右翼化? 日本の歴史教科書で、韓国側が“わい曲”と怒った内容

 

最近、日本の文部科学省が2つの中学生用の歴史教科書について、「検定に合格しました!」と発表すると、さっそく韓国側で激しい反応があった。
保守系の全国紙・中央日報はトップニュースでこう伝える。(2024.04.20)

日本、「加害の歴史」美化、「慰安婦は報酬受けて働いた」と歪曲…教科書が追加合格

進歩派のハンギョレ新聞は中央日報と立場が違い、対立することもあるけれど、この点では完全一致だ。(2024-04-20)

「慰安婦」動員の強制性を否定する日本の教科書、検定で追加合格

 

では、両紙が「極右」「右翼史観」と怒った内容を確認しよう。

・教科書には、植民地支配や国権侵奪に対する美化が含まれている。
・日本の安全保障のために「朝鮮半島の安定が必要と考え、日本が主導して朝鮮の近代化を進めようとした」と書かれている。
・日本による朝鮮統治が深まるきっかけとなった、1905年の第二次日韓協約(韓国では乙巳勒約)についてこんな記述がある。

「保護条約締結において大韓帝国の高宗(コジョン)皇帝が朝鮮が実力を備えた時に条約を撤回しようという意味を付けるよう要請し、伊藤博文が加筆して皇帝は満足した」
「大臣の一部が調印に反対したが、皇帝が説得して調印にいたった」

韓国の歴史認識では、日本が無理やり皇帝に乙巳勒約を結ばせ、主権を奪ったと考えられているため、皇帝が同意したという真逆の内容は「歴史のわい曲」となる。
また、教科書では以下のように、日本によって韓国が近代化されたと強調している。

・大韓帝国の財政が破綻状態になると、日本は「無利子、無期限財政支援」をした。
・多くの学校を開設し、日本語と共に当時使用頻度が減っていたハングル教育も行った。
・朝鮮総督府は土地調査を行い、鉄道、ダム、上下水道、病院、電話、郵便など社会基盤を整えた。

韓国側の認識では、日本による過酷な統治によって民衆は極度の貧困状態に置かれ、日本語教育を強要された結果、民族文字であるハングルを奪われたとされている。
そんな暗黒時代だったはずなのに、こんな光の面を強調することは「わい曲」にほかならない。

 

 

上のバス停に書いてあるように、日本の韓国併合は「不法」だったというのが韓国側の立場。今回の歴史教科書に、その記述がなかったことにもお怒りの様子だ。
しかし、日本政府は日韓併合を「合法」と主張しているから、日本の歴史教科書で「不法」と記述しているものは無いはず。日本にとってはそれこそ「歴史のわい曲」で、文部省の検定に通るとは思えない。

 

中央日報とハンギョレの両紙が指摘(指弾)した、慰安婦問題と元徴用工問題のわい曲ポイントは以下の通り。

・「日本軍が朝鮮の女性を強制連行した事実はなく、報酬を受けて働いた」という記述があり、朝鮮人徴用工についても同じことを書いている。
・教科書には「蒸し返しする韓国の請求権」というタイトルのコラムがあり、1965年の日韓請求権協定で韓国が賠償請求を放棄したにもかかわらず、現在でも韓国が請求権問題を蒸し返しているとの記述がある。

韓国社会では、慰安婦と徴用工の人たちが強制連行されたことは不変の事実とされていて、否定することは許されない。
韓国メディアは、強制連行説の否定と韓国が請求権を蒸し返すという指摘について、「極右的」と特に強く非難しているから、もっとも受け入れがたく、腹立たしい内容だったらしい。

ほかにも、竹島(韓国名:独島)の領有権についても、教科書にはこんな記述がある。

「韓国は李承晩(イ・スンマン)ラインを一方的に宣言して竹島を占拠した」
「歴史上、朝鮮王朝が竹島を領有した事実はない」
「日本固有の領土で韓国は現在も不法占拠を継続し、竹島問題は未解決の状態」

 

韓国メディアは、こうした「右翼史観の歴史教科書」は2020年は7種のうち1種だったのに、今年は10種のうち4種に増え、「日本の歴史認識の後退」を示していると嘆く。そして、こうなった原因として、「歴史修正主義者」である安倍元首相の存在を挙げた。
しかし、日本ではすべてが逆転する。
文部省の検定に合格したという事実は、これらの歴史教科書に間違った記述は何もなく、政府の立場とも一致しているということを示している。

それに、韓国でも「植民地近代化論」を支持する人はいるのだ。
2021年に日本経済新聞の記事に、植民地の遺産が経済発展の基盤になったと語る韓国の大学教授のインタビュー記事が掲載されていた。
また、今年の2月には、韓国の政府機関(国家報勲部)に属する独立記念館の理事に、徴用工と慰安婦の強制連行を否定し、植民地時代に近代化したという説を支持した人物が就任した。
もちろん、このような主張は例外的で、韓国では一般的に近代化論は強く否定されている。

歴史認識について、日韓はお互い反対に映る“鏡の国”の関係にあるから、韓国側の「歴史認識の後退」という指摘は日本では進歩を表す。
2015年に日韓合意を結び、元慰安婦の人たちに「心からのお詫び」を表明し、日韓関係の前進に努力した安倍元首相を「歴史修正主義者」と非難する人たちと、日本政府の見方が一致することはありえない。
日本の歴史教科書に関心のなかった人も、これを機に情報をアップデートした方がいい。
645年に蘇我蝦夷が暗殺された出来事は大化の改新ではなく、「乙巳(いっし)の変」になったり、源頼朝が鎌倉幕府を開いたのはイイクニ(1192年)という説が否定されたりしていて、歴史は絶えず変わっているのだ。

 

中央日報とハンギョレ新聞の報道を見ると、今回合格した教科書について「加害の歴史を美化した」「歴史を歪曲した」と、すべての韓国民が怒っているような印象を受けるが、おそらく一般の人たちの関心は薄い。
同じ日、韓国最大の全国紙・朝鮮日報(電子版)がトップニュースに選んだのはこんな出来事だった。(2024/04/20)

「目を疑った」…スタバに大型モニター持ち込んだ迷惑客に韓国ネット民騒然

スターバックスで、ノートパソコンを使って作業をする人は日本でもいる。
でも、この客は大きなモニターを持ち込み、2つの席を占領して仕事をしていたから、韓国で非難が殺到。
一般の韓国民にとっては、海の向こうの教科書の内容よりも、こういう迷惑客の方が身近で大きな問題だ。
少なくとも、知人の韓国人はそう断言する。

 

 

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2 件のコメント

  • 中央日報やハンギョレの記者は同じ歴史教科書で勉強した人たちなので、日本の教科書を「歪曲」教科書と言うのは当然だと思います。韓国の教科書は日本の朝鮮支配を「不法」と教えるからです。そのように勉強した人々は「力の論理」が支配した当時の時代像を理解できず、ただ「被害意識」だけを持っています。彼らにとって日本は永遠の「悪」であるだけです。
    しかし、世界の常識は、日本の朝鮮支配を歴史上最もジェントルな統治であることを示しています。しかもそれは「植民支配」ではなく、日本の朝鮮「同化政策」でした。
    それを「加害の歴史」と表現するのは恩知らずの行為です。

  • 一般の韓国人は日本の教科書の内容なんて、関心がないと思います。
    日本と韓国の歴史認識は違う、ということを理解してくれるといいのですが。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。