から日本にいる韓国人に聞けば「ハングル講座」を支持すると思う。
中立は平和に通じる道だから。

 

日本にある大学が「朝鮮語」や「韓国語」、または「朝鮮語(韓国語)」や「韓国語(朝鮮語)」という表現を使ったら、きっと講義がはじまる前に抗議がくる。
かといって「ハングル」は微妙だから、上智大学や法政大学などでは「コリア語」を使っている。
このへんの事情は複雑だ。
韓国で「韓半島」と呼ぶ地域を日本では「朝鮮半島」と呼んでいて、「コリア半島」と呼ぶことはない。
韓国社会では基本的に「朝鮮」という言葉の使用は避けられているけど、韓国最大の全国紙の名称は「朝鮮日報」だったりする。
日本でこの呼称問題はいまも“地雷”だから、気安く触れられない。

 

 

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3 件のコメント

  • 日本は古代から今まで国名が日本なので簡単には理解できませんが、朝鮮と韓国は確かに違います。 韓半島では古代最初の国家である古朝鮮から三国時代(高句麗、百済、新羅)を経て高麗という国が建てられ、高麗時代に活発な海外貿易活動を通じて世界に知られた名前が高麗の発音である(Korea)です。そして朝鮮は高麗を易姓革命で覆して作った国です。
    したがって、高麗と朝鮮も互いに違う国であり、朝鮮は日帝に併合されて消えた国です。 その日帝が敗亡して退いた後、UN(国連)の監督の下に建国した国が大韓民国、すなわち韓国です。
    だから朝鮮と韓国は完全に違う国です。 もちろんそこに住んでいる人種は同じですが、国の体制が異なり国名が違うので、現在の大韓民国と朝鮮を同じ国と見なすべきではありません。 それで朝鮮語ではなく韓国語が正しい表現です。
    もし現在の「日本語」を「倭語」と呼んだら日本人は気分を害するでしょう。

  • 日本では、「韓国語」と「朝鮮語」のどっちを使っても批判されます。
    だから、中立的に「ハングル」や「KOREA」と言うしかないです。
    実際には韓国の言葉を学ぶから、韓国人にとっては不満でしょうね。

  • 日本の大学にはまだ、”北朝鮮=地上の楽園”と考える人々がまだいると思う。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。